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4、拘束されていた手錠を外す

機械人間アンドロイドが消えた後も、那雲はしばらくの間そこから動けなかった。


粉塵が舞う広い校庭の真ん中で。

やがて、何かの糸が切れたかのようにその場にへたり込む。

「……ッ」

どうやら先ほど刺さったガラスの破片が再び痛み出したらしい。

そんな那雲の横顔を見て、傍にいた影也がそっとハンカチを差し出した。

「どうぞ。そのままでは傷が悪化してしまいますよ」

「……」

しばらくその黒いハンカチを凝視していたが、何かを思い出したかのように顔を背ける。

「いい。お前らに助けられても迷惑だ」

激痛が走る左腕の傷口を抑えて無理やり立ち上がる。

影也はしばらく沈黙した後、ハンカチを申し訳なさそうにポケットにしまった。


那雲は歩き出す。

影也たちに背を向けたまま。

重たい足は上手く動かず、時々身体が傾いだが決して振り向かずに。

ジャリ、と砂を踏みしめる音がやけに大きく感じた。


あの人達には頼れない。

昔と同じことを繰り返すだけだ。

なら、関わらない方がいいに決まっている。


「待ちや」


鈴のなるような声の関西弁が響いた。

那雲は一瞬だけ歩みを止める。だが、再び土を踏もうと歩を進めた時だった。


「待ちやゆうてんのが聞こえんのか!?止まれ!!」


先ほどとは比べものにならないくらいの大喝が飛んだ。

驚いて振り返る。

視線の先に立っていたのは、険しい顔つきをした少女。

自分とは無縁の世界、どこかのお姫様のような可愛らしい容姿を持つ少女だ。

その少女が、唇をギュッと噛みしめて怒りのおもてでこちらを睨みつけている。


「……アンタは、自分を何やと思っとる」

那雲は、ただ黙る。


「今までずっと独りだったんやろ!?誰とも会話できずに!!」

「……」

「そんなの寂しいに決まっとる!!そんなんは間違ってんや!!」

「……るせぇよ」

自分の何が分かるというのだ。光の世界の住人のくせに、偉そうに物を言うな。

だが、心の深い奥底に微かな希望が輝いていることを、那雲は知らない。


「ウチがアンタを助ける!同じ境遇の人間を見捨てられると」

「うるせぇって言ってんだ!!何が同じ境遇だ!!何も知らない癖に、俺にかまうんじゃねぇ!!」

「ッ!!」

途端、パンと頬を張られた。

湖華が、手を振り上げた格好のまま震えている。

「……ウチも、両親がおらん」

ぽつりと、紡がれる言葉。那雲は息を飲む。

「けど、寂しくてどうしようもなかったウチを、今の秋ノ宮家が救ってくれた。名前のなかったウチに『湖華』ゆう名をくれたんや」

キッ、と視線をぶつけられる。この少女は――強い。那雲は不思議とそう確信した。

「くれたんは名前だけじゃない!独りぼっちだったウチを引きずり出してくれて『希望』をくれたんや!!」

那雲は、小さな少女の話を黙って聞いていた。


「アンタも、変わりたいんやろ!?ホントは、こんな生活はもう嫌なんやろ!?」

「……俺、は…」

「何で自分を信じへんの!アンタは、自分で闇を作り出しているだけや!本当に怖いのは自分自身やろ!?」

「!!」

「誰も傷つけたくない?アホかアンタは!!アンタのその力はな…傷つけることしかできんのか!?その力を使って誰かを救うことはできんのか!?」

「救…う…?」

「そうや!その力をどう使うかはアンタが決めるモンやろ!!それによってアンタは、光にも闇にもなれる!!それが分からんのか!?」

「―――!」

呼吸が止まったような気がした。

湖華は那雲の羽織っているパーカーを掴んだ。


「アンタは、化け物なんかじゃないんや!!」


今度こそ、本当に呼吸が止まる。

ずっと、蔑まれていた。自分は、この世界の害になるものだとばかり思っていた。

幼い子供は、何度も命を絶とうとしたこともあった。


ずっとずっとずっと。


誰かに、自分を見てほしかった。


認めてほしかったのだ。


一人の人間として。


『涼原那雲』として。


「……ッ!!」

目を見開く。

身体の奥深くから込み上げる熱い思いを抑えられない。

自身の身体の根源となっていた『希望』が盛大に弾けた気がした。

堅く握りしめていた拳が、震える。


湖華の声が響いた。先ほどとは違う、母親が子供をあやすときのような優しい声で。

「……異能力研究部に、入ってくれんか?」

伏せていた顔を上げる。

風が吹き、目元を覆っていたパーカーが靡いた。

澄んだ瞳で、目の前に立っている影也と湖華を見つめる。


漆黒の黒髪が広がった。


「……ああ」






           ◆◆◆◇◆◆◆





「……で、何なんだココは」


感動の(?)湖華の説得から30分後。

那雲、湖華の二人が立っているのは、ある教室の扉の前。

そこには、でかでかとした板に毛筆で『金持ち部』と書いてあった。

湖華は不思議そうな顔で答える。


「だから異能力研究部の部室やけど」

「そうじゃねぇよ、んだよこの『金持ち部』って…」

「那雲はホントドあほやな~」

小馬鹿にしたように口角を吊り上げ笑う湖華。つうか初対面でドあほとか言うな。

「普通に『異能力研究部』って名乗ったら怪しいやろ?だからこうして名前を偽ってんや」

どっちにしろ怪しさ全開だろ、と心の中だけで突っ込む。

「ちなみにこの部の入部条件は表向き『親の年収が八千万以上』になっとる。これなら余計な一般人も入れないやろ」

「当たり前だ!!八千万てどこのブルジョウだよ!!」

と、早くもコントを繰り広げる二人のもとに「すみません、遅れました」と駆け寄ってきたのは影也だった。


何でも先ほど引き起こした騒動の説明を、先生および校長にしていたらしい。

全校集会から戻って来た生徒と教師は、全壊した二階廊下を見て唖然だったそうだ。(無理もない)

そこで影也は『我々金持ち部が少々派手な実験をしてしまいまして。え?ああ、修繕費はすべてこちらで受け持ちますからご心配なさらず。そのための金持ち部ですから』

とニッコリスマイルで言ったらしい。

どこの学校に自分で謎の実験をして学校を壊し、修繕費は自分で払うというトンデモナイ生徒がいるというのだ。


「いや~今回は中々安上がりで済みました。しめて【一部音声を乱しております】円ですね」

「なんや結構安いな」

「って待て!!それ車二台は余裕だから!!というか毎回こんなことがあんのか!?」

「結構来ますよ~彼女アンドロイドは。概ね私達の超能力を何かに利用したいんでしょう」

女神のような美貌でアブナイことをサラリと言う影也。


「まあここではなんですのでお話は室内で」

苦笑しつつ、影也は金持ち部の部室のドアを開けた。

その先に広がっていた世界は――

「…は?」

思わず絶句して声を漏らしてしまう那雲。

ポカンとしている彼をよそに、二人はさっさと室内に入ってしまった。


「どした?早く入り」

湖華に促されて恐る恐る踏みしめたのは、真っ白な羊毛のカーペット。

さらに部屋の中央には、会社の社長室に置いてありそうな感じの巨大なソファーが二つ。

ソファーの前には、ガラスでできた透き通る長机が設置され、バラの花が小さい花瓶にいけてある。

その他にも天井からぶら下がるシャンデリア、煌めく彫刻が刻まれた本棚と食器棚。部屋の隅には明らかシルクであろう毛布に包まれているベッド。

(これは学校側も引くだろうな…というか八つ橋会社ってそんなに儲かるのか…?)


校内とは思えないほどの眩しい空間がそこにはあった。


「ん~っ、何か疲れたわ」

早くも王家の人間が使いそうなベッドに寝転がる湖華。

「あ、今お茶をお出ししますね」

手慣れた手つきで細かい装飾の彫られた食器棚を開ける影也。


(つうか勢いで入っちまったけど、俺別の意味でやっていけるのか…?)



那雲の心の叫びは、切実だった。








キャラクター紹介4


●早峰沙帆

機械人間アンドロイドの少女。

那雲たちが生まれた病院の中で、密かに造られた。

元は人間だったらしい。

なぜ機械人間アンドロイドになってしまったかは不明。

何のために造られたかも不明。

いつか明らかになる…かも。

髪形は茶色のボブで、活発そうな顔立ちをしている。

銃器やバズーカ、マシンガンなどの機能が体内に埋め込まれている。

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