表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
佐藤と吉田  作者: 澪標零
人たらし、吉田。
6/16

6話 佐藤は干物女

 ―――――――――――あのね、と口を開いたのは、私の対岸に座っている女、≪道宮彰子≫だった。

 入学当初は仲良くしていたけれど、今では授業が重ならなくて、話す機会もなくなっていた。長期休暇の間も会うことはなかったし。正直合わないな、と思っていたから、安心していたのに。何だろう。

「なるとさんに告白されたの。……どうしようかなと思って」

≪なるとさん≫。知らないわけではない。むしろ知り合いすぎてどうしよう、っていうレベル。教養学部芸術学科の選択必修科目のうち、一、ニを争うブラック授業、≪放送タスク≫を束ねる四年次の学生である。本名は≪黒瀬修平≫。なぜ≪なるとさん≫と呼ばれているかは、また別の話、ということで。

「それは彰子の好きにすればよくね。なぜ私に言うかね」

「さとるみ、なるとさんと仲良しでしょ」

出たよ、出ました。女子の大好きな奴。≪○○って、○○と仲良しでしょ?≫っていうお決まりのアレ。私はこれが大嫌い。女子という生き物、大嫌い。

「別に仲良しじゃないし。……私に何かを求めないでくれ。私は彼氏いない歴=年齢の人間だからな」

三限終了のチャイムが鳴った。救いのチャイムだ。

「私は四限があるので行くぞ。……じゃ、頑張ってくれ」

「えー、マジ!?……えー」

面倒だな。そう思った矢先であった。

「おい佐藤、四限のレポート見せろ」

吉田さんの登場であった。今日ばかりは救いである。ナイスタイミングであると吉田さんを褒めたたえたい。

「里咲に頼めばいいじゃないですか」

このままこの芸術学科のたまり場である≪教養学部C棟ラウンジ≫から出て行くのは自然な流れであった。さすがの彰子も追わないだろう。次の授業はB棟まで出なければならない。階段をいくつ上がればいいのだろう。

「今日里咲休むって」

意外だった。一年生は滅多に取れないアート系の、しかも本当に絵を描く授業だったから。里咲はアートコースだし、自分で描いた絵を、コンクールやなんかに出展するような奴だったから。

「……そうなんですか。別にいいですよ」

吉田さんもそういえばアートコースじゃないか、と思いつつ。私はラウンジを後にした。彰子が話す相手を変えたのも、彰子の大きな声で、よくわかった。

 吉田さんと行動することが、最近多い。吉田さんが私と浮気している、という噂も流れているらしいが。私に限ってそんなことはしない。私は汚らわしい男女の関係が一番嫌いだ。

「佐藤、約束通り、角田だからな」

「……吉田さんって、私のこと何だと思ってるんですか?」

教養学部B棟、一階の角の教室の隅。私と吉田さんが、隣り合って座った瞬間。私の列を挟んで隣の席の同学年が、ひそひそと、話を始めた。よからぬ話をしているのだろう。勝手にしろよ。私と吉田さんが、お前らの望むような関係になることなんて、一生ないよ。

「佐藤は……佐藤だよな」

意外だった。道具とか、そういうこう、無機物みたいな答えが返ってくると思っていた。

「それは答えになっていないと思います。……それより今日、アクリル絵の具の日ですけど」

「はあ、忘れてましたねー。……佐藤貸せ」

今日はラーメンおごってもらおう、と考えつつ、私は吉田さんを鼻で笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ