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6話 リターンマッチも突然に

 一撃一撃ごとに洗練されていく事が良くわかる。


 より鋭く、より速く、より強く。頭で考えるよりも早く速射砲のように拳が飛び出していく。鞭のようにしなりながら蹴りが叩き込まれる。劇的にでは無かったけれど、スキルが身体に染み込んでいく様子がよくわかった。

 拳や足に魔力を込める方法も掴んだ。空中での連撃のコツも掴んだ。かめは○波の放ち方もわかった。感覚さえつかめばあとは咄嗟に再現できるようになるまで詰めるだけだ。瓦礫に押しつぶされてピヨったウサギは最高のチュートリアルだった。


 「大分掴んだ。精度も上がってきたし、動かせる岩も大分大きくなってきた」

 「それはよかった」


 最初よりも高く飛べるようになっていた静海が岩の弾丸を降り注がせ、俺も負けじと距離を詰めて息もつかせぬ4連撃。ゴムのようにしなやかさを持っていたウサギの顔と首が大きくへこんだ。未だに昏睡の中に居るウサギがそれでも小さくカハッと無意識の吐息を洩らす。いつしか攻撃が通る様になっていた。


 「固定砲台の静海と動きまわる俺、こういうスタイルが一番いいのかもな」

 「私の予備動作が大きいからね。虎徹君が居てくれる事は大きい」


 一通りの確認作業が終わり、〆に超至近距離から静海の付けた大きな傷に向けてかめ○め波モドキを放つと、その波動はウサギの頭を貫き、地面へと縫いつけた。

 アナザーに来て早々こんなのが相手なんてどうした物かと思ったけど、こんな最高のチュートリアルになるなんてツイてたな。


 コイツを……倒したんだよな。


 「運に助けられた所もあったけれど、なんとかなったわね――って、拳を見つめながらニヤニヤしてどうしたの?」

 「へへへっ、強くなってる気がするって思って」

 「…………え、えっと、そう!この倒したウサギをどうしましょうか?」


 ん?なんでいきなり話題を逸らされたんだぜ?まあ、言ってる事やってる事戦闘狂チックだから触れたくないとは思うけれど。


 「ゲームじゃないから消えないんだっけ?」

 「そう。だから通常だと自分たちで解体をしていくわけだけど――」

 「流石に無理だわ、コレ」


 改めて倒れたウサギの姿を見るがどうやって倒したんだよ、とツッコミたいほど大きい。ウサギの前に『大怪獣』という称号を贈呈したいほどでかい。そしてその身体の大半は瓦礫の下だ。その瓦礫は俺と静海が協力して投げ飛ばす事は出来ても、その後に解体する事を考えたら相当な時間がかかる事が容易に想像できる。

 更に言えば、アイテムボックスを結局取らなかった俺は解体した所で、その素材を持ち歩く事も出来ない。だが、この収録中のドロップについては本人の物とする、という契約条件を盛り込んでいるので、実入りを考えるとこの素材はどうしても換金したいものだ。

 どうしたものかと、ウサギの死体に触れてみると、ズズズッとその身体に残っていた何かが俺の中へと取り込まれていった。それが収まると同時に、ピロンッとアラームの様な音が頭の中に響き渡る。


 「今のって……」

 「もしかして、魔甲ってこうやって成長していくのか」


 アラームが鳴っても見た目はほとんど変わっていない。心なしか重くなった気はするけれど、タイトなシルエットは健在で、上から服を羽織っていても別に違和感などない程だ。だけど、何かが変わったという確信的な予感がある。材質?性質?鎧のはずなのに何か生き物のようにも感じる。よくわからんがそんな感じだ。

 ……ステータス。


 コテツ・イブキ

 18歳 男

 種族 人族

 ランク 魔甲騎士lv5 魔闘士lv5


 体力:202

 筋力:567

 耐久力:1900

 魔攻:570

 魔防:1850

 精神力:510

 敏捷:570

 器用:190


 既習スキル:魔甲換装 魔闘術 連撃 空中制動 魔砲

 パッシブ :耐久力増大、筋力増大、魔攻増大、魔防増大、敏捷増大、精神力増大、第六感、不屈 天衣無縫 火耐性 大物殺しジャイアントキラーパリングの極意


 特殊スキル:獅子の矜持プライドオブライオン

 魔甲特性:超獣の守護


 …………ファッ!?


 「うわぁ……」

 

 見たくないと思いつつも中空のスクリーンのようなものに開いた俺のステータスを見て静海が引いたような声を上げる。

 

 「項目が……一つ増えてるんだけど。魔甲特性って何?」

 「虎徹くん。問題はそこはじゃないと思う」


 わかってる!わかってるんだ!静海!精一杯目を逸らそうとしているんだから、現実に引き戻さないでくれ。

 

 「レベルが上がった事は、上げ幅さえ目を瞑ればまあ当然。スキルの習得は……先ほどの戦闘の帳尻合わせというか、先ほどの戦闘行為での機動が身体に染みついたって事で理解できる。虎徹くんが見なければならない問題点は2点」

 

 ああ……ったく、冷静に分析されちゃった。絶対自分の事を棚に上げて楽しんでいやがるな。

 なぜかって?天使のような悪魔の顔で笑ってるんだよ。コイツ。


 「一つはその特筆すべき耐久力。既に明らかに初心者の域を超えているんだけど?というか、初期のステータスを見せてもらったけど、伸び率がおかしい」

 「ウン、ソウダネ」


 耐久力以外にもおかしいのあるけど、多分それが俺のスキルの補正なんだろうと思う。そしてもう一つ付け加えるならば、やけに低く感じる体力と器用のステータスが適正値なのだろう。

 気が付くなよ……頼むから。

 

 「そしてもう一つ気になるのは『超獣』。多分これが耐久力の秘密なんだろうけど、まさかこのウサギが超獣ってわけでもないだろうし……」

 「でも、他に説明がつかねぇんだよな」


 うん。静海が今言わんとしている疑問点は俺でもわかる。なにせ『超獣』という名は、資格を取る時に散々「会ったら絶対に逃げろ」リストの模範例として教えられているからだ。都市を破壊し、腕利きが何人いても止められない災害、それが『超獣』ベヒーモスだ。

 更にいえば、その時に見せてもらった画像に甲羅なんてついていなかったし、このウサギも大きいけれど、超獣のそれはこのウサギの身体より遥かに大きい。だから、俺に超獣に纏わるエトセトラが備わるわけが無いのだ。


 「はぁ……まったく。知らないで挑んだのか」

 「あ、大地さん」

 「どういう事ですか?」


 静海が首を捻りながら問い返すと、大地さんはカメラに映らない位置から呆れたようにウサギの死体を指差した。


 「超獣の幼生体」

 「「え?」」

 「これ。超獣の子。子供って言ってもこの大きさじゃ数十年は生きていただろうし、とてもじゃないけれど新人が倒せる類のモノじゃ無いけど間違いない」

 「マヂで?」

 「大マジ。数が圧倒的に少ないから知っている者は少ないけれど、幼生体の内は、まだ成体より柔らかいから成体に匹敵する硬さの甲羅を背負っているんだ」


 ……ヤバい。なんか今更になって身体が震えて来たぞ。

 これって、もしかして仇討ちとかあったりしないよな?


 「運に助けられたけど、それほど強いって印象じゃ……」

 「幼生体は弱点も多いし、攻撃も単調だからね。防衛戦での城壁間際とかならばともかく、こういう野外ならば、相性にもよるけど中堅どころのパーティーでも十分狩れる。勿論、初戦果として規格外もいい所だけどね」


 大地さんの顔が若干引きつっているから、確かに規格外なのだろう。むしろ、こんなでかい物を初心者が狩っている画を見たら、俺だって同じ反応する。

 でも、中堅どころのレベルか……それじゃあまりジャイアントキリングとも言えないのか?あわよくばこれを実績にスポンサー獲得へのアピールになるかと思っていたのに。

 そんなうまい話があるわけないか。


 「ちなみに、この耐久力って……」

 「十中八九、魔装が超獣の特性を帯びたからだね。でもまあ、数値を見る限りでは大分弱体化していると思うけど。超獣そのものの硬さを纏ったら、まずそんな低さで落ち着く訳が無いし。だって、その程度ならば攻撃を通す人は結構いるもの」

 「と、言う事は虎徹君の鎧はこれからも成長する?」

 「するんじゃない?幼生体の鎧だし」


 将来性は抜群だな、おい、と皮肉を込めて自分の鎧を見てみるが、当然のことながら答えが返ってくるわけでもない。生体的なのに無機質で……ファンタジーの魔剣、妖刀をそのまま鎧にしたみたいだ。


 「まー、気にしても仕方ないぜ、静海。強くなる分には問題無いんだ――やべぇ!?」


 無理矢理気持ちを前向きに切り替えようと言い聞かせていると、背後からまたしても巨大な焔弾が襲ってきた。今度はやや斜め上。咄嗟に静海を突き飛ばして拳を合わせるが、うまく逸らす事は出来ず、直撃とまでは言わないまでも俺の身体は激しい爆発と共に吹き飛ばされた。


 「虎徹くん!?」

 「……大丈夫だ。生きてる。そっちは?」

 「大丈夫。ほぼ無傷」


 激しく地面を転がった事で眩暈がする。斜め上からの攻撃だったので上に逸らせず、目の前の地面にたたきつけた所為か、折角頑丈になったのに、相当貰っちまった。特に目の前で炸裂した所為で目がチカチカする。

 それでも、俺の身体は爆散していない。意識も残っている。吹き飛ばされた格好のまま返事をしてグッと身体に力を入れるとあちこちから火花が散りそうな程の激痛が走ったのがわかった。それでも、骨はイッていない。まだ動く。動け。


 「野郎……もう一匹いやがったのか」


 戦場カメラマンの映し出す映像のように激しくブレて、定まらない視界の中、先ほど倒したウサギが焔弾で壊した切り立った崖の上に山のように聳えるそのシルエットが確認できた。

 崖の上にいるという事は、元々群れていた訳でもなく、たまたまなのだろう。本当にこいつは稀少な存在なのだろうか――そんな減らず口ごと食いしばって何とか立ち上がる。途中フワッと重力を感じなくなったのはおそらく静海の力だろう。


 「さんきゅ。静海……悪いけど、ついでにアイツを引きずり落とせないか?」

 「逃げないの!?」


 確かに冷静に判断すれば逃げの一手だ。程度はわからないが、俺は不意の一撃をもらって負傷し、だけど、奴との間には『高低差』という最後の砦が残っている事でまず追われることは無い。

 それもいいだろうと思う。それがいいのだろうと思う。

 だがな。

 こんな愉快な真似をされて、倒れたままでいるわけにも……いかねぇんだよ。


 「リターンマッチだ。こいよ、ウサ公。テメェも俺たちの糧にしてやる」

 

 説得する事を諦めたのか、静海が大きく一つ息を吐くと、崖上のウサギの足元の岩がボロボロと崩れて――。


 そして凄まじい揺れと共に同じ高さまで落ちてきた。


 仰向けで。


 ……………………。


 つまりなんだ。

 ウサギ、ウサギとさんざん言ってきたが奴の風貌は亀だ。

 亀の仰向けっていうのも変だけど、亀の甲羅が下になったらどうなるか、大体想像がつくよな?


 ……おい。静海。今の俺の啖呵を返せよ。

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