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理非曲直

作者: The Peach Boy

イヌです。他にキジとサルがいます。そちらも是非みてください。

アメリカでは消費税、付加価値税ではなく、小売売上税を採用しています。なぜでしょう?

人間は価値を不合理に考える生き物だ。

縦を価値、横を時間としてグラフを描くと、曲線を描いて時間が長ければ長いほど価値は下がっていく。

今現在の価値を最も価値のあるものとして、考えてしまうのだ。

俺たち悪魔はそれを利用して仕事をする。

そう難しいことではない、困っているような人間の目の前に現れて契約を結ぶ。

"願いを一つ叶えてやろう。ただし、対価としてお前が死んだ時お前の魂を貰う。"と言った具合だ。

ここで、重要なことが一つ。

契約を結ぶ相手が、いかに困っているかだ。

その度合いが高ければ高いほど、今現在の価値が相当高いものと考えてしまうからだ。

それも、周りが見えなくなるほど。自分の魂が悪魔の手に渡ると言うリスクを感じなくなるほどに。

俺に言わせたら、そんな状況に陥ったら、さっさと死んで天国へ行けばいいのに。

と思ってしまうが、そんなことをされてはこっちの商売があがったりだ。



ある日、俺は仕事に行かなければならなくなった。

まぁ、最後に仕事へ行ったのが昔だったから当然のことだった。

昔から、人間から要求される願いは普遍的だった、やれ金貨をくれだの、金を増やせだのと言った。その時代の社会が価値を保証しているものを要求してくる。

それがいつも滑稽でならなかった。

紙切れや、金属の塊自体には何の価値もないのに。それに、価値を保証している社会それ自体が突然なくなったらどうするのだ?


客を探すために人間の住むある街へ来た。

広い道路には人間やら車やらが行き交い、その間をやたら背の高い建物が並んでいる。

俺は、その建物の間の狭い道へ入って行く。

昔から大抵人通りの少ない道は、ホームレスやら薬物、アルコール中毒者などの社会と言う共同体から排された奴らの温床。客を見つけるにはもってこいだ。

しばらく、そのゴミや何かの腐る臭いのする道を進むと右の建物の裏口の前で、中肉中背の白い口髭を生やした初老の男と、身体が大きく身体中に刺青を彫った中年の男が喋っているのが見えてきた。

その二人に近づき、会話に耳を傾けた。もちろん、彼らに俺の姿は見えていない。

初老の男は憤慨した様子で、


「くそ!あの六階の男、また家賃を出し渋ってやがる。半年分、いやそれ以上かもしれん。とにかく、今度こそ奴にはここを出てもらう。」


「そいつにはそのことを話したのか?」

と中年の男が聞くと、


「当たり前だ!何十回も俺は奴に警告したぞ!それでも、奴はここを出ようとせず、挙げ句の果てに返事すら返してこないようになりやがった!」


「まぁ、落ち着けよ。それで俺は何を手伝えば良い?」


「ああ…そうあんたには奴を追い出す時に手伝って欲しい。力尽くでやるには、俺は年を取りすぎてるからな。もちろん、謝礼は払おうだがあまり期待しないでくれ」


「あまり気にするなよ、不景気なのはお互い様さ。で、いつにするんだ?今すぐってわけにもいかないだろ?」


「そうだな、じゃあ明日の10時頃、通勤ラッシュが終わったぐらいにしよう。あまり大きな騒ぎにはしたくないからな。」


「分かった。あぁ、そういえば……」



俺は彼らが次の話題に移ろうとした瞬間には、もう身体を宙に浮かせ六階を目指していた。

今回はかなり運が良い。こんなに早く、客になりうる人物の情報が手に入るのもそうだが、彼らのこの企てはいざという時に客を揺するのにも利用できる。

六階の窓の前まで来た。覗くとほとんど、物がないせいでだだっ広く見える部屋に男が一人椅子に座り、窓がある壁側な置いてあるテレビを酒を飲みながら見ていた。


「はぁ…とうとう、一文無しになっちまった。神様でも悪魔でもいいから助けてくれないかなぁ…」


おそらくこいつは、心にもないことを言っているのだろうが助けを求めた相手がすぐ目の前にいるのだからこれ以上滑稽で運の良いことはあるまい。

俺は窓を通り抜けて、彼の目の前に”現れた”。


彼は突然目の前に現れた俺を見て、椅子の上で軽く仰け反り、言葉も出ない様子だった。

俺は彼を落ち着かせるように笑顔で言った。


「こんにちは」


「あ…あんたは?」


「俺は悪魔だ。さっき、あんたが呼んだだろう。」


「…」


彼は本気で驚いていたようだ。返す言葉も出ないらしい。ここからは勝手に話を進めさせてもらった。


「提案だあんたの願いを一つ叶えてやろう。ただし、対価としてお前が死んだ時お前の魂を貰おう。どうだ?」


「…ひ、一つだけなのか」


「ああ、だが昔『その願いを叶える回数を増やしてくれ』とか言う輩がいたが、さすがにそれは無理だ。そこは分かってくれ」


彼はやっと落ち着き始めた様子だった。


「ああ、もちろんだ。今俺は”悪魔の手も借りたい”ぐらいの状況だからな」


「そりゃ良かった。で?どんな願いを叶えて欲しい?」


「じゃあ、こいつを増やして欲しい」

と彼は言って、ポケットから一枚の紙を俺に渡した。

案の定、金だった。俺はつまらないなと言う感情を抑えながら


「おやすいごようだ」

と言って、魔法を使い部屋の床から水が湧き出るように金を増やし出してやった。


「これでどうだ?」


「ああ!ありがとう!もう十分すぎるぐらいだ‼︎」

と彼は椅子から飛び上がり気が狂ったようにはしゃぎ出した。


「ところであんた。この金をどう使うんだ?」


「そうだな、まずは銀行に持って行ってデジタル上で取引できるようにしなくちゃな‼︎」


「デジタル…なんだそりゃ?」


「さぁ、俺にもよくわからんとにかく形のない物だよ。今の時代現金で取引するような奴はいねぇよ!」


俺は驚いた、本来物の価値の代行、商品交換の媒介物を務める筈の金がもはや実体のない物にまでなっているのかと。


「金はどうやって形ない物に成うるんだ?」


と聞いたが、俺の言葉はもう彼に届かないようだ。彼は軽く歌いながら部屋の奥から大きなカバンを引っ張り出してきて、狂ったように金を詰め始めた。

彼のこの後の行動を見ていれば、さっきの俺の疑問の答えはわかるだろう。と、俺は彼から姿を”消し”、金を詰めるのを待つ間テレビに耳を傾けた。

「州議会は財政難の解決策の一つとして先週可決された小売売上税の増税案が民衆の理解を十分に得ていないと言う問いに対して……」




彼は金を詰め終わると、カバンを持ち部屋を出た。俺はその後を追う。

人通りの多い道を彼は周りの人間が変な奴を見るような目で見ているのにも関わらず、口笛を吹きながら、軽く小躍りをするように歩く。

恐らく彼のこれからしようとする行動は現在彼にとって、とても価値が高く、故に世間体なんかはもはやどうでもいいのだ。彼の行動は一見合理的に見えるが、俺が気付いていないだけで実はどこか不合理なのだろう。


アパート出てから10分ぐらいたっただろうか。彼は銀行へ入り、受付の女性定員の目の前に「バン!」と無造作に、金の入ったカバンを置くと、


「これを貯金したいんだが」

と言い。

彼の失礼な態度に身じろぎもせず、店員は、


「かしこまりました。枚数を数えますので、その間こちらの書類をご記入ください。」


と書類とペンを彼に渡し、これまた無造作に詰め込まれた金を一掴みし、整理し始めた時、その手を止めて彼に言った。


「お客様、このお金を貯金することはできません。」


「何を言ってる?俺は客だぞ?客の言うことを聞けないのか?」


「はい」


「分かったもういい!違うところに行く!」


「しかしながら、あなたをここから出すわけにはいきません。」


「は?何を言ってる?大金を見て気が狂っちまったのか?」


「いいえ。ただ…」


「ただ?」


「ただこのお金はすべて識別番号が同じな物ですから…」


彼の周りには警備員が集まってきていた。



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