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3話 出遅れんなよ ロケットダイブ

本編始まるまでグダグダしそうなので巻きました。

 辞令

 総務課 伊吹虎徹 殿


 貴殿を本日付で特別広報に任じ、提携先の静海オフィスへの出向を命じる。


 ◆  ◆  ◆


 ……な、なんぞこれ?

 あ、ありのままに今起こった事を話すぜ!し、仕事を盾に断ろうと思っていたら、勤め先と奴らがグルだった。なにを言ってるかわからねーと思うが、俺も何をされたかわからなかった……(以下略)


 先日、静海結月から『アナザー』への誘いを受けた時は、結局、向こうも無理強いするつもりが無かったのか「気が向いたら連絡して」と一歩引いた言葉で終わっていた。もちろん、その際に色々と情報と条件を引き出し、俺も真面目に考えてはいたのだが、こんなに早く手を伸ばしてくるとは思わなかったのだ。


 どんだけー。


 正直な感想だ。まさか会社に直に手を伸ばしてくるとも思わないし、そこまでして俺が欲しいのかとドン引きだ。

 抗議?もちろんしましたよ。社長と人事に直に。


 「ちょうどいいから、遊んで来い。お前だって金が必要なんだろう?」


 社長のそんな一言で終わりました。お墨付きの出稼ぎらしいです。代わりにウチのホテルをしっかり宣伝してきてな、という投げやりな条件付きですが。

 先に謝っておこうと思います。御免なさい、と。都内一等地に建ち、国内外のゲストを迎えるホテルなのに、俺を広告タワー扱いするとか、どれだけチャレンジャーなのですかと。俺を持ち上げても兄妹達は渡しませんよ?


 これだけでも激動の一日だけど、極めつけが、


 「――はい、それでは始まりました。新番組、『アナザー アドベンチャー オンライン』りゃぅして『AAO』。この番組は私、静海結月と――」


 ……これだよ。

 辞令を受け取って、そのまま指定された場所――まあ、ウチのホテルのラウンジなんだけど、まあそこに向かってみれば、静海結月とゆかいな仲間たちが待ち構えていた。静海結月、その母、美月。小さめのカメラを抱えた若いねーちゃんと、同行するディレクターらしき若い男の計4人。スーツ姿だった俺はすぐに、「MAO」製のスタイリッシュなスーツに着替えさせられ、有無も言わさずカメラの前に引きずり出されていた。

 この時点で大方、何が起きたのかようやく理解が出来たけど、完全にしてやられてますわー。


 ……しょっぱなから、この子噛んだけど、大丈夫ですかー。


 「ちょっと?挨拶挨拶」

 「伊吹虎徹」

 「……はい。以上の二名でお送りいたします」

 「早速ですが、静海さん」

 「はい」

 「俺、何も聞いてねぇんだけど?ここに来いって言われてきたら、いきなり着替えさせられてコレってどういう事?」

 「軽い……ドッキリです」


 くそったれ―っ!と心の中で叫び身悶える俺をしり目に、静海結月はニコっとカメラに向かって笑いかけた。


 「いい反応ですね。あ、皆さん。コレ、仕込みでもなんでもなく、本気で彼何も知りませんでした」

 「……もう、この時点で、『あ、この番組ロクでもねぇな』って見てる人が思ってると思う」

 「まあまあ。さて、この番組ですが、虎徹君」

 「なんでしょう?」

 「これから私たちは生まれて初めて『アナザー』に向かう訳ですが」


 !?


 「この等身大の冒険の様子を皆様にお届けしなければならない訳です。覚悟は出来ていますか?」

 「……当然」


 いきなり引きずり出しといて何を、とか言いたい事はあるが、引けないならしゃーねぇ。人間切り替えが大事だ。静海結月は俺のこんな性格を完全に掴んでいるのか、「よろしい」と短く告げて頷いた。


 「ただ、知っての通り、諸々の事情があるので、あまり長期の冒険はしないぞ」

 「結構。向こうは時間の流れが違うので、7日に一回は戻るような形で冒険を予定しています。移動のだらだら感も撮るとカメラさんも言っているので、ディレクターさんが編集する時間も欲しいでしょうし」

 「いきなりそんなメタな発言していいんだろうか……?」


 そのカメラさんとディレクターさんはカメラに音声が入るぐらいの音量で笑っている訳ですが。

 この世界ってよくわからんけれど、編集点とか意識して動いた方がいいのかなぁ……?ま、既にこんなにやりたい放題しているから、あまり気にする必要も無さそう。


 「なにはともあれ、虎徹君。もう一人の自分を作りに行きましょうか」

 「何でそんな嬉しそうなの……?」

 「虎徹君のスーツ姿が格好いいので満足なのです」

 「お世辞乙」

 「まあ、なんでしょう。アナザーの身体作りとスキル選びは現在、自分ではエディット出来ませんね?」

 「確かそうらしいな」


 ゲームとしての機能を停止したアナザーでは現在キャラメイク、という事は出来ない。ではどうやって、向こうでこれから冒険しようというのかというと、完全に運だ。なんでも、その素体となる人間の本性であったり、指向性を強く反映して作られるという。

 そんな理由から、現在ではアナザーに渡る人間が多くとも、戦闘職に付いている人口は驚くほど低い。


 「そう考えると、向こうに渡る前に出演者を決めて、キャラを作るってかなり冒険だよな……」

 「それが、この番組の売りの予定よ。こうした方が出演する私たちが完全ド素人だってわかるじゃない。それ次第ではかなり方向性が暴走する事になるでしょうけど……」

 「2人とも生産職や支援職だったらどうするんだろう?」

 「そこは大丈夫。君は間違いなく戦闘職でしょうから」

 「人をなんだと思っているんだ?」


 それが俺にこだわった理由か、コンチクショウ!


 「楽しみよね」

 「だから何が!?」

 

 そんなこんなで俺のタレント生活&冒険者が始まった。

 実感湧かねー。


  ◆  ◆  ◆


 一度カメラを止めた後は、手短にだけど、超美人な結月の母親から正式に挨拶を受けて、そのままモデルとしても活躍できるように契約。なんでも、リアルでも他の仕事を回してくれるそうだ。あとは、まあ、同級生の親だったからか、俺の家庭の事も知っていて、何でも頼って欲しいとのありがたい言葉も頂いた。

 この親からどうやったら、あんな娘が生まれるんだろうって位、超真面目なキャリアウーマンだった……。


 その後は、彼女と別れて、移動の為の車中で改めて自己紹介。カメラさんは李玉玲という台湾出身の人。笑顔が素敵なトランジスタグラマーで歳はなんとまだ20歳だそうだ。カメラの勉強をしつつ、バイトとして制作会社で働いていたのだが、アナザーでの冒険歴もある事から声を掛けられ大抜擢されたのだそうだ。

 ディレクターさんは各務大地さん。お前こそカメラの前に出ろよ、と言いたい程のイケメンだが、実年齢はなんと30代だそうだ。アナザー関係の番組に多数関わっているベテランだという。


 以上。スタッフ2名。


 ……すげぇ低予算。確かにアナザーで冒険する以上、あまり多人数ではいけないと思うが、それにしたって腰の軽い面子である。逆にここまで人員を絞った辺りでも本気で冒険を求めているって事がヒシヒシと感じられる。

 そしてそんな様子も包み隠さずに撮影するその姿勢がもう、ね。


 「ゲートに付いたね」

 「……そうだな」


 車で移動する事約10分。カメラの前に晒されるというなれない環境で、若干体力を削られながらも、俺達はとあるビルの前に降り立っていた。日本に何カ所かあるアナザーに通じるゲートの一つだ。毎日何千人と利用する所為か、そこら辺の複合施設などよりも遥かに大きく、かつ行き交う人の数も多い。ついでに言えば、アレな人の率もかなり高い。異世界への入り口だもんな。

 来ちまったなぁ……。


 「登録にどれだけ時間がかかるんだ?」

 「一番長いのは諸々の書類手続きだけど、それは終わっているから」

 「おい」


 視界の端で、各務ディレクターがVサインをする。やけに手慣れているんだけど、コイツ前科ありだろ。手並みがプロいもの。


 「登録ゲートS―3で予約取ってあるよ。じゃないと、待ち時間だけで日を跨ぐ事になるから」

 「だって」

 「ああ、もうコイツら……」


 ツッコミが追いつかないと思いつつも、先導するディレクターの背を追って人波の中を進んでいくと、待ち受けのようなディスクの前にまで来た。そこで、受付役の人に各務ディレクターが一言、二言とやり取りをして、俺達はアナザーへの渡航資格のカードを提示すると、その脇のドアの奥へと通された。

 その中は、


 「すげぇな……」

 「そうね……」


 無機質で、未来的なデザインの広い空間。巨大な筒状の装置が4機。テレビなどでは何度か見た事があるが、実物は存在感が違う。これがアナザーへと繋ぐゲートだ。


 「ははっ、2人とも良い顔してる。最初は皆そうだよねー。慣れてくればそうでもないんだけど」

 「さて、じゃあ、早速だけど2人には行ってもらおうかな。まず、渡航カードをそれぞれの装置に通して、中に入って」


 各務ディレクターの指示に従って俺は真ん中右の装置に、静海は左の装置にカードを通すと、それぞれのゲートがスムーズに開いた。その中は何も無い。奥に進む訳でも無い。まるでSFの転送装置のようだ。

 

 「緊張してる?」

 「あたりめーだろ」

 「怒ってる?」

 「それ以上にワクワクしてる」

 「そっか。またあとでね」

 「ああ」


 最後に静海結月とアイコンタクトを交わして中に入ると、ドアが閉まり、照明が暗転した。


 「これより、読み込みを始めます」


 仄かに灯りが点ると、機械の音声と共に俺を調べるように、何度もレーザーのような物が撫ぜるように動き回った。頭の先から足の先、皮膚から心の奥まで見透かすように何度も何度も通り抜ける。ふと見ると、足元も複雑な機械がせわしなく動いている。


 「読み込み終了。再構築」

 「なっ!?」


 再び機械の音声が流れると、俺の身体がまるでホログラムみたいに指先から崩れ――そしてまた、元の様で少し違う身体へと変わっていった。特に顕著なのは眼。まるでカメラ越しに見ているかのように、視界がクリアになっていく。

 驚きつつも成すすべなく大人しくしていると、空中にデータのような物が投影された。


 「再構築完了。アナザーワン。貴方のデータはこちらです。スキルをお選びください」


 コテツ・イブキ

 18歳 男 

 種族 人族

 ランク 魔甲騎士メタルナイトlv1 / 魔闘士lv1


 体力:100

 筋力:150

 耐久力:160

 魔攻 :100

 魔防 :120

 精神力:110

 敏捷 :100

 器用 :90


 既習スキル:魔甲換装 魔闘術

 パッシブ :無し

 特殊スキル:獅子の矜持プライドオブライオン

 習得可能スキル:耐久力増大、筋力増大、魔攻増大、魔防増大、敏捷増大、精神力増大、第六感、不屈


 とりあえず言わせてもらおうか、なんぞこれ?

 魔甲騎士ってなんだろうと思って説明を開いてみると、魔力を吸って成長する特殊な鎧を纏ってスデゴロするファイター型の騎士だそうだ。

 仮○ライダー?ああ、そのたとえならばわかりやすいかも。元号が三つぐらい前の初代もウチのちびっこにとっちゃ現役でヒーローだぜ。

 

 ……剣と魔法の世界なのにな。いいのかな?


 このクラスは高いステータスを有するオールラウンダーな半面、装飾品以外は自らの半身とも言うべき鎧以外の装備をする事が出来ず、鎧が成長するまでかなり窮屈な思いをする事と、自己強化以外のスキルが少ない事から『ステータスを上げて地力で圧倒する』不器用なスタイルになり、かなり使い辛いと書いてある。

 その証明するように、数値化されたステータスは高い。確か一般の平均が70~90だったはず。全部平均超えしてんじゃねぇか。そして、攻撃スキルの少なさ……俺、格闘技とか習ってないからかなり致命的なんだけど。

 あとは、謎の特殊スキル。これも何だろうな?と思って文字を触ってみると、説明が浮かび上がる。


 獅子の矜持:誰かを護る為に決して屈しない心。耐久力増大、魔防増大、高揚状態時の全ステータスバースト。


 ……うん、静海の目利きは確かにすごいらしい。兄ちゃん、誇りに思っていいか?


 後の習得可能スキルとやらは、俺に適性があるけれど、取るかとらないかは選べるよって事らしい。折角なので全部頂く。


 そうして出来あがったのがこちら。


 コテツ・イブキ

 18歳 男 

 種族 人族

 ランク 魔甲騎士メタルナイトlv1 / 魔闘士lv1


 体力:100

 筋力:250

 耐久力:260

 魔攻 :200

 魔防 :220

 精神力:210

 敏捷 :200

 器用 :90


 既習スキル:魔甲換装 魔闘術

 パッシブ :耐久力増大、筋力増大、魔攻増大、魔防増大、敏捷増大、精神力増大、第六感、不屈


 特殊スキル:獅子の矜持プライドオブライオン


 驚異の200越えが6つ。正直自分でも引く。しかも、増大系スキルは成長時の補正にもなるらしい。無駄に強いな、なんぞこの不沈強襲駆逐艦は。使いこなせれば、だけれども。


 ……ま、いいか。旅するなら船は沈まないに限る。


 「専用の鎧を成長させていく魔甲騎士は一般の装備は選べません。道具をお選びください」

 

 音声の案内に従って、中空のスクリーンで最低限必要な消耗品などを選び……げ、お金かかるのかよ。突然の事で手持ちが無い俺は、本当に申し訳程度に選んで決定を押す。アイテムボックス5万とか、機能を考えたら安いようだけど、俺からしたら「くたばりやがれ」と言いたい価格設定だ。5万あったら、1か月分の食費……収められねぇかな。5人じゃ無理か。


 「調整は以上となります。何か不備は?」


 ある、と言いかけた口が閉じる。覚悟も無い。スキルも無い。技量も無い。金も無い。物資も無い。ただただ流されてここまで来ただけだ。

 だが、流されてきたけれど、手を伸ばせば無いものは手に入るかもしれない。だからその可能性に賭けるのも悪くない。

 その為には何か。


 倒れない。負けない。挫けない。護り抜く。


 強く誓った想いが今、ここにある。

 番組?はっ、全てをさらけ出してやるさ。楽しく金稼ぎをさせてもらおう。

 向こうで会ったら、静海結月に「ありがとう」って言ってやろう。それが多分、もう一人の自分アナザーが放つ最初の言葉だ。


 「不備は?」

 「ねぇな」

 「宜しい。では、ゲートを開きます」


 さて、流され流され、ここまで来たのなら、飛び込んでいくぜ。

 新しい世界へ――Sail Away!

まったく違う曲を聴きながら、別の曲をモチーフにする作者のアホ加減について。

orz


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