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4話 ファーストデートは突然に

 入ってきたときと同じようにゲートが開くと、景色が変わっていた。目の前には無機質で近未来的だった圧倒的な空間では無く、厳かな雰囲気が漂う神殿のような場所だった。石造りの建物、吹き抜けの高い天井。振り返れば、雰囲気を合わせているのか、外見だけ石っぽく見せかけたゲートが四基佇んでいる。


 緩やかに揺らめく光の色、ひんやりと冷えた空気の匂い、床を叩くブーツの足音。かつてここがゲームの世界だったとは思わせない、魂を持ってしまったリアルワールド。


 「……ありがとう。結月」

 「え、えっと……何が?」


 目を閉じて少し感慨に浸っていると、背後のゲートが開く音がした。機先を制して声を掛けると、少し戸惑った声で静海結月が答える。


 「なんとなくさ。ありがとうって言いたかったんだ」

 「そ、そう……」


 自己満足だとはわかっているけれど、戸惑った様な彼女の返事に安心してゆっくり目を開くと――、


 カメラがあった。


 「いやー……2人の初上陸の瞬間をばっちり見守ってあげようと思ったら、凄いね。いきなりドラマが始まったかと思った。可愛過ぎて思わずにじり寄っちゃった」

 「玉玲さん。流石にカメラ寄り過ぎ」

 「おっと」

 「…………………………………」


 ぐぉおおおおおおおお……死にたい。公共の電波にこんなやり取りを載せるだなんて黒歴史決定じゃねぇか。


 「つーか、俺達の方が先に入ったのに、何であんたらが先に来てるんだよ?」

 「そりゃ、ボク達は既にこっちでの身体を持っているから」


 ですよね。そんな事もわからない位浮かれていたのか。

 ため息で何とか気持ちを切り替え、大地さんからのアイコンタクトに一つ頷いて、何故か背後で固まったままだった静海を手で誘う。

 ん?いや、手を出したけど、俺の手を本当に取らなくてもいいんだぜ?役得っちゃ役得だけどさ。


 「絵になるっ!」

 「はははっ、玉玲さん、ちょっと五月蠅い。雰囲気台無し」

 

 そういう大地さんも相当音声入れている訳だけど……怒られないのかな。まあいい。


 「はい、という訳で、俺達は無事にアナザーに辿りつきましたが、静海さん」

 「……なんでしょう?」

 「感想を一言」

 「インタビューが下手」

 「そこを突っつかなくていいんだよ、俺は素人なんだから……あと、カメラに見えないように俺の足を踏むのを止めてもらえません?」


 話が進まねぇ!俺が何をしたと言うんですか!

 言いたいけど、言いませんよ?俺は社会人ですから。


 「なんかちょっと目を離した隙にサイボーグみたいになっているから、大丈夫だと思っていたのだけど、痛いの?」

 「痛くは無いけれど、剣と魔法の世界的にはその表現は大丈夫ではありません」


 彼女の撫ぜる様な視線に、俺も繋いでいた手を離して、わざと大きなリアクションで腕をカメラに見せた。俺も途中から気が付いたけれど、スーツから出ている手などが黒い金属で覆われているのだ。俺としては何も着けていないと思うほど違和感が無いのだが、これが『魔甲』らしい。見た目は金属だけど、硬い、と思うような感触は無い。幸い覆われている部分のほとんどは服の下だけだが、ちょっとしたサイボーグになったような気分だ。


 「種族:サイボーグ?そんなのあったの?」

 「クラス魔甲騎士メタルナイト――無事、戦闘職らしいです、マム」

 「またレアな所を……そんなクラス、チョイス出来たゲーム時代以来じゃない?」

 

 確かに。人の本質を写し出すのがこのもう一人の自分アナザーならば、クラスとはいえ、本質が仮免ライダーですって人はいないと思うんだ……。

 俺って何者?哲学に耽ってもいいですか?


 「そこら辺深く考えるとゴリゴリと何かが削られそうだから止めて。んで、そういう静海は?」

 「……キッカー」

 「ん?」

 「……サイキッカー、だって」

 「……お、おう」

 

 斜め上過ぎる回答に、ブフォッ、と大地さんと玉玲さんが咄嗟に吹きだしたが、俺は笑えない。むしろ、同類として同情したい。ゲームじゃねぇんだから作り直しなんて出来ないんだ。

 剣と魔法の世界のサイキッカー?それもまたアレな所を……そりゃ、機嫌も悪くなるわ。


 「……あの、静海さん?静海結月さん?」

 「なに?」

 「改めまして、カメラに向かって……一言、どうぞ」

 「世界観仕事しろ!!!!」


 代弁ありがとうございます! 


  ◆  ◆  ◆


 「いきなりとんでもない大惨事が待っていた訳ですが、ここで今回の旅の目的を説明したいと思います」


 珍しくもヒステリックな魂のシャウトでぶっちゃけて少しは料飲が下がったのか、改めて静海がカメラに向かって淡々と喋りはじめた。俺も申し訳程度に拍手をしている訳だけど、そういえばマジで何も聞かされてねぇんだよな。


 「これから私たちは様々な冒険をしていくわけですが、その最終的な目標の一つが、このアナザーで最も強い者たちが集い、盛り上がるPVP大会『メイガス&ナイトパレード』への参加」

 「おー。大きく出たね」


 様々な形でお茶の間にまで浸透している『アナザー』だが、その中でも最も有名な物だ。アナザーに渡った実力者や人気者が一堂に会し、そして最強を決める一年に一度の祭典――それが『メイガス&ナイトパレード』。これに参加すると言う事は、戦闘職としてこの世界を旅している者たちにとっての一種のステータスでもある。

 なにしろ、別名が『アナザーのワールドカップ』。抜群の注目度と、一生遊んで暮らせるほどの賞金、プロとして渡っている者にとっては最終到達点のひとつと言っても過言ではない。


 当然、その分、そこへの参加は並大抵の事では無い。この世界では死に戻りする事はあっても本当に死ぬ事が無い為、容赦無く魔法が飛び交い、現実世界では絶対に出来ない、命を賭けた決闘をするのだ。それを番組の目標に掲げるという事は、『ガチでやります』と宣言するに等しい。


 ……ま、俺は別にいいけどさ。賞金欲しいし。


 「番組が打ち切られるエターなる前にコレを実現させる事は並大抵の事ではありません」

 「そうだな」

 

 ブッ込んだ事言いますね、静海さん。

 ところで、今なんかノイズ入ったか?音声。


 「そこで目標。私たちが強くなる為には多少の無茶をする必要があるという事。あと番組を継続させるには、何とか盛り上げつつ、かつ応援してもらえるような冒険をしなければなりません」

 

 あー、結構キツい収録になりそうだね、それは。

 それを視聴者様にぶっちゃけちゃう辺りが静海結月か。


 「今回はその第一回目なのですが、虎徹君」

 「はい、なんざんしょ?」

 「今、私たちはゲートの場所から動いていないけれど、そろそろ外に出てみませんか?」

 「ああ」


 神妙に頷きながらも、本格的に異世界を歩けるという事にワクワクしていた事を否定できない。石畳の通路を進みながら他愛の無い話で間を持たせて、外の世界に想いを馳せていた。

 確かに死に物狂いでやらなければならない。だが、新人の俺達が辿りつくこの場所は『始まりの街』。今回は雰囲気に身体を慣らし、簡単なチュートリアルのような戦闘を推していく事だろう。


 ――外へと続く扉を開けるまで、そう楽観していた自分をぶん殴りたい。


 「あ、異世界アナザーって随分と閑散としてるんだな」


 不可思議な金属でできた重たい扉を開けると、そこは白い大地だった。

 和気藹々、喧々諤々と人が営む街の様子など一切なく――人の姿一人として無く、申し訳程度に整備された谷底で、ただただ乾いた風が砂塵を巻き上げていた。

 魔甲の上からスーツを纏っている自分がバカバカしいと思うほど強烈に照り付ける日の光。砂っぽい風。佇む岩窟の遺跡。目の前の光景はいつだかドキュメンタリーで視たヨルダンのぺトラのようだ。

 控え目に言えば荒野。大げさに言えば砂漠だ。街なんてどこにもありゃしない。

 

 「さて、今回の旅ですが、虎徹君」

 「……はい」

 「ここから街道を進むと、5日ほどで街に着きます。私たちが本拠とする予定のエル・ラバトという交易都市です。ゲーム時代ならば序盤~中盤に辿りつき、長く滞在するような街でしょうか」

 「俺達にとって敵は強く、けど、勝ち目がまったく無いって訳じゃない難易度設定って事か?」

 「ええ、そう」


 ちゃっかりといつの間にか用意したのか、フード付きのマントを自分だけ被りながら、静海は頷く。

 さらば始まりの街。そりゃゲームじゃねぇんだから、順を追って街を進まなければならないという法も無いわな。


 「どう?このファーストデートのプランは」

 「一遍、恋愛マンガでも読んで勉強し直してきな――燃えてきて、デートどころじゃねぇよ」

 「折角生まれたばかりなのだから、生き延びてみましょう」

 「おう」


 駆け抜けるような速度で、世界で一番熱い旅が始まる。

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