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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第二章・番犬
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女キャラと爺キャラって大体強い

弱者が力を持つことに皆ロマンを感じるんでしょうか。

「あら? そう言えばニゾウさんは? さっきトップルームに行った時は居なかったから、てっきり戻ってきてると思ってたんだけど」

マリオが、思い出したように室内を見回して、言った。すると、寝転がりながらアッシュが口を開いた。

「ニゾウさんなら俺に留守任せて出てったぜ。『賽の河原』の買い出しだとよ」

 ダイゴは思った。

(賽の河原? ……いや、そんなことより)「俺っ娘か……。悪かねぇぜ……」

 思っただけでは済まなかった。

「何か言ったか」

 瞬間、アッシュの体から殺気が吹き出す。

「何も言って無いっス!!!!」

 ダイゴは恐怖で体から汗を吹き出しながら土下座した。その動きには無駄がない。それもそうだ。彼の土下座の経験値は並ではない。

「……おいハゲ」

そんなダイゴを見下ろして、アッシュが口を開いた。

「テメェ、試験じゃあ見なかったから、推薦で入ったんだよな?」

「そ、そうっスけど……」

恐る恐る顔を上げ、ダイゴは答えた。その目には疑問の色が浮かんでいる。アッシュは続けた。

「ってことはテメェ、相当強いってことだよな?」

「え、何その謎理論」

そんな台詞を漏らすダイゴに対して、アッシュはお構い無しに言う。

「じゃあよ、俺と手合わせしろや」

「ファっ!?」

唐突な宣戦布告に驚愕するダイゴ。慌ててアッシュに問う。

「手合わせ!? どういうことっスか!?」

「ああ? テメェ髪だけじゃなくて脳味噌も無ぇのかよ?」

「足りないだけで無いわけじゃ無いっス!!」

「弁明の仕方が的外れね……」

マリオが溜息と共に感想を漏らした後、続ける。

「でも、ダイゴちゃんの実力を実際に見る、良い機会かも」

「マリオさんまで!?」

「おら、後はテメェ次第だぜ」

「う……。わ、分かったッス……」

アッシュに気圧され、ダイゴは渋々承諾した。

「よし、そうと決まりゃ早速『鍛練室』に行くぞ。付いて来いハゲ」

「鍛練室? 何スかそれ?」

 マリオがその問いに答える。

「鍛練室っていうのは、獄犬棟の全ての階にあるトレーニングルームみたいなものよ。さ、アッシュに付いていきましょう」

ダイゴはマリオの言葉に従い、待機室から出るアッシュの後を追った。

 アッシュはその『鍛練室』と記されたプレート付きの赤い扉は、待機室へ続く扉から、少し離れたところにあった。

 アッシュに続く形で中に入ると、ダイゴは思わず歓声を上げた。

「うおおお! スッゲェ!! ジムにあるような器具が、沢山ある!!」

ダイゴは鍛練室の充実した器具を前にして目を輝かせる。アッシュはそんなダイゴを尻目に、室内の器具が置いていない広いスペースに立った。

「ここならやり易そうだな。よし、来いハゲ」

「ええ?……あの、さっき承諾しておいて何ですけど、やっぱ止めませんか?」

「……何だと?」

ダイゴの提案にアッシュは眉をひそめる。その様子を遠く離れた場所でマリオが見守る。

 鋭くなった灰色の光に身を竦ませながら、しかしダイゴはおずおずと続けた。

「いやぁ……、その、やっぱり女の子と戦うのは男として、あの……」

「……チッ。じゃあこっちから行くぜ」

 舌打ちをした後、アッシュは目にも止まらぬ速さでダイゴに詰め寄った。突然のことに目を見張るダイゴに、白い掌底が打ち込まれる。

「ごぶぅ!?」

それはダイゴの腹にめり込み、その体を5メートルほど吹き飛ばした。

そのまま床に叩きつけられる体。痛みと衝撃が肺を圧迫し、息となって口から洩れる。ダイゴは地面に横たわって呻いた。その中で、彼は思考する。

(つ、強ぇぇぇぇぇぇ!! 何だ今の!? ゼインなんて目じゃ無かったぞ!?)

体躯からは想像できないほど、彼女の掌底は重かった。驚きの色を隠せないダイゴを、アッシュは睨む。

「……おい。出し惜しみすんじゃねえ。心象使いやがれハゲ」

 その言葉に、マリオが目を見開く。しかし、それだけだった。彼は何かを言うことはしなかった。

「え!? いや、でも……」

 躊躇うダイゴにアッシュは溜め息をつくと、言った。

「……良いこと教えてやるよ。死界じゃあ男も女も、鍛えて手に入る筋力は平等だ。女に優しくすることは無価値だと知りやがれ。……それに、」

 言葉と共に、アッシュはダイゴに凄まじい速度で飛びかかり、

「テメェが心象使っても、余裕で俺が勝つ」

 ダイゴの顔を殴り抜いた。

「ぶげら!?」

ダイゴの鼻から血が吹き出る。しかし、アッシュの攻撃は止まない。そのままダイゴの胸ぐらを掴み、投げ飛ばした。

「っ!!」

 しかし、ダイゴは何とか受け身を取り、体勢を立て直す。生前、巨代に散々投げられていたため、自然とそういった技術が身についていたのだろう。改めて、彼は祖母に感謝した。

「……」

 ダイゴは少し黙り込んだ。迷いも、葛藤もあった。べらぼうな強さを前にしても、彼の心は女性に心象を使うことに、異を唱えていた。しかし同時に、全力を出さないことは失礼にあたるのではないか、という思いも頭の中に湧いていた。その二つの思考をぶつけ合わせて数秒、ダイゴはアッシュを見据えると、

「……すんません! 心象、使わせてもらうッス!!」

と言い、ファイティングポーズを取った。


 ダイゴの雰囲気が、変わる。


「……行くっスよアッシュさん! おおおおおお!!」

気合いを発してから、ダイゴはアッシュに飛びかかった。その速さは、先程のアッシュに劣らない。

「……期待外れだな」

しかし、アッシュはカウンターをダイゴの顔面に決めて、ぶっ飛ばした。

「がぶおっ!?」

 口から血を吹き出すダイゴ。口内を切ったらしい。そのまま再び地面に転がる。

 ダイゴは驚愕した。だが、アッシュのカウンターがその反応の原因ではなかった。

「な、何だ!? 力がうまい具合に出ねぇ!?」

その理由は、心象による身体強化が上手くいかないことだった。アッシュがダイゴに言う。

「テメェ、さては俺が女だからって理由で、まだ殴るのに抵抗があるんじゃねぇか? そんなんじゃ魂気も濁る一方だぜ」

ダイゴは死者の家で、親友から受けた説明を思い出す。しかし、そうは言っても抵抗は簡単には拭い去れない。

「そ、そんなこと言われても……」

ダイゴは鼻と口から血を流しながら溢す。その時だった。

「アシュ嬢〜、生まれついての性格から来る抵抗はそう簡単に取れるもんじゃあ無いよ〜」

ダイゴの後ろから、間延びした声が聞こえたのだ。

(!? ……気配も……足音も……全く聞こえなかった……!?)


ダイゴは戦慄と共に振り向く。するとそこには、

「お〜、君が研修生のダイゴか〜。さっきマリ坊から聞いたよ〜」

 黒い僧衣を纏い、その上から赤色のちゃんちゃんこを羽織った老人が居た。身長は153センチ程だろうか。閉じているとダイゴが思うぐらいに目を細め、口元には微笑を浮かべている。手には金色の錫杖を持っており、その禿げ頭には毛が一本も生えていなかった。

「ニゾウさん。帰って来てたんですか」

 アッシュが言う。どうやらこの老人がニゾウと言う人物らしい。ダイゴは慌てて心象を切り、頭を下げて言う。

「お、大山大悟です! 今日から研修生として、この部隊で活動することになりました! え、えっと、さっきは助けていただいて有難うございました! その、不束者ですがお願いします!! ニゾウさん!!」

「こちらこそ宜しくね〜ダイ坊〜」

「だ、ダイ坊?」

 呼び方に戸惑うダイゴに、マリオが言う。

「ニゾウさんは人をそういう風に呼ぶのよ。男には坊、女には嬢って付けてね。何故か私も坊呼びされてるけど」

「当たり前だろうがこのオカマ」

「な、何ですってええええ!?」

「まあまあ〜、落ち着いて〜。喧嘩は腹が減るだけだよ〜」

にこやかな表情のままニゾウが二人を諌める。すると二人とも渋々だが、大人しくなった。その様子を見てダイゴは言う。

「お、お二方を大人しくさせるなんて、ニゾウさんすごいっスね!」

「まあね〜。これでも儂、第四部隊隊長だし〜」


「・・・マジッスか!!?」


そういや今日カラオケに行ってきました。未だに喉から血の味がします。

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