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月に恋する  作者: そばこ
15/21

第15話:人混み

 祭の本番は、午後8時から上がる花火だというのに、露店が並ぶ通りは大勢の人々でごった返していた。


 所狭しと並んだ露店で、もともと狭い通りが更に狭くなっている。


 「歩きにくい」と言うよりも「流される」という感じの人混みに、俺達は少し腰が引けてしまった。


「うっわ。多……!」


 姫咲の感想は短いが、それだけ驚いている事が伝わりやすい。思わず唾をゴクッと飲んで頷いてしまうほどだ。


「こう人が多いとはぐれそうだなぁ……」


 4人の内で一番年長の社は、大人であるからなのか少し冷めた感じで、しかし保護者としては的確な心配を呟く。


「帰りたい」


 思わず言ってしまった。


 その素直な言葉に、姫咲が俺をチラリと睨んできた。


 お前だって、一瞬「ゲッ!」て顔したじゃないか!


 と思っても口にはしない。


「せっかくのお祭りで、なんて気分を害する事しか言えないのかしら?この口は」


 そう言って姫咲は俺の頬をギュウッとつねる。


「ご……ごめんなひゃい……」


 痛みを堪えて涙目になりながら謝る。


「分かればよろしい」


 パッと放され、解放されてもなお痛む俺の可愛いほっぺたを自分でよしよしする。


 なんて暴力的な女なんだ。せっかくの浴衣も、これじゃあ台無しだ。


 俺はしばらく、頬をさすりながら姫咲の事を恨めしげに見ていたが、俺の視線に気付いた姫咲が振り返る瞬間に目を逸らした。


 もしここで、目が合ったりしたら第二の攻撃がきたに違いない。


「で、どうするの?」


 姫咲が社を見て質問する。


 社の「はぐれそう」という言葉が気になったのだろう。


 「はぐれない」ようにはどうする?という意味の質問だ。


「う〜ん、そうなぁ……。希、お前、携帯、持ってきてるか?」


「え?ああ、持ってるけど?」


 今ドキの高校生で、出掛けに携帯を持っていかない人はいないと思う。


 その今ドキの高校生に俺も加わるわけだが……俺が持ってきていないと思ったのだろうか。


 いや、単なる確認作業かもしれない。


「よし、じゃあ、別行動しよう。俺ら2人と希と桂の2人。桂の事、任せたゾ☆」


 パチッ


 とウィンクを俺にして、姫咲が何か反論しようと口を開く前に、たったか彼女の手を掴んで人ごみの中に入って行った。


 なんか、こうやって別行動するのにやたら慣れているように感じるのは……


 奴がそれだけ年を取ってるってことだろうか?


「……きもっちワル」


 ボソッとした呟きに振り返ると、桂が眉間にこれ以上は無理だろ、ていうぐらい皺を寄せ渋い顔をつくっていた。


 社の、最後のウィンクにとどめを刺されたんだろう。


 うん。その気持ち、痛いほど分かるよ、桂。


「立派な大人が、“ゾ”はないよな、“ゾ”は」


 あえてウィンクには触れず、同意を示す。


「ええ、ホントに」


 渋面のまま、社と姫咲が消えていった人混みを見つめて桂が相槌を打つ。


 しばらくそのまま人混みを見つめる。


 ザワザワザワザワ


 太陽も沈みきった街の通りに、露店の明かりは煌々と、しかし揺れるように妖しく存在している。


 それは蛾にとっての誘蛾灯みたいなものだろうか。


 人々がふらふらと吸い込まれている。


 楽しそうに笑う浴衣を着た女性、はしゃぐ小さな子供。

手を繋ぐカップル、かき氷を手にする女の子……。


 少し離れた所から見るお祭りというのは、ちょっとした異空間のように感じる。


「ふぅ……」


 異空間を見る俺の横で静かに桂が息を吐いた。


 眉間の皺はなくなっていた。


「行こうか、桂」


 努めて柔らかく笑う。


 桂も柔らかく笑って、


「ええ」


 と応えた。


 人ごみの中に自らの足を踏み入れる。


 はぐれるかもしれないからと言って、姫咲と社のように手を繋いだりしない。


 俺と桂は幼馴染みで、友達で……


 手を取り合って歩くような関係じゃないことは、俺自身がしっかり自覚している。


 手なんか、握れない。


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