タルト
「鬼灯が買いそこなったから腹が減った」
そう言って灰色の帯で締めた腹をさする。
てっきり鑑賞用の鬼灯を買おうとしていたのかと思っていたが、食用の方だったらしい。
「良かったら食べる?」
笹屋は手に持っていた紙袋から桃のゼリーを一つ少年へ差し出した。
風邪で旅行へ行けなくなったと、どこからか兄の耳に入ったのだろう。
詫びのつもりなのか昨晩、風邪の原因を作った兄が高級菓子店の桃のゼリーを一箱送って寄越した。
(どうしてゼリーなのか)
その選択をした兄に問いたい。
一人暮らしの笹屋に十二個ものゼリーは手に余る。
辻井と川野に押し付けてやろうといくつか持ってきたのだった。
辻井は幸いにも大の甘党である。
「桃だっ」
余程嬉しいのか、少年は両手で持って鼻先をゼリーに押し付け匂いを嗅いでいた。
「いや、密封されているから匂いはしないだろう」
それほど喜ぶのならばともう一つ渡してみた。
飛び上がらんばかりにはしゃぐ少年に笹屋も嬉しくなる。
「夕ご飯の後で、あっ」
笹屋が大人ぶった台詞を終いまで言う前に、少年はべりべりとゼリーの蓋を開け素手で中身を掻き込んだ。
品のある整った容姿なだけに野卑な行動には唖然とするしかなかった。
赤い舌で指を舐め、視線に気付いたか笹屋を見上げて満足そうに笑みを見せる。
「今食べる為にあげたんじゃないんだよ。行儀が悪い」
笹屋の言葉を意に介さず二つ目まで開けようとするので無理矢理取り上げた。
そこまで空腹とは考えもしなかった、これは与えた自分が悪いと笹屋は反省した。
少年の普段の食生活が心配になる。
「家に着いたらまたあげるから」
恨めしそうな顔を向けられてそう宥めた瞬間、違和を感じた。
少年の頭は先ほどまで腰の辺りにあったが、今は肩のところにある。
何かの上に乗っているのか。
足元を見たが下駄を履いた少年の足の下は平坦な石畳である。
「え?」
小学校の低学年くらいだった少年は中学生ほどの背丈になっている。
(そんなはずはない)
暗くて見間違えたのか。
(でも確かに小さかった)
記憶と現実の折り合いがつかない。
混乱のあまりに縁石に気付かず躓いてしまった。
「あっ」
地面へ激突を覚悟した時、思いもよらぬ強い力で腕を引っ張られた。




