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9、襲撃計画と新たなる黒幕

「ったくよ…何でわざわざ俺らがあんな奴の依頼を受けなきゃならねぇんだよ…」


愚痴を零しながら廊下を歩く那雲。『あんな奴』とはもちろん蔭艶のことである。

ちらり、と視線を後ろに向けた。湖華は相変わらず俯いて歩いている。

先ほど、蔭艶にキスされてからというものの様子が可笑しい。

ふう、と溜息を吐いた。

こんなことになったのは影也あいつのせいである。


※数分前。


『で、その依頼ってのは何なんだよ』

影也が了解したせいで、那雲達は蔭艶の依頼を受けることになってしまったのだ。

蔭艶は勝手にソファーに腰を下ろすと話始める。

『ここ二、三日の間で連続してウチの教室の窓ガラスが割れてるんだよ。怪我人はいないんだけど、女子が怖がっててさ…』

ウンザリするように眉を潜めた那雲に気付かず、話は続く。

『ガラスは内側から割られててさ…何か得体の知れないものがいるかも、って一時大騒ぎになったんだよ』

『………で、それを僕たち金持ち部に解決してほしい、と?』

影也の問に、蔭艶は力強く頷く。

『……あの~…分かってると思いますが、ここは金持ち部ですよ?まずその手の事はオカルト研究会などにまかせるとか…』

『金で解決できないことはないだろ?』

『………。』

蔭艶の思考回路に呆れて黙る。

『……出来る限りのことは尽くします』

影也の重々しい声に、蔭艶はニッと笑ったのだった。



このような流れにより、那雲と湖華は問題の窓ガラスが割れた教室『1-3』を調べることにしたのだ。

ちなみに、蔭艶は一旦『クラス応援のリハーサルをやるから』と言って引き上げ、影也は何故か部室に残って一人で『窓ガラス割れ事件』を推理するというのだ。

影也にとっては珍しく、自分から行動しない。

何か訳があるのかとこっそり聞いてみた所、返された言葉は短かった。

『湖華を慰めてあげて下さい』

とただ一言。


(たしかに、アイツの毒舌じゃ慰められる訳ねぇよな…)

影也なりに気を使ってくれたのかもしれない。

そう思い、先ほどから湖華を気にしているのだが、一向に普段の調子に戻らない。

一年三組に向かう那雲の後ろを頼りなさ気について来るだけだ。


階段を下り、一年生のフロアに着く。多くの生徒が床に横断幕を敷いて色塗りをしていた。

中には調子に乗って絵具のバケツを零し、女子に怒られているものもいる。

生徒は、心からKSFを楽しみにしているようだ。


「…ッと、ここが一年三組」

一年三組の教室には誰もいなかった。きっと蔭艶の言う、応援のリハーサルとやらに行ってしまったのだろう。

ガラリと扉を開け、教室の中に入る。湖華は相変わらず俯いたままだ。

誰もいない教室というのも寂しいものだ。黒板にはでかでかと『KSF優勝するぞ!!』と濃いチョークで書かれていた。

薄い色のカーテンを開けると窓には確かに割られた後があり、予備の窓ガラスがぎこちなくはめられてる。


「……特に変なことはないよな、湖華」

「…そやね」

やっと返事をしてくれたが、その声は消えてしまうくらいか細かった。

少し気まずさを感じたので、踵を返して他の窓も調べる。

窓から見える校庭には、教師陣で引かれた白いラインが魔法陣のように浮かび上がっており、今は校庭の四方八方に旗がくくりつけられている所だった。


(……KSF、か)

今さらながら心の中で呟く。

楽しそうに準備する生徒達。中学校ではそのような行事に参加することは極力避けていた。

なので、こういう準備風景は那雲にとって新鮮な物だった。


「……那雲」

鈴の鳴るような声で囁かれ、思わず上の空だった意識を取り戻せさせられる。

驚いて振り向くと、湖華が目を伏せながら言った。

「ここにいても駄目やと思う…まずは周りの人に話を聞かんと」

「あ、ああ…」

確かに湖華の言っていることは正しい。やみくもに現場を調べていても何も出てこない。

まずは『窓ガラス割れ事件』について知っている人に聞いてみるのが一番だと思う。

ならば、と那雲は教室を出て隣の教室に向かった。自分の教室、一年二組に。


廊下には青い横断幕が敷いてあり、皆で色塗りをしている最中だ。

その中に混じって絵具を塗っている少年、山川海風に話しかける。


「山川、少しいいか」

「お、那雲!丁度いい、色塗り手伝っ……てあれ二年の秋ノ宮さん!?何でお前一緒にいる訳?まさかカノジョ…」

「黙れ、部活仲間だ!それより質問に答えろ。一年三組の窓ガラスが割れたの知ってるか?」

山川は那雲と湖華を交互に見比べ、思い出したかのように話し始めた。


「ああ、アレだろ?何か謎の突風でガラスが割れたってやつ!」

「……は?」


突風、という言葉ワードが引っ掛かった。それは、最近イライラして那雲が超能力で発生させてしまったものだ。

絡まっていた結び目がスルリと解けるように、事件の真相が浮かび上がって来る。

(…つぅことは何?俺が思わず起こしちまった突風で窓ガラスが割れたってことか?怪奇現象じゃなくて?)

ものすごく単純な真相が判明し、その場に硬直する那雲。湖華もそれを悟ったのか、フウと溜息をついた。

(……っつーことは)

終了。

これにて事件は解決。



(なんじゃそりゃああああああああ)

馬鹿らしい。馬鹿らしすぎる。結局すべての原因は自分だったのだ。

そんな撃沈している那雲の心な知る訳もなく、山川は慌てたように騒ぎ出す。

「そういえば!青色の絵具が無いんだ!那雲、悪いけど倉庫から絵具取って来てくんない?」

「……あぁ?」

「早く那雲!早く行かないと他のクラスに絵具とられちまうぞ!!」

「……。」

那雲は泣きたい気分になってきた。こうなったらもう絵具でも何でも取ってきてやる。


「……湖華、悪いが付き合ってくれねぇか?絵具のある倉庫の場所がわかんねぇんだ」

「ええで」

ほのかに微笑を浮かべる湖華を見て、那雲は安心したように微笑んだ。

徐々にいつもの調子が戻ってきている。

湖華は那雲を誘導するため、前に立って歩き出す。


こうして改めて見ると、湖華は黙っていれば本当に綺麗な少女だった。

華奢な腰。触れただけで折れてしまいそうな手足。栗毛色の髪の毛は綺麗に波打っており、整った顔立ちを一層引き立てていた。

影也が神秘的な美しさならば、湖華は純粋な優しい美しさというところだろう。


(……って俺何考えて…ッ!?)

慌てて湖華から視線を外し、頭の中の思考を無理矢理かき消す。

別のことを思い出そうとすると、蔭艶から言われた言葉が頭を過った。


『君ってこのに気があるの?』

(……ッ、これじゃあまるで…)

フリーズした思考回路を必死に戻そうとした時、ふいに湖華が立ち止まった。


「着いたで」

指差す先には、本当に『倉庫』という感じの倉庫だった。

キャンプに行くとお目にかかる、バンガローみたいな小さい木の建物が校庭の隅にあった。

開いた扉から中に入る。絵具やらパレットやらが大量に積まれていた。この中から青の絵具を見つけるのは時間がかかりそうだ。


「手伝ったる」

湖華と二人で倉庫に入った。乱雑に積まれた絵具の箱を、一つ一つ確認する地道な作業だ。

誰がこんなに集めたのかというくらいの画材用品の量。黙々と箱を開けて青色の絵具を探す。

しん、とした沈黙の中、ガサゴソという音だけが響く。おまけに室内は密室のせいか少し熱かった。


(…ん?密室……?)

何かが引っ掛かった那雲は眉を潜める。


密室。

男女が二人きり。


(ないないないないないないないないないないない!変な事考えてんじゃねぇよ!!)

湖華は普通に作業している。何を想像しているというのだ。


気を紛らわすため、唯一ある小窓を開けようと手を伸ばす。が、案外キッチリと鍵がかかっていた。

渾身の力を込めてロックを外そうと奮闘する。伸ばした手が痺れてきた頃、ようやく鍵が開いた。


(鍵堅く締めすぎなんだよ……ってうおっ!?)

足元にキャンパスらしきものが辺り、上ばかりを見ていた那雲は転倒する。世界がぐるりと反転した。

「……ってぇ」

どうやら軽く頭を打ったらしい。頭を押さえて立ち上がろうとすると、何か妙な違和感を覚える。

下は硬い床のはずなのに、不自然に柔らかいモノを掴んでいるのだ。


視線を向ける。

そこに。


――鼻先が付くか付かないかくらいの近距離に、湖華の顔があった。


「………え…っと、那…雲…?」

湖華は顔を真っ赤にさせてこちらを見上げている。元々緩く縛っていたリボンが解け、制服が捲れて素肌が少し見えていた。


――結論から言うと、那雲は湖華を押し倒していた。


「は…ッ!?」


ギシ、と古い木の倉庫の床が軋む。湖華は那雲にしっかりと縫い留められた形で横たわっていた。

那雲の黒髪が一房垂れた。湖華はくすぐったそうに身をよじる。

じんわりと汗が浮かんだ。互いの吐息がかかる距離なのだ、無理もない。

二人の視線がぶつかる。頬を紅潮させてこちらを見つめる少女を、不覚にも可愛いと思ってしまう。

半開きの口から漏れる吐息は、甘い香りがした。

まさに、唇と唇が重なろうとしたその瞬間―――


ボッ!!という音が部屋の隅から響く。たちまちそれは爆発的に大きな火柱となった。

(炎……ッ!?)

扉の辺りから上がった火は止まることをしらず、あっという間に部屋を飲み込んでゆく。

一気に室内の温度が跳ね上がった。

タバコの火でもついたのだろうか、そもそも何故火が付くというイレギュラーな事態が発生するのか。


だが、迫りくる炎と熱さのせいで考えることができない。

パチッ、と炎がぶつかり合う音が響くたび、火柱は急に大きくなる。


不意に、何かが那雲の肩に寄り掛かる。生々しい温度は、間違いなく人間のもの。


――それは、意識を失った状態で倒れ込んで来た湖華だった

「お、おい!?湖華!?」

必死に抱きしめて叫ぶが、当然返事は返って来ない。

煙の臭いが鼻をつく。まるで頬が焼かれそうな熱さだ。油絵に使う油さしのせいで、炎はどんどん勢いを増す。

ゴオオオ!!とすぐそこまで炎が迫る。


(……どうする?)

このままでは二人とも焼け死んでしまう。こんな時、影也の瞬間移動テレポートがあったらどんなに楽か。

ここから脱出、あるいは火を止めなければ。


だが、脱出しようにも発火地点が出入り口なのだ。わざわざ火の中心地に飛び込む奴はいない。

窓は狭すぎて通ることさえ難しい。

大量の汗が、頬を伝って落ちた。


――どうする…!?





                ◆◆◆◇◆◆◆






その部屋は、闇に覆われた黴臭い部屋だった。


棚に入った不気味な光る液体が、唯一の光源。

その液体には一つ一つラベルが貼ってあり、あるビーカーには『超能力者遺伝子』という文字が記されていた。

そんなある総合病院の奥地で、クスリと少女は微笑む。


「涼原那雲達は、仕留めたの?」

茶色い髪をボブにした勝気な瞳の少女は、自分に膝枕をしている少年に呼びかけた。

「いーや。失敗だったみたい」

楽しそうに微笑むと、少女――早峰沙帆の頬に触れる。


「でも、倉庫に入った所に火をつけたんでしょ?失敗するとは思えなかったんだけど」

沙帆は、愛おし気に頬に触れる少年の手を包み込んだ。

そして恋人に愛を囁くかのような声で言った。


「どうやって生き延びたのかな?秋ノ宮湖華はあなたの睡眠薬のせいで役に立たなかったんだし…」

「……ああ。確かに湖華にはキスした時に睡眠薬を流し込んだ」

「でも睡眠薬じゃなくて毒でもよかったんじゃない?そうしたらすぐ殺せたのに…」


すると少年は身を起こし、静かに沙帆の唇を奪う。

「…言っただろ。俺は可愛い女が大好きなんだよ…あの女は、殺すのは勿体ない」

「へぇ、妬けるじゃない」


抱き寄せられた沙帆は、艶麗な微笑を浮かべる。

少年の指先が、沙帆の身体を這う。だが、その肌は人間の肌ではなく、精密機械が埋め込まれていた。

「涼原那雲…どうやらアイツの超能力で室内の酸素を奪い、火の広がりを止めたらしい」

「火は酸素がないと燃えない…考えるわね」

「そして酸欠で自身も倒れた所を、三苑影也に発見された」


少年は、眉を潜める。

「三苑影也…アイツは気をつけろ。あの男は妙に鋭い。俺のことも少し疑っていた」

「まさか……あなたが『超能力者』だとばれたの?」

「……かもな」

沙帆の表情が険しくなった。だが、少年はいよいよ楽しそうに口角を吊り上げる。

「本当のショータイムはKSFの時だ。…次こそ仕留める」

「その時は、私にも加勢させてね」


暗い暗い病院の中で、少年の瞳がぎらつく。

――それは、立派な殺意だった。


「ああ、もちろん…」






三日後、波乱のKSFが幕を開ける。

と、いう訳で次回からKSF編の予定です。

頑張って近々更新します(多分)ので、無事に更新されることを祈って下さいますと幸いです。

ウチの学校は只今文化祭の準備中です。忙しいです。

……本当に近い内に更新できるのか

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