第4話:帰り道
桂達と一緒に近くのスーパーに行った。
買った物を見ると、じゃがいも、人参、玉ねぎ……なんてのが大量にあって、カレーのルーもあったから、どうやら合宿のご飯はカレーライス等の大量に作れる物がほとんどらしい。
まぁ、合宿の定番だろう。それは女子ばかりでも変わらないようだ。
スーパーからの帰り道、俺は桂と並んで歩いた。そしてふと気付く。
「あれ?桂ってもしかして姫咲よりも背ぇ低い?」
「え?……ああ、そうかも。たぶん、2、3?くらい……よく分かったね?」
桂の目線が、姫咲よりも俺に近い気がしたから、何となしに訊いてみる。
どうやら気のせいではなかったみたいで、気付いた俺を桂は目だけで不思議に思っていることを伝えてくる。
桂は表情豊かな方ではない。
だから、彼女の気持ちや考えてることが何となくだけど分かることは、俺の自慢だ。
「姫咲とはよく出かけてるから、こうやって話すの多いんだ。だから、目線がちょっと低い気がしたんだよ」
「なるほど。ホント、仲良いね」
そう笑った彼女が少し寂しげに見えた。
「桂とだって仲良いつもりだけど?」
「そうね。ありがと」
やはり寂しげな笑顔。
何がそんなに寂しいの?俺、そこまではさすがに分かんないよ……。
思わず立ち止まる。
すると桂も立ち止まって俺を見た。
俺は桂を見つめた。
彼女の頑固さに俺は惚れた。
だけど……
いつまでそんな硬い殻の中にいるつもりなの?いつか、破って出てきてくれると期待するのは……間違い……?
俺は真剣に桂を見つめる。
テレパシーがあればいいと思う。
でもなくて良かった。
無駄に彼女を傷つけたくはないから。
「希……?」
「おいコラ!そこの二人!!」
松永の大声にビクッとした。俺も、桂も。
この瞬間、まるで止まっていた時間が急に動きだしたような感覚に陥って、動揺した。
視線が定まらない。
「なぁ〜に世界つくっちゃってんのかなぁ?ん?希」
松永は海堂さんと俺達の後ろからついて来ていて、どうやら一部始終見られていたようだ。
うわぁ〜……恥ず……。
「世界なんてつくってねぇし」
とりあえず反論する。
「いいや。ぜってぇつくってた。ね!海堂さん!」
反論を否定するだけでは飽き足らず、海堂さんに同意まで求める。
おいおいおい。カンベンしてくれ……
「えっ!?え〜と、う〜ん……」
ほら、急に振られて戸惑っているじゃないか、バカ。
だけど海堂さんはしばらくうんうん唸って、さらに恥ずかしいことを言ってくれた。
「うん。でも世界を作ってたって言うより……どっかのドラマを再現してるのかと思ったな、私」
ドラマ……
恥ずっ……!
「いや、ホント、そんなことないから!」
とにかく必死で否定する。
「必死」て辺りがより一層疑惑を深めるものだと知っていても、やっぱり必死になってしまうもんだ。
「おーい。何やってんだ?」
俺達の先頭を行っていた清田が神野さんと戻ってきた。
「何もないよ。さっさ学校帰んぞ。ほら、松永も!」
松永が何か変なことを言いだす前にと、俺は二人をせかすように背中を押す。
その意味が分からない清田は困惑した顔のまま歩きだし、意味が分かっている松永はニヤニヤと俺を見て歩きだした。
ああ、恥ずかしい……。顔から火が出そうだ。
「希」
「うん?」
顔が火照ってないか両手を頬にあてながら、俺を呼んだ桂を見た。
「考え過ぎだからね」
「……」
一瞬、桂の言ってる意味が分からずにキョトンとなる。
だけどしばらく考えて、さきほど俺が桂を見つめた理由のことを指しているのだと分かった。
……テレパシー?
いや、桂が俺の気持ちを推し測っただけに違いない。
昔から、そうなんだ。
人のことばかり……。
「うん、分かった。桂。お前も、たまに考えすぎのとこあるから、気を付けて」
「うん。ありがと」
俺が言いたかったことを分かってくれたのかどうか、それは分からない。
だけど、今度の笑顔はただただやわらかだったから、それ以上は何も言うまいと思った。