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月に恋する  作者: そばこ
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第1話:待ち合わせ

 生まれつき色素の薄い髪と瞳。姿勢を正して歩く彼女に誰もが釘付けになる。西洋的なその容姿はどこか幻想的で、道行く男性が吸い寄せられるように近づいていく。


「ねぇねぇ君、一人?良かったら一緒に遊ばない?」


 彼らは彼女にそう声を掛ける。いわゆるナンパだ。その光景はごく一般的で日常的なもの。


 行く道を遮られた彼女はその男を見つめ……いや、睨んで、


「邪魔。失せろブ男」


 可憐な彼女の口から出たぞんざいな言葉。それを聞いた男も、見ていた通行人も瞬時に固まる。


 その光景は、彼女の幼馴染みの俺にはごく普通のもので、相も変わらぬその性格と言葉遣いに思わず呆れた。


「あんたも邪魔なのよ。退け」


 そして彼女同様にナンパされていた俺の、そのナンパしている男に睨みをきかせて追い払った。


「まったく。相変わらずモテるんだから、少しは自分で対処しなさいよ希」


 彼女は、俺の方に向き直り、俺の頬をギュッとつねって説教した。


「ひてててて……」


 思わず涙目になる。すると彼女は手を離し、ため息を吐いた。


「……ゴメンって」


 それを見て、つい俺は謝ってしまう。


「希、自分が男だからってナンパされても男と分かれば大丈夫だろう、なんて最近では通じないのよ?あんたぐらい可愛いとムラムラ〜っときちゃう奴いっぱいいんだから」


「……はい、気を付けます」


 彼女が言う通り、そう、俺はそこらにいる女の子達より可愛いらしい。


 彼女が西洋風美少女なら、俺は大和撫子的美少女……なんだそうだ。


 確かに、背も低く、黒髪に黒目という純日本風の容姿で、自分でも嫌になるほどでっかい瞳に長いマツ毛をしているから、そう言われても仕方のない事なのかもしれない。


「ん。ちゃんと反省するように」


 そう彼女は言うと、俺の頭をなでなでした。


 彼女の名前は小柴姫咲。高2で俺より一つ上の幼馴染み。


 同様に幼馴染みである俺の兄、社(24歳)とこの春結婚し、俺の義姉となった。


 と言っても、まだ籍は入れてない。姫咲が卒業するまでは正式に結婚しないそうだ。


 理由はよく知らない。


「で、今日は何?何で外で待ち合わせなのさ?同じ家に住んでるのに」


 義姉となった姫咲は当然俺の実家で生活している。


 なのになぜ外で待ち合わせをしたのか、また今日何をするのかを訊ねた。


「やぁちゃんの誕生日、もうすぐでしょ?プレゼント選ぶの手伝ってほしいのよ。

 物心ついてずっとやぁちゃんにプレゼントあげてたから、もういい加減何あげたらいいか迷っちゃって……」


「あ、そっか。しかも高校生だからお金あんま持ってないしね」


「そういうこと」


「で、待ち合わせたのは?」


「やぁちゃんとお昼食べたから」


「あ、なるほど」


 “やぁちゃん”とは兄、社のこと。


 小さい頃から姫咲はそう呼んでいて、“やしろ兄ちゃん”を簡略化したものだった気がする。


 兄は現在、一般企業で働くサラリーマンをしつつ、家業である茶道の家元を継ぐため日夜修業をしている。


 今日は平日だから昼休みに二人でご飯を食べたらしい。


「でもプレゼント選びなら俺じゃなくて桂でも良かったんじゃない?」


「桂はダメよ。やぁちゃんのこと嫌いだもの」


「……ああ、そういやそっか」


 俺が口にした桂とは姫咲の双子の姉で、姫咲同様の西洋風美少女だ。


 ただし、姫咲がおしゃべりなのに対して桂は無口で、しかもなぜか社を嫌っている。


 いや、“なぜか”なんて白々しいか。


 桂は自分とは違うタイプの性格を持つ姫咲のことが大好きだ。


 最愛の妹である姫咲。


 それを8歳年上の優男に奪われてしまったのだから、仕方ないというものだろう。


「で、弟よ。やぁちゃん何が欲しいとか言ってた?」


「いや、何も」


「役立たず」


「……」


 役立たず呼ばわりされて黙り込む。


 いや、役立たず呼ばわりされる言われはないと思うのだけど、なんと言っても姫咲は昔から“女王気質”が抜けないやつだから、慣れっこだ。


 でもこの“女王気質”が社の前では薄れてしまうのだから不思議だ。


「てか、弟よりも女房の方がそういうの詳しいもんじゃない?俺より一緒に生活してる時間が長いんだし」


「知り尽くしちゃってるからこそ意外な盲点があるかもでしょー?ま、ないだろうけどね〜♪」


 プレゼント選びを手伝わせると言うよりむしろ惚気を聞かせるために呼ばれたんじゃなかろうか、俺。


 いいけど。いつものことだし慣れっこだし。このバカップルのことなんかどうでもいいし。


 こんな調子で結局連れ回されたものの何も買わずに帰るという羽目になった。


 どうせこんなことだろうと分かっちゃいたけどね。


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