表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

扉の向こうへ

マイペースを通り越して、やる気のない頻度の更新が続きます。YATOです。

頭の中ではイオリロイメージが浮かぶのですが、なにせ優柔不断な性格であるもので、プロットを組み上げては崩し、組み上げては崩しの繰り返しで全く物語が進まんとです。

バクマンで服部編集長が言っていた言葉を思い出しますね...。

「何か飲む?冷えてるのもあるけど、あったかいやつの方がいいかな?ちょうどお茶を切らしてるからコーヒーしかないんだけど…砂糖は入れる派?」

正装…ではなだろうな。パーカーにジーパン姿だし、寝ぐせついてるし。もっとラフな感じだ。人の上に立つ人間って、もっといかつくて怖い人をイメージしていたんだけどな…。

 男に誘われるまま部屋の中へ通されるいなや、俺はホッとしてまだなにも言われていない内に、部屋の真ん中にあったソファに座り込んだ。

 それを何かの合図だと思ったのか、この部屋の主であろうパーカー男は部屋の中をカップやら砂糖やらを求めて行ったり来たりし始めた。


 座り込んだソファの生地は病人服の両サイドから露出する肌に触って気持ちが良かった。

 しかし豪奢と表現すればいいのか、一個人の部屋にしては随分小洒落た部屋に見える。

 洋風でいかにもな書斎机が最も存在感があるけど、その後ろの壁に掛けられた鹿?トナカイ?の頭の剥製とか、さっきからいろんなところから現れるティーカップやティーセットなんかもおしゃれな感じだ。

 その他にも俺の目を惹くものがいくつもあって、要は庶民である俺の部屋と比べるとそれはもう一線を画した雰囲気があった


 その中で今自分が座っているソファと、目の前にある低めのテーブルが妙にシンプルなのはきっと、そう意図されているのだろう。

 透き通ったテーブルのガラスと運び込まれて日の浅そうな座り心地のいいソファがそこだけビジネスライクな空間を作り出していた。


「コーヒーでお願いします。砂糖はそんなにいらないので、ミルクを多めに…」

「いかにも中学生、だね。」


 男は少し俺を嘲笑気味に笑うとどこから取り出したのかカップミルクを三つほど開けて、いつのまに注いでいたコーヒーの中に放り込んだ。

 言っておくが、 普段は断じてブラックだ。そう、心の中で反論しておく。中学生の頼むミルクコーヒーには砂糖だって死ぬほど入ってるだろうに。


 さっきから俺は心の中で無意識に男と呼んでいるが実際、彼はどのくらいなんだろう?映画で見るようなヘアスタイルに、やつれた感じの見えない肌からかなり若い印象がある。

 いいとこ新卒か大学生…もしかすると高校生なんてのもあり得るかもしれない。

 今のご時世、高校生で企業というのも難しくなくなったからな。

 とにかく俺とあんまり年が離れている気がしなかった。

 あくまで視覚的情報に頼った簡単な推測だけれども。


「どうぞ」


 目の前のテーブルに白い湯気の立ったマグカップが置かれた。

 そういえば、さっき随分と長い間カフェテリアみたいなところにいたけど、なにも飲んでいなかった。

 そう思うと、急に喉が乾いてくる。


「じゃあまあ、まずは自己紹介。僕は天霧倒也、よろしく」

マグカップに手を伸ばそうとした時に、唐突に男の右手が名刺とともに差し出された。


「はあ…」


 間が悪いというか、遠慮がないというか。


 名刺を受け取ると役職名なのかGM(ゲームマスター?)と書かれた下に「天霧倒也」とローマ字のルビ付きでプリントされている。


「倒也って珍しい字を書くんですね…。」


 正直、珍しいというどころじゃない。奇怪極まりない。毎日一回は転んでそうな名前だ。

 偽名やペンネームだろうか。


「あ、自分は谷川龍平です。」


 そういえば名乗ってなかった。


「逆に龍平はきっと平凡な字を書くよな。」

「まあ、はい。」


 今のは侮辱されたんだろうか。 

 天霧はまたあざ笑うような笑みを浮かべると、自らの手に持ったコーヒーを啜り


「やっぱりこの珈琲豆が入れ方に工夫は必要あれど、一番美味しいかな…。」


 などとおっしゃった。

 天霧が本人を前にして人の名前を小馬鹿にした態度を見せるのは気に食わなかったが、目の前の嗜好品の魅力と、喉の渇きには勝てなかった。

 俺も再びマグカップに手を伸ばすと、天霧に倣うように一口啜った。


たしかに美味しい…。


 コーヒーなんて即席で作れるインスタントのくらいしか飲んだことなんてない俺だったが、これは良いものだと差別化できるくらいには美味しかった。


「そうだろ?とはいえ、さっきも言った通り普通に淹れたんじゃここまでにはならないんだけど。」


 天霧はすでに飲み終えたのか、空のカップを手に名残惜しそうに俺のコーヒーを見ている。


「あの…自分ので良いなら飲みます?」


見つめられてると飲みづらいし。


「ん?ああ、いや今のはボーッとしていただけなんだよ。それに、僕はミルクが駄目でさ。」


天霧は少し慌てたように首を振った。


「アレルギーとかですか?」

「…単純に好き嫌いの話だよ」


あらまあ。

牛乳が嫌いな人なんて、俺の住んでいた地域じゃ生きていけなかったなあと思いながらもう一口啜る。

都内の公立校ではすでに昼食前に好きな飲み物を注文するのが認められているというのに。あのあたりでは未だに、昭和から続く牛乳伝説に縛られて給食に必ずついてきた。

冷蔵庫から出したばかりのようにキンキンに冷えていることだけが救いだったが。


「龍平ってそういうの気にする人だと思ってたけど」


 語る言葉は少なかったが、何が言いたいのかはジェスチャーから容易に推察できる。

 手を口に当てて、俺が「そっち」の人なのかと疑う天霧。

 さっきのショーンといい、この天霧といい、デリカシーが息してないよな、ここで会う人間は。

 人の、少なからずもの善意からなるに発言に対して、帰ってくる言葉がそれとはいかがなものだろうか。

 俺みたいな中学生—あと半年もすれば高校生になるが−でも返す言葉の良し悪しくらいはわかるのに。

 俺が本当に「そっち」の人であったとしても、今の発言は不適当だ。


「やだなぁ冗談だよ。そんな怖い顔しないでくれ」


…顔に出てたか。


「そんなことより…。さっきショーンって人が自分が聞きたいことがここにくればわかると言ってたので来たんですが」


 咄嗟にこのアホみたいに長い道のりをね。と付け加えようかなと思ったがやめておいた。

 俺がその話題を引き出すに至ると、天霧はちょっと気味が悪いくらいにっこりしてマグカップを机に置いた。

 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりか。


「まず、色々話を始めるに先に謝っておきたい。」


 俺は黙って聞いていた。


「僕たちが龍平の家に無断で立ち入った事と、龍平が気を失うことになったことについてだ。こちらの不手際だった。申し訳ない。」

「えーっとそれはどういうことなんです?っていうか、どういう意味なんですか?」


 いきなりそんなことを言われても混乱する。

 なぜ目が覚めたら子にいたのかと言う疑問ももちろんあったが、今の発言で聞きたいことが一つ増えた。


「もともと、ここには来てもらうつもりではあったんだよ。「昏睡状態」ではなく「睡眠状態」で、だけど」


 天霧が大きなため息をつく。

 そもそも、人を許可なく眠らせること自体ダメだと思う。

 本人の意思が伴ってない時点でほとんど誘拐と変わらない、というかれっきとした誘拐だ。


「龍平は自分がどれくらいあのベットで横になってたと思う?」

「えー。…半日とかとかじゃないですか。あまり眠らなくても平気な方なので。」


 事実だ。どんなに夜遅く寝ても、大抵は明け方くらいにぱっちり目がさめる。

 それが原因なのか、疲れが取れにくいタチでもあった。


「…2日だよ。それだけ長い時間、意識なく寝ていたんだ。」

「えっ...」


 自分の予想をはるかに上回る時間を聞いて、今まで脳内ツッコミに勤しんでいた俺の背中に寒気が走った。


 2日も寝てた?もし寝不足のせいだというなら、睡眠って大切だなと思うとこだけど。


「俺が2日も寝てたのが、あなたの責任っていうのは一体…」


天霧は一瞬苦そうな顔をしたが、言葉を濁すことはなかった。


「薬の分量をどこかの阿呆が間違えたのが大元の原因さ。まあ薬自体、あまり龍平とも相性が良くなかったらしいけど」

 

 薬って随分とあっさりと白状したなこの人。


 「薬って…ちょっと待って。俺が死にかけたのって、その薬を飲まされたからなんですか?そしてあなたがやったと?」


 もしそれが冗談とかではないのならば、俺は今俺を殺そうとした相手と相対していることになる。

 ...どこかにカメラとか回ってないよね?


「まあ、そうなるよね。ちなみに飲食物に混入したわけじゃなくて空調に細工をしてあったんだ。遅効性の睡眠薬みたいなものをね」


 天霧は俺のおどろいた顔をを見て、今度はまたにあのやけヅラを貼り付けて嫌な感じだ。

 なぜちょっと誇らしげなのか、理解に苦しむ。結局失敗したんじゃないのか。


「で、その薬で俺は単純に寝るはずだったのが、死にかけた…と」


 これで本当に死んでいたら納得はできないけど…今こうして息をしてるし生きてる。

 いっそのこと殺してくれた方が、面倒な世の中とはバイバイできたかもしれなかったが。

 それにどうやら俺の身動きできなかった2日間、何をするでもなく介抱してくれていたようだ。

 …少なくとも害意はないのか。


「でもなんで、そんなことをする必要があったんです?確かに俺は引きこもり体質ですけど、それは夏だからであってチャイムとか鳴らしてくれれば玄関まで出たんですけど」


 気味の悪い営業とかでなければ、別に門前払いなんて邪険なマネをした覚えは過去にもない。

 時々くる回覧板は夏子さんや省吾が家にいない時は俺も受け取っていた。


 もっと言うなら、親密な付き合いこそなかったが、住んでいた団地の大家さんである塚さんを筆頭とした団地界隈のおば様グループには割と好かれてたとも思う。


 多分省吾にも同じだったと思うが(団地は異常な子供ロスで高齢化がすすんでいたし)、どうも彼女らが俺に絡んでくる回数は比べて多かったように思う。

 まあよくも悪くも人から周りに粗相のある態度はしてなかったとういうことなのだが、どうやらこの天霧という男は周囲の俺の評判を鵜呑みにはしてくれなかったようだ。


「事情が事情だったからね。ピンポン押してこんにちはするつもりはもともとなかったよ」


 事情が事情ならって、それなりの事情なら人の事殺してもいいのかこの人は。

 ずいぶん恐ろしいことをさらっと言うんだな。


「もちろん、場合によってはそうしたさ」

「天霧さんみたいな人間が、玄関開けたら立っているって言うのもそれはそれで不気味ですけどね」


 そ皮肉は得意ではないが、なんだかカチンときたので一応噛み付いておく。

 まあ現実に起こったとして、玄関ベルに何事かと向かえばこんなアプローチのされ方。出迎えたものの反応は想像に難くない。


「…え?あぁ、そうだね。龍平実は君結構遠慮ないね?」


「いやまあ、今更遠慮も何もって...。あー...すいません」


 なんだかいつの間にか友達としゃべっているような感覚で話していた。

 不思議と警戒ができないっていうのはこの人の性格というか雰囲気のせいなんだろうが、さっきまで人殺しだと思って警戒していたんだけどな。


 俺の失言に天霧が気分を害したのか不安になったが、どうやらそういうわけでもないようだった。


「いいよ。その方が僕も気が楽だ」


 天霧は朗らかに笑った。


「さて、一通り謝罪も済んだようだいうことにして、龍平の質問に答えるとしよう。」


 殺人未遂の話は終わってはいないとは思うが…。天霧にとっては謝罪でなんとかなる案件のようだ。

 正直、俺もそこまで気にしてない。今生きていれば、それでいい。死んでいれば…気がつかなかっただけだ。

 うじうじしていてもな。


 「まずショーンとあのマヌケについてだけど、二人とも君が思っているような…つまり病院の人間ではないんだ。まあそんなヤツらの上がこんなのだし、なんとなく察しはついていたとは思うけれど。」



 その「こんなの」というのは「こんな若い」なのか、「こんな変な」なのか…それとも


「『こんな格好の人』だよ。ラフだから気に入っているんだけどなあ。ああ、髪の毛のことは言わないでくれ。龍平が来るまであまりに長かったから仮眠を取っていたんだ。」


 天霧はチョンっとはねた自分の髪を煩わしそうに手でなでつけた。


 「そういえば、佐伯さん?は自分のことを頑なに軍曹と。ショーンは自分を軍医だと言っていましたけど…」


 天霧は手を上げて俺を制すると、まだ待ってほしいというように首を振った。


 「彼らはそもそも君と必要以上に会話するべきではなかったんだ。もちろん、自らの身分に関してもね。それは僕から直接、君に伝えられるべき事項だ」


 そう言った天霧の目はどことなくより据わって見えた。

 天霧の目線にたじろいたとか、そういうわけではなかったのだけど俺はそのことに関して深く追求する気にはなれなかった。


「僕自身のことも、その辺の二流の大手企業なんかのマネージャーと一緒にして欲しくはないところではあるけどね」


 GMってジェネラルマネージャーのことかとそこでようやく俺は理解した。


「ところで、パンフレットには目を通した?」

「パンフレット?…ああ、あのやたらカラフルな」

「うん。あれね、僕もどうかと思うんだけど」


 天霧はそこで苦笑したが俺がパンフレットと聞いて、すぐ思い当たるものは一つしかない。

 俺がここへ来る前に郵便受けに入っていた、「センチピード」という児童福祉局のパンフレットだ。


 「でも…」


 「うんそうだね、龍平はネットで調べたんだ?いい反応だと思うよ。うますぎる話にはいつだって裏がつきものだ」


 記憶の途切れる前に光景の記憶が正しければ「センチピード」という名前はネットの検索にヒットしなかった。

 それじゃあつまりは、その存在は一般には知られていないんだろうからその名前を知っている人は一般人とは違うんだろう。


 「大正解だよ、龍平」

 「ここが…その児童福祉施設には思えないですけど」


 俺はそう口にして、いい気持ちがしなかった。


 「まあ、おいおいね。ならいい、なんとなくでも僕たちのことを知ってくれたのなら結果として上々さ。」


 天霧はそこで一旦言葉を切ると、俺の様子を伺って


 「一応、ようこそセンチピードへ。とでも言っておこうかな。偉い奴っぽいかい?」

 

 天霧はソファから立ち上がると俺に手を招いて見せた。


 「口で説明してもいいんだけどね。ここがどこで君が何なのか、龍平自身に体験してもらった方がいいだろう。付いてきなよ」


 立ち上がった天霧が次に示した指の先に、いつの間に現れたのか自分がさっき入ってきたのとはまた別のドアが見えた。

 この座り心地の良いソファの感触が名残惜しかったが、それでも天霧が俺に何を体験させようとしてるのか、ということ自体に好奇心は向いていた。


 示されたドアをくぐると、そこにはまたあの無機質な廊下が続いている。

 おそらくエレベータを降りた後の老化もこんな感じだったと思うが、赤いカーペットが床にひいてあるかないかでここまで廊下の印象が変わるとは夢にも思わなかった。

 つくづく人間の視覚情報というのは偉大らしい。


 「龍平がここに来る為に歩いた道のりよりは大分短いから安心してよ。」


 天霧は歩き始めた俺に向かってそう言ったが、俺は長く歩いてきたこの廊下に嫌気がさして、たまらずため息が出た。


 「龍平はさ、これからどうするつもりだったの?」

 「は?」


 そんな俺を気遣ってか、天霧は話しかけてきた。いわゆる世間話でも始める気か?

 返答の仕方は、別に失礼な態度を取ろうとしていったわけじゃない。癖だった。


 「例えば福祉施設に入って、その後どうするつもりだったのかなと思ってね」

 

 一応その俺の入るつもりだった福祉施設の取りまとめ「役」である天霧がそれを聞くのか、と若干呆れはしたが思えば今の俺は相手の懐のまっただ中にいるのだから、俺が色々知ってしまった後に吐き出すもそのまま胃の中で消化するもあっちの自由だった。

 それに俺の今の現状を天霧がどれだけ知っているのかは疑問だったから、自分のことを話すいい機会だとも思えた。

 

「別に何も。普通に高校生活を送って、卒業したら新しい奨学金制度を使って中心区域の大学か何かに行こうと考えてましたけど、身寄りのなくなった今ではお金が出るとは思えないので」


 俺はその後のことを考えてみようかと保安局からの電話を受けたあと頭をひねったが、色々と考えていたことの先が詰まった直後にホイホイと今後の計画が浮かんでくるほど想像力に富んで生まれてきてはいない。

 だから結局は、わからない。それが俺の考える全てだった。


 「そういえば、天霧さんは自分のことどれくらい知ってるんですか」

 「倒也って呼んでよ、折角フルネームで名乗ったんだから。『さん』もいらない。みんなが呼ぶようにドクって呼んでくれても構わないけど。龍平のことは日々数値が変動する事柄とか、思想以外ならある程度のことは知ってるつもりだよ」


 随分な自信だ…それなら例えば。


 「例えば君の今日の昼ごはんが既製品の餃子だったこととかね」

 俺がまだ口を開く前に天霧はそういうと、おかしそうに笑った。


 「実は龍平って面倒くさがり?僕が読んだノートによると結構几帳面らしいけど」


 天霧のいった「僕が読んだノート」というのは気になるが、どうせ聞いても答えてくれない気がした。

 なんだかんだで大事なことはうやむやにされ続けているのだし。

 それに俺が聞きたかったのはそんなことじゃない。


 「倒也って面倒くさがりがガサツと同意語だと思ってませんか。自分はただわざわざ調理をする気分でもなかったし、作ってくれる人がいたわけでもなかったから…」


 俺はこのあしらわれているような流れが気に食わなかった。


 「わかってるよ」


 天霧は苦笑した。

 

 「それに龍平が聞こうとしてたことも、聞かなくても察しがついたさ。大人だからね」


 妙な理屈だな。大人なら察しがつくものなのか。


 「お母さんのことは気の毒だった。いや、気の毒だったというか

、申し訳なかったというのが正しいか。どちらせよ」


 なんだやっぱり知ってたのか。腹の中にあった何かがどっしりと重くなっていくのを感じた

 他人を介して聞くのはこれが初めてでは無いが、面と向かって聞くのは初めてだった。

 心の中で否定してほしい気持ちが生きていたのかもしれない。


 「気になってたんですけど」

 天霧がどう感じたかどうかはわからなかったが、少し感傷的になった気持ちを切り替えるためにも俺は話題を切りかえた。


 「僕の年齢のことかい?」

 「あ、そうです」


 なんだ、天霧は俺の心が読めるらしい。大人らしからぬ風貌で「これでも大人」とのたまうのだから、一応は聞いておきたかったのみ、というのは言い訳がましいか。最初から気になってはいたから。


 「今年で26かな?誕生日は覚えてないんだけどね。年々自分の若者としての時間が少なくなっていくことに焦りを覚えてるのさ。この前なんて自分の髪に紛れている白髪を見つけたよ」


 失礼な、白髪なら俺も自分の髪に見つけたことはある。まるで俺が若くないみたいじゃないか。

 とりとめない話をしながら歩いていた俺たちは、気づけばあの背の低い天井の続く廊下から抜け出していた。


 俺たちの周りに行き交う人が現れ始め、今まで壁と天井とに反響するだけだった会話の音も周りの喧騒に飲まれ始めた

 歩き続けることものの数十秒で周りの人の数は何倍にもなって、そのほとんどが天霧を見かけると日本語やその他の言語で声をかけた。


 天霧はその一つ一つに丁寧に言葉を返しているけど、ここ本当に日本だよな。


 「もう少しだよ。あー彼らのことは気にしないでくれ」

 俺の反応に苦笑いしながら天霧は開けたエリアの奥にある大きな扉を指差した。

 「What’s good Doc! Oi! Is he a new fella da’ you were talkin’ de other day?」

 「Pretty good bud. Yup, you’re right. I’m about to take him to the arena.」

 扉目前といったあたりで一人の黒人が俺たちに並行して歩き始めた。

 「Arena! God awmighty! S’pose guys are doing drills right now hah?」

「That is exactly why I’m taking him to.」

 通訳がいればなあと思った瞬間はここほどはない。

 黒人の男は納得したような笑いごえを上げながら最後に「Aight, come see me later man! Saeki is all’eady.」と言い残して扉の前を右に曲がって走って行ってしまった。


 天霧はそれを見送ると困ったような顔で俺の方を振り返って言った。

 「おしゃべりも大概にしないとね。さて、ついたよ。ここだ」

  俺たちは扉の真ん前まで来ていた。天井も建築用重機が入りそうなくらいには高い。

 実際、周りには重機らしきものも停まっていた。

 

「なんていうかSFとか、アメリカ産の映画とかに出てきそうな感じですね」

 俺はずいぶん前に見たSFものに出てきたバンカーのことを想像した。形とか、扉に描かれている文字とか、あまりに似ていたものだからしょうがない。

 天霧は同調するように苦笑いすると、どこからともなく取り出したカードキーの一振りによってその巨大の扉-の下部にある小さなスライド式のドアを開けた。

 「オーケー、僕について入ってきてくれ。なるべく静かにね。一昨日のことでみんなピリピリしてるんだ。」

 薄暗い扉の奥へ消えていった天霧の背中を俺は努めて静かに追った。


 この時、俺の脳みそは半分天霧の言うことを理解しながら、もう半分で器用に混乱してみせていた。

 だから無防備なまま自分の存在を大きく決定づける場面に遭遇してしまったのかもしれない。

 今思えばこのあたりから俺の運命は違う方向に向き始めていたのだろう。

 もちろん、アベルの言ったように生まれた時からそうなるものだと決まっていたのなら、それも無駄勘ぐりなのかもしれないが。


というわけで、まだ引っ張るのかという。9000時近く書いておいて核心に迫る動きだけで終わらせてしまいました。次話の投稿予定は未定ですが、まとまってきたら一度再掲載してみようと思います。その時には改編なども加えていきますので、興味があれば再読いただければと思います。それではまた!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ