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1話 そして始まるハートフルストーリー(笑)?

 何かを喪うたびに何かを一つ背負って、誰かと別れるたびに我慢して手を振って、それでも俺たちは歯を食いしばりながら一歩、また一歩と前へ前へと進んでいく。


   ◆  ◆  ◆


 お金が無い。

 当座の生活には事足りるが、将来の事を考えるとどうしてもお金が足りない。

 理由は簡単で、本来ならば稼ぎ頭になるはずの親がおらず、かつ俺の下には4人の兄妹が控えているからだ。一番上の弟は来年高校受験。下の三人はまだ小学生だけど、上2ツインズは来年中学生。とにかく子供を養うというのは金がかかる。

 そんな状況で両親は他界。親戚は皆無とあっては、漢 伊吹虎徹。いっちょ肌を脱ぐしか無いでしょう、と言ってみた所で人生うまくいくはずも無く、辛うじてその日その日の生活を繋ぐ事ぐらいしか出来ない。朝昼晩と働いて、本当に若者に優しくない国なんだと痛感する。


 「もう少し効率よく稼いでみたら?兄ちゃん」


 唯一の癒しの時。兄妹揃っての食事の為に料理をしていたら、耳に痛い言葉が突き刺さった。


 「兄ちゃんが学校やめて働いてくれているおかげで、僕たちは何事も無いように生活させてもらっているから、あまり突っ込んだ事言えないけどさ、こんな生活続けていたらそろそろ兄ちゃんが潰れるよ?」

 「こうしてメシを作ってやれる程余裕があるのに潰れるかよ――ほれ、これやるからあっち行って待ってな、武人たけと

 「ん。ありがとう、兄ちゃん」


 安心させるように作り笑いを整えながら、一番下の弟の差し出した更に揚げたての唐揚げを載せてやると、俺に忠告してきた一番の弟がため息をついた。

 俺は今とあるホテルで事務業務を請け負っている。親父がそのテのコンサルタントだったコネだ。社長は俺達の事情をよく知っているし、実際の所、俺が未成年という事もあって「ブラック」と言うほどこき使われてはいない。その分実入りが少ないのは事実だけど……今の所が現状で一番マシな条件のはずだ。足りない分を、早朝の新聞配達と夕方からのバイトで間に合わせているが、その分はまあ自己責任だ。確かに一つの職場で稼いだ方が効率的なのかもしれないけれど、ウチのチビ公らはまだ手放しで看れる歳でもねぇしな。

 

 「大体、効率のいい稼ぎってなんだよ?武尊たける

 「それは……色々」

 「お兄ちゃんは刑務所の塀の上を歩く趣味はありません」


 黒い顔して「色々」と言わないでくれ、マイブラザー。親父に似て、頭の出来も顔の出来も俺とは比べ物にならないぐらいいいんだから、お前こそ真っ当な道を歩いてくれよ……そうしてくれねぇと、俺が浮かばれねぇんだ。


 「まあ、冗談はともかく、兄ちゃんなら『アナザー』でダンジョンハックなりして稼いでいてもおかしくないと思うんだ」

 「……お前は俺を何だと思っているんだ?」

 「お兄ちゃん」

 「『お兄ちゃん』という言葉にはそんな複雑な意味は含まれておりません。先生は教えてくれなかったか?」


 揚がった唐揚げを網の上に晒して油を切りながら、不穏な言葉に眉を潜めた。

 

 『アナザー」―――それは数十年前に顕現したもう一つの世界の名前だ。かつて一大ブームとなったヘッドギア型VRゲームの後継として現れたウォークインゲート型VRゲーム。その名の通り、ゲート型の機体からVR世界へと渡っていけたそのゲームが発端だ。自分の身体にコーティングや補正を施し、作られた世界で冒険を出来たのだから当時はかなりの話題になったと親父は語っていた事がある。


 そのゲームのプレイヤーがこちらでも、多少の力を発揮してしまった事や、その世界そのものが現実化してしまった事も、だ。


 現在の日本ではアナザーで覚えた魔法で犯罪が起きる事も珍しい事では無い。


 そんな二十一世紀最大の発見とも言われたアナザーだが現在はゲームとしての機能は停止して、国家資格を持った者だけが渡っていける。その目的や剣と魔法の世界ならではのダンジョンハックや、こちらの人間は向こうでは死なない事を逆手にとった剣と魔法のショービジネスといったものから、向こうの技術の研究など硬軟様々だ。


 確かに一発逆転を狙うならば最適なようにも見えるのだが……とにかく稼げない奴は稼げない事でも有名なのだ。今日日、アナザーで稼ぎたいのならば、そこそこ向こうに順応してスポンサーと契約して――という流れが主流だ。そもそも適性の無い奴はスポンサーを捕まえる事すら出来ない。

 それに加えて、向こうに渡っていける資格をとる為に17歳以上と言う年齢制限があった。親父たちが死んだ当時16歳だった俺には考えられない選択肢だったのだ。


 大体、俺は武道などもやっていない。向こうで死んでも生き返るし、補正があったとしてもどこまで通用するのやら……そんな博打は打ちたくないと思う。ゲームとして楽しめるならばともかくリアルと直結するのなら尚更、な。

 それと、向こうに行く事になったら、こうしてメシを作ってやる事すら出来ない。それは問題だと思うのだ。


 「ま、与太話はともかく、出来たぞ。武尊、冷蔵庫からサラダとドレッシングを出せ」

 「うーん……わかったよ」

 「ほれ、そこで寛いでるツインズもメシだぞ」

 「「はーい」」


 俺の呼びかけに応えてソファーで仲良く雑誌を読んでいた双子の妹たちが揃って立ち上がる。今読んでいた雑誌ってファッション雑誌?現在小学校6年生……大分色気づいてきたのかな。ウチは「出涸らし」と言われる俺を除いて自慢の美男美女揃いだしな……。

 あ、別にお小遣い内で買った物には文句は言いません。その代わり、足りないと泣き付かれても断りますけどね。


 「ね、ね。虎徹兄ちゃん。この人ってさ、兄ちゃんの同級生だったよね?」

 「んー……?お、おお。なんだ、静海か。懐かしいな」


 メシをよそりながら、ツインズの内髪の長い方、薫流かおるが差し出してきた雑誌のページを見ると、大人びた格好をした高校の時の同級生、静海結月がすまし顔で写っていた。当時からモデルをやっているとは聞いた事があったが、それほど仲が良かった訳でも無い。だが、有名だったからよく憶えている子だ。

 いやー……一年ちょっとしか経っていないはずだけど、高校生をやっていた頃が懐かしいな。


 「つーか、よく知ってるな。俺の同級生だって」

 「コテっちゃんの文化祭に行った時に会った事あるよ。モデルやらないかって誘われたから憶えてる」

 「うぃ!?」


 何それ?俺知らない。


 「うんうん、そうそう。私と光流と武尊兄ちゃんと三人。確か、お父さんが『MAO』ってブランドのデザイナーで、お母さんがモデルの事務所をやってるんだっけ?だから、好きなだけオシャレさせてあげるって言われた」

 「雲の上の出来事過ぎて俺わかんない……」


 雲の上の親父殿、お袋殿。なんで俺だけ平凡な顔の造りに産んだとですか?もしかして拾われ子だったりしますとですか!?

 MAOって俺だって知ってるファッションブランドじゃねぇか……そんな所から目をつけられたのか、この歳で。同じクラスなのに声を掛けられなかった俺の立場は……うん、これ以上考えるのは危険だ。

 あ?一番下の武人たけとはって?

 ……奴は微笑むだけで大抵の連中が蕩ける末恐ろしいウチの最終兵器アークエンジェルだよ!チクショウ!


 「コテっちゃんって自分をどう認識しているのさ……」

 「フツメン」


 ……だと思いたい。

 女にモテた事?告白された事?ありませんよ?勿論。


 「……そんな近寄りがたいオーラ纏ってるフツメンはいないよ」

 「虎徹兄ちゃんはツインズと方向性が違うしね。光流とか薫流は可愛がられるタイプだけど、兄ちゃんはなんていうの……猛獣?知らない人から見れば神秘的で、だけど気を抜いたら一瞬で喰いつかれそうな感じ」

 「中身は……うん、これだけどね」


 フツメン以下ですか、そうですか。オラオラ系って訳でも無いんだけどなぁ。むしろ理系の顔だと思う。白衣かっけーって理由で医者目指してた事もあったし。あと、伊達眼鏡とか好き。

 ……あと、光流。それはもしかして褒めているつもりかい?


 「まあ、俺の外見だとかはどうでもいいんだ。それよりも、連絡を取りあうなとは言わないし、お前たちがやりたいっつったら考えるけど、あんま今の内から深入りしようとすんなよ。そんな世界、流石の俺も庇いきれねぇからな」

 「「はーい」」

 「ボクはSNSで結構連絡取りあってるけど?」

 「お前は特に色々な意味で自重しなさい、小学生」


 ツインズの内、ショートヘアの方、光流はこんな感じ緩い子だ。マセてて行動力もコミュニケーション能力もあるけど、どこか緩い。双子なのに割としっかり者の薫流とはいい感じに対称的なんだよなぁ。


 「大丈夫。大体がコテっちゃんの事だから」

 「ダウト。片手で数えたぐらいしか喋った事無い相手の事なんて気にする訳が無いだろ。あったとしても、社交辞令だ」


 大体俺も言われて思い出したクチだ。気を回してくれたのは嬉しいけどな。


 「シャコウジレイって何?」

 「『おはよう』とか『こんにちわ』の代わりにとりあえず言っておけば大丈夫だろう、って共通の話題の事だ。お前もスムーズに人と関わりたかったら本当は思っていなくても、相手の事を褒めてあげなさい」

 「んーわかった。コテっちゃんイケメン」

 「……薫流、光流の分もレモンかけてやっていいぞ」

 「うん」

 「あー!待って待って!?なんで!?褒めたじゃん!?ボク褒めたじゃん!?カオル、止めて!ボク酸っぱいの嫌いなの知ってるでしょ!?」


 金言を授けよう、マイシスター。


 「用法、用量は良く考えて使いましょう」

 「レモンの量も考えて!?」


 さて、食べよう。今日も一日お疲れさまでした。俺はこの後条例が赦すギリギリの時間まで別のバイトに行くけどね。こんな時間の為ならば別に苦でも無いのだ。

 ……せやから、お残しは許しまへんでぇ。


   ◆  ◆  ◆


 「いらっしゃい、ませー」


 働き始めて身についた事は2つ。笑顔を作る事と、自分が客になった時に「いいお客さんであろう」と思うようになった事だ。案外これは大事な事である。自分が働いていて「うわー面倒くせぇ客」と思うような相手にいいサービスなどしたくないと思うのだ。それは自分が客側になった時も一緒。店員さんに「いいお客さんだなー」と思わせる些細な気遣いが、ちょっとした得になったりするのだ。

 ただ、ちょっと今回は流石に笑顔が引きつったなぁ、と自分でもわかった。


 「久し振り」

 「お、おお、久し振り」


 ……オーケー、混乱を鎮める為に状況を確認しよう。ここは俺のバイト先のカラオケ屋で、俺はカウンターで受付業務の最中だ。目の前にはおひとり様の客。ウィッグでも被ってるのか、鮮やかなプラチナブロンドの前髪パッツンの美人。ちょっと胸は足りない気がするけれど、スレンダーと言いかえればあら不思議。驚く事にこれで同い年っていうんだからやってらんねぇよな。


 静海結月……噂をすれば影と言うのは本当だったか。つか、さっきの飯の時にチラッと話題に上がんなければ誰かわからなかったと思う。昔はもっとこう……正統派だった。一昔前のディーバみたいな格好なんてしてなかったよ!


 「なんだ、珍しい。その格好で一人?」

 「少しね。気晴らし」


 ようやく平静を取り戻して、なんて事の無いように機器を操作しながら声を掛けると、彼女も軽く含み笑いしたような声で答えてきた。


 「高校生は条例で22時退店になるけどいい?多分、今からならフリータイムより時間刻みの方がお得だと思う」

 「いいよ。それより、忙しい?」

 「平日だし、おひとり様でもすぐ案内できるよ」

 「そうじゃなくて、」

 「俺?ボチボチだな」


 全然ボチボチなんかじゃない。けど、どうしても俺の口から出る言葉はそんな強がりだけだった。

 別に女の子の前だからじゃ無くて、弱ってる姿なんて見せられるか。


 「相変わらずなのね。なら、終わった後に少し時間いい?」

 「なんだ?デートのお誘いか?」

 「そう。デートのお願い」

 

 おや、軽口のつもりだったのに。ほら見ろ、我が兄妹たちよ、兄ちゃんだってやる時はやるんだぞ。

 ……でもまあ。「お願い」、と来ましたか。

 そんな俺の勘繰りを肯定するように、彼女は俺を少しだけ引きよせ、その耳元に吐息を吹きかけるような甘い声で囁いた。


 「ねぇ、お願い『虎徹』。私とアナザーでデートして欲しいの」

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