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16、根幹を形成するモノ

唐突ですが、ここで那雲の充実した半日を振り返ってみましょう☆


・朝の登校中、キャンプに行く二年生のバスを発見する。

・バスの中に美貌の悪魔の姿を発見してしまい、朝からテンションが下がる。

・そのせいで遅刻した。

・授業中、カツラで有名な洞田先生(通称ズラ田先生)に目をつけられてチョークを飛ばされる。

・廊下に立ってなさいの刑(何故か何も悪いことはしていないのに)

・昼食中、自作のゆるキャラ弁当を山川に見られかけ、思わずフルーツオ・レを吐く。


「…やべぇ、俺何か今日死にそうな気がする。いや深い意味はないけど」


ポツリと溜息混じりに呟いたのは、帰りの先生による業務連絡の真っただ中。

那雲は自身の身に起こった、不幸と認識できる出来事だけを数えていたところだ。


机の上に置いたナップサックに顔を埋める那雲。もちろん先生の話などザ・聞き流しである。

掃除道具入れの金具が壊されていた、誰か知っている人はいるか、などの心底どうでもよい連絡など聞く価値もないだろう。(と那雲は勝手に思っている)


ようやく長ったらしい連絡が終わり、学級委員の号令で起立、礼のお決まりの手順を踏む。

部活に行く者あり、彼氏と帰宅する者あり、と生徒達は別々の行動に向けて動き出す。


(俺は部活…な訳ねぇな。何か『金持ち部』を守れだの言われた気がするがんな面倒なこといちいちやってやってられっかよ)

早くも昨日影也宅の前に集合した意味を八割方忘れた那雲。ナップを右肩に引っかけ、邪魔な長髪をはらう。


ちなみに、現在の那雲の恰好は白色のカッターシャツ(といっても第三ボタンまで外れて中のTシャツが見えているが)に黒のズボン(といっても腰まで下げてあるが)に後ろでまとめた長髪だった。

初夏に移りゆくせいか、周囲の生徒も格段に白色のカッターシャツの割合が高い。


と、白色の群集を押しのけ、教室の出入り口に向かう那雲。

(?、何でこんなに人が多い…?)


先ほどまではあまり気にしていなかったが、こうして辺りを見渡すと生徒がやたら群れている。それも教室の出入り口付近に集中していた。

どうやら、皆教室内から教室の外――つまり廊下を眺めているようだ。廊下側の壁には窓がないため、どうしても出入り口付近に人が密集してしまっているのだ。

何を見ているかは知らないが、その男女比は圧倒的に女子が高い。

「ねぇあの人…」「美形だよね…」「なんでスーツ…」という囁きの断片が聞こえた。


『美形』と聞いて真っ先に思い浮かぶのは影也だが、アイツがここにいる訳ない。

それに、アイツの場合はもっと「影也コール」が巻き起こる筈だ。

だが、目の前の女子生徒達には『何だかよく分からないが、美形がいるから見ておこう』という感じである。


(…誰か来てんのか?)

首を傾げながら取りあえず外に出ようとする那雲だったが、そこで不意に群集が割れた。人が入ってきたのだ。

そして、その女子生徒数人によるハーレム状態の中心にいる男は…


「こんにちは、涼原那雲様。まこと失礼ながら、学校まで参上致しました」

「な…っ、お前は――」


完璧すぎる立礼。優雅すぎる物腰。整いすぎた容姿に、藤色かかった黒髪。


この美形には心当たりがありすぎる。というか昨夜会った。


「湖華んの執事ッ!?」

「はい。以後、お見知りおきを」


確か名前は稜条瑠季だったか。いや、しかし問題はそれではなく。


「な・ん・で・お前が学校ここにいんだよ!?」

だが、那雲の切実の叫びに対して瑠季は首を傾げただけだった。やたら落ち着いた笑顔で言う。


「いえ、私はお嬢様に貴方を監視するように申しつけられていますので」

「湖華の野郎ぉぉぉぉぉッ!!」

ガシガシと頭を掻き毟る那雲。家に帰ってのんびり計画ははやくも丸つぶれである。

だが、そんな那雲の心中など知るよしもなく、瑠季はとっとと踵を返して那雲を誘導するように歩く。


「行きましょう、那雲様。私はお嬢様からステップ1として『引きずってでも那雲を部室に連れて行くように』との命を受けていますので」

「あーもうアイツ…つかステップ1て何だよ2とか3があんのかよコンチクショウ!!」

半ばヤケクソ気味に瑠季に続いて教室を後にする。

ちなみに、那雲が彼に大人しく従っているのは、昨夜ちょっと色々ある彼の本性を知ってしまったためである。(15話参照)


「那雲君の知り合い?」「昨夜ってなんのこと!?」「まさか恋人…」などという質問を華麗にスルーして、那雲は瑠季の背中を追う。

(あーもうまた変な誤解されたらどうすんだクソ…もうこれ以上目立ちたくねぇ…)


道をあけてヒソヒソと話すクラスメイト達に視線だけを向け、那雲はがっくりとうな垂れる。

だが、どうやら目の前の執事は『空気を読む』という概念が存在しないらしい。勝手にペラペラとしゃべり出した。


「いや~私も鶴城ケ丘高校(ここ)の卒業生ですが、昔とは大分変わりましたね~」

だから何だよ、とは思ったものの口に出さない那雲。

「昔はガソリンが入ったポリバケツがそこらに転がっていたものです…私もよくバイクで登校しましたね~」

(やっぱコイツ元ヤンだあああああああ)


湖華の家の執事になるまでの過程がものすごく気になる那雲だったが、下手なことを言うと何をされるか分からないので沈黙。

「あ、ココですね~お嬢様の部室は」


悶々と思案していたらいつの間にか部室の前だった。

那雲に扉を開けるように促す仕草は、やはり自分が部外者だからという自覚もあってのことだろう。

今ではもう慣れた、やたらゴージャスな扉を開ける。もちろん室内も豪華絢爛。(慣れというものは恐い)


定位置のソファーに腰を下ろすと、瑠季がさっそく食器棚に目をつけたようでティータイムの準備をする。

カチャカチャと茶を準備する音だけが響いた。那雲は手伝うかどうか迷ったが、やんわりと拒絶されたので大人しく待機する。

三分もかからぬうちに運ばれてきたのは、やはり抹茶と八つ橋だった。ほのかに香る新緑の香りは、湖華の茶の入れ方と同じだ。


「つーか…来てくれたのはいいけどよ…なんもすることねーぞ?」

桜味の八つ橋と抹茶を食しながら、那雲は心中にあった切実な思いを吐露する。

だが瑠季は営業スマイルを欠片も崩さずこう言った。


「ご心配なく。本日私が足を運んだのは、貴方を見極めるためなのですから」

「はぁ?」

思わず作法に反して、音を立てて茶碗を置いてしまった。だが純粋に驚いたので仕方がない。

「俺を見極める?何言ってんだ?」

「ですから、貴方がお嬢様に相応しいかどうかを見極めに来たのです」


危うく飲んだ茶が胃から逆流しそうになった。無駄だと思うが一応胸を押さえる。

「…ッ、お前唐突に何言ってる」

「失礼。これでもオブラートに包んだつもりなのですが…ではもっと唐突に聞いてもよろしいでしょうか?」

「……」

那雲の無言は、肯定か否定か。


「貴方は…お嬢様を一人の女性としてどう思っているのですか?」


――沈黙。

目の前の男の言っていることが、しばらく理解できなかった。

自分は今どんな表情をしているのか。きっと、昔の自分が見たら滑稽で仕方ないだろう。


瑠季は、それきり黙ったままだ。沈黙で次の言葉を促している。

どう思っているか?

湖華を?


目まぐるしく頭の中でぐるぐると回る様々な単語。

浮かび上がるのはこれまでの記憶の断片。


アイツは、自分に希望をくれた。自分の存在意義を思い出させてくれた。


だが俺にとって、湖華アイツとは――?


具体的な言葉が思い浮かばない。クーラーがついている筈なのに、じんわりと汗が滲んだ。


今までに感じたことのない動機。

今までに感じたことのない動揺。

今までに感じたことのない感情。


その全てが一気に心の底から噴き出したようだった。

思考がうまく纏まらない。まるで、もう一人の自分が考えることを拒んでいるようだった。


「アイツは―――」


どう言い表すか言葉を探す。

そして、それを『声』にしようとした時―――


「那雲おおおおおおおおおおッ、聞いてよおおお!」


バン、と金持ち部のドアが強引に開けられた。

第三者が割り込んできた、と分かるまでしばしの時間がかかる。


「な…ッ、山川!?」


扉の前で、走ってきたのか息を整えているのは、まぎれもなくクラスメイトの山川海風だった。

とりあえず瑠季への答えは保留にし、ソファーから立ち上がる。


「お前どうしてここに来」

「大変だよ那雲おおおおおおお」

ぎゃあぎゃあと喚くばかりで、一向に本題を話そうとしない山川に拳を入れる。

「だから何があったのかまず話せ!」

山川は殴られた頭をさすりながら言った。


「オレ、好きな人ができたんだよおおおお!!」


ガゴン、と今度は結構本気で殴った。山川はそのまま床に倒れこむ。

「な、なんだよ那雲…かなりの一大事だろ?」

「バカかテメェはあああああ!俺の無駄な緊張感を返しやがれ!」


もしかして機械人間アンドロイド関係の騒ぎでは、と疑った那雲は一気に脱力する。


「つーかテメェ午前中は普通だったじゃねーか…なんでこのタイミングなんだよ」

「さっき見て一目ボレしたんだよ!」


心底呆れた那雲は、とにかくこの邪魔な粗大ゴミを撤去しようと襟首を掴んで引きずる。

だが、そこで話題に入ってこなかった瑠季がイキナリ横槍を入れてきた。


「いいじゃありませんか、那雲様!友の話は聞いてあげるべきですよ!」

キラキラ!と何故か目を輝かせる瑠季。どうやらこの類の話に興味があるらしい。

「それはお前が聞きてぇだけだろ!、恋バナ好きって女子かよ気持ち悪」

「聞いて…あげましょうよ…」


ダン、と物凄い腕力で壁に叩きつけられた那雲。笑顔が恐すぎる。(さすが元ヤン)

「ね……?」

「ハ、ハヒ…」

何かとても恐ろしいモノを見た那雲はコクコクと頷いた。瑠季は満足気に手を放す。

山川はイキナリ現れた瑠季にかなり引いているが、先ほどの問答を見て突っ込まないことに決めたようだ。


「とにかく来てくれ、那雲!」






半ば無理矢理山川に引きずられる形で連行された那雲は、目的地である1-5の教室に着くと手を離され床に尻餅をついた。


「那雲、あの子なんだけどさぁ…」


抗議をする間もなく今度は襟首を掴まれ立たされる。自然と山川、那雲、瑠季、が教室の中を覗くような姿勢になった。イメージ的には三つ並んだトーテムポールである。

山川がこっそりと指差した先には、からっぽになった教室で一人の少女が佇んでいた。


もう授業は終わり、生徒は部活動に精を出しているというのに、少女はそれらを全く気にする様子はない。


ふと、全開の窓から風が吹き込んだ。少女の日本人形のように真っ直ぐで艶やかなツインテールが靡く。

少女は、何故かサングラスをしっかりと装着していた。もし那雲の視力がもっと良ければ、それは普通の眼鏡のレンズを黒く塗ったものだということが分かっただろう。


「…………いやいやいや、アレはねぇだろ普通」


一瞥して、ハッキリと口に出す那雲。瑠季も「そ、そうですね~…」と言葉を探している。


「なに言ってんだお前等!?それでもヲトコか!?」

「…人の好みは其々ですが…私はどうにもあの少女から漂ってくる『電波ちゃん』のニオイが…」

「……まぁ、胸はそこそこあると思うが」


密かに呟いたはずの最後の那雲の言葉は、山川にしっかりと届いていたようだ。「ホラみろ!さっすが那雲ー!」と抱きつかれる。

それを丁重に引きはがすと、那雲は再び教室内の少女に視線を向ける。


一人。たった一人で窓の外の虚空を見つめる少女。

二つにただ結んだだけの髪。規則通りにただ着ただけの制服。


漆黒のサングラスに隠れて、その瞳の色は伺えない。

だが、視線の先の少女は確かに常人とは異なる空気を孕んでいた。


容姿もそうだが、もっと深い部分――心の根幹に、何か得体の知れないものを隠しているような、そんな空気。


(…あの雰囲気、どっかで……)


目まぐるしく回る疑問。喉元まで出かかった答え。

答えが出るようで出ない――そんな気味の悪い感触を振り払おうとした時だった。


振動で、教室の扉が音を立てて少し開く。



――少女が、こちらを振り向いた。



久しぶりの投稿です。お詫びします。


……受験終わりましたー!!(パチパチ

勉強せずに臨んだ本番でしたが、まあ結果は気にしない。


……無事、合格しましたー!!(パチパチ

晴れて私も高校に進学できるようです。良かったです。


…と、まあ一人でわーわー言ってても寂しいのでこのへんで。

次回はできるだけ三月中には投稿します。(できたらいいな)←おい

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