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タルト
調子の狂った祭囃子が湿気を含んだ風に乗って届く。
雨が近いのかもしれない。
笹屋を草葉の奥へ隠し鶸は一人でキボネの列へ向かった。
あの列の中に金を貸している奴がいた。
「そいつを脅して、二人を盗ってやろう」
整った形をした爪を持つ指先で布の端を弄ぶ。
提灯の火を反射して鶸の目は硝子玉のように作り物めいていた。
「下手を打ちはしないさ。約束したからな。必ず助けてやる」
背を翻しキボネを追おうとする鶸の帯を咄嗟に掴んだ。
「どうかしたのか」
「いや、悪い。何でもない」
放した手のやり場に困り布を鼻先まで引き下げた。
鶸は特に何も言わず走って行ってしまった。
顔を上げると鶸の後ろ姿は草の谷間に消えていった。
心細かったわけではないと思う。
いくら対価を支払うとはいえ、何もせず鶸に頼りきりになっている。
胸の奥からじわじわと情けないという言葉が滲み出てきた。
だからといってあの正体不明の恐ろしいものに立ち向かうすべを知らない。
(ただ願うは皆が無事に帰ってきてくれることだけ)
しゃがみ込み絹の布をきつく体に巻き付けた。
肌寒さを感じていたので布の存在が有難い。
なめらかな布は仄かに白檀の香りがした。




