表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

11、KSF(鶴城ケ丘スポーツフェスティバル)②

ふと、那雲は頭の中に沸いた疑問に首を傾げた。

(今のところ変わったことはねぇな…あいつらはいつ動くんだ…?)


タイヤバーゲンが終了し、現在は一年女子による借り物競争の真っ最中だった。

ようやく思考が落ち着いてきた那雲は、応援席でふと考える。


クラスの女子が競技のため応援席を離れたせいで、只今足を伸ばして座りたい放題の那雲だ。

「那雲君、ひょっとして怖いんですか?」


心を読んだかのごとく、隣にいる影也が口を挟んで来た。

那雲は少し驚いたのち、ポツリと言葉を紡ぐ。

「怖い…とかそんなんじゃねぇ、別に俺が死のうが構わねぇ。でもよ……」


那雲は顔を上げた。目の前の景色を瞳に映す。


運動場は活気に満ち溢れており、多くの生徒がプログラムを広げて笑顔で自分の組の応援をしていた。

本当に、心からここの学校の生徒はKSFを楽しんでいる。


「このKSFを台無しにするようなマネは許しておけねぇ」

目を細めてキッパリと言い放った那雲に、影也は微笑を浮かべた。

「そのようですね」

なおもクスクスと笑う影也を振り返る。

「…んだよ、俺が何か変なこと言ったか?」

「いえ、すみません。ただ……最近の那雲君は少し雰囲気が柔らかくなったような気がして」

「はあ!?」

影也はどこか遠くを振り返るような目をして空を見上げた。


「入学したての時……覚えていますか?那雲君は、初対面の僕にいきなり殴りかかって来たんですよ?」

「ああ…そんなこともあったな…」

正直、あまり思い出したくはなかったのだが仕方がない。

今でも時々あの時の自分は大層格好悪かった、と思う時がある。

あの頃はただ、自分のことが憎くて憎くて仕方がなかった。

なるべく人を傷つけないように、ということしか考えていなかった。

けど、現在いまは―――


隣にいる影也、オレンジ組で応援している湖華のことを考える。

こうして、自分の隣にいてくれる人ができた。

信頼できる仲間ができた。

それだけで、もう十分だ。


「な、なあ影也……ってうおおおおお!?」


と、口を開きかけた所でいきなり背後から腕を掴まれた。

(何だ!?まさか奴らが―――)


心臓が凍りつく思いで振り返ると、そこには青いハチマキを締めた同じクラスの女子が立っていた。

「那雲くん……あの、よかったら私と一緒に来てっ!!」


腕を掴まれたまま引き摺られる。(地味に痛い)訳が分からず、何となく女子生徒に従ってしまった。


「ファイトですよ~那雲く~ん」

呑気に手を振る影也を見ながら思い出す。今は借り物競争の時間だったのだ。

手を引かれながらよく見ると、女子生徒は小さな三つ折の紙をしっかり握り締めている。

その紙に書かれているのは『身長180センチ以上の男子』だった。


ふと、そこで那雲の頭に疑問が浮かぶ。

たしかに那雲は身長181センチでギリギリ借り物競争の条件には当てはまる。

だが、那雲は背の順で後ろから三番目だ。つまり、自分よりも背が高い人は他にもいる。

何故わざわざとっつきにくい自分を選んだのだろう?


「…お前」

「キャアアアアッ!?」


耳元で囁いただけで、女子生徒は飛び上がった。何故かその頬は真っ赤だ。

「どどどどうしたの那雲君!?ホラ、ゴールはもうすぐだよ!」

「あ……いや、何でもない……」

やたら慌てて言う女子生徒に首を傾げる。そしてそのままゴールテープをきった。


『青組一位―――っ!先ほどのタイヤバーゲンから点数挽回だ―――っ!!』

ウオオオオ、と青組の応援席から歓声が上がった。

何だかよく分からないまま参加した那雲だったが、一位だったのでまあいいとしよう。


とそこで、一位の景品(景品といっても生徒会が作った手作りのメダル)を持った女子生徒が駆け寄って来た。

息を切らして、那雲を見つめる。

「あの…那雲君、走ってくれてありがとう…それで、その…私、那雲君が…」

急に視線を逸らして紅潮した頬を押さえる女子生徒に疑問を感じ、眉を顰める。


だが、次の瞬間。


「湖華スペシャルキイイイイイイイック!!」

「ぐぼはっ!!」


何故だか乱入した湖華が、那雲のわき腹に跳び蹴りを放った。

すさまじい力で吹っ飛ばされ←(絶対超能力使ってる)ゴロゴロと地面を転がる。

地球と仲良くなっています状態の那雲の背中を踏みつけ、湖華は腕を組んだ。

どうして良いか分からずオロオロしている女子生徒があまりにも不憫である。


「ア~ン~タ~は~何で協力しとる?何ちゃっかり一位取っとるんやアンタはあああ!!」

「はあ!?んなモン同じ青組みだから協力するに決まってぐおあああああっ!?」

那雲の背中を、湖華が運動靴で踏んだ。だが、その威力は華奢な少女のものとは思えないほど強い。

湖華は一時的に自分の体重を重くし、数百キロの力で上に圧し掛かったのだ。


「待てっ、ちょお前…ギブっ…ぐおおおおおっ!?」

まさにチーンという効果音が相応しい。

半殺しの状態にされた那雲は力無く横たわる。


「フン、次の競技で覚えときいや」

湖華はそう言い捨てると、颯爽と自分の応援席に戻って行った。

「ちっ…くしょぉ…んなんだよアイツ…何か変なことしたか…?」


――この時那雲は全く気付いていなかった。

実はあの自信過剰な美少女が、那雲の手を握る女子生徒に苛立ちを覚えていたことを。

女子生徒に次の言葉を言わせないように校庭の真ん中に乱入し、騒ぎを起こしたことを。



「…っ痛てて」

痣ができた背中をさすって立ち上がると、もはや次の放送が響いていた所だった。

本当に今日は色々と転回の早い日である。まあ一大行事なので、仕方ないと言えば仕方ないが。


『次は一年による玉入れだあああ!この競技はもっとも点数が稼ぎやすい!どの組も挽回のチャンスだ―――っ!!』


テンションが上がりまくった放送委員につられ、一学年の生徒が一斉に入場する。

那雲は「ちょっとどいてね」とKSF実行委員に優しく声を掛けられた。

言われた通りにすると、今まで立っていた場所に玉入れ用のかごが六個設置される。すぐさま六つの色の玉がばら撒かれた。


「那雲、こっち!!」

山川に引っ張られ、青組の整列の中に引き込まれる。

(一息つかぬ間に今度は玉入れかよ…)

重いため息を吐いた那雲だが、周囲のやる気は最高潮に達していた。


何といってもこの競技が終わると一年の出番は午後まで無く、お楽しみの昼食時間に入る。

また、玉入れは大逆転のチャンスとして、六つの色の順位が激しく入れ替わる競技だ。


一学年全員の目の色はとてつもなく恐怖だった。闘志が燃えすぎて学校が火事にならないか心配になる。

『ではでは、一年生の白熱したバトルをご覧あれ!玉入れ、スタ―――ト!!』


パアン、という銃声と共に全員が駆け出した。

歓声と大勢の人ごみに流され、那雲の頭は混乱するばかりである。


(…ッとにかく、この競技さえ終わればあとは二、三年生の応援をして昼食!今はやるしかねぇな!!)

徐所に周囲のテンヨンに飲まれていく那雲は、青色の玉を探し始めた。

早くもそれぞれの色の玉が飛び交っており、校庭は大混雑の嵐だ。学校の上空から航空写真を撮ったら、球形の人ごみができていることだろう。


かごが立っている中心地に来ると、行きかう雑踏の隙間に青色の玉を発見する。

すぐさまそれを掴んで投げようとする那雲だったが、ある違和感に気付く。


(何だ…っ!?この玉…動かねぇ!!)

玉なんて所詮布の塊だ。高校一年生の男子生徒が全力で持ち上げようとしても動かない、というのはおかしい。


頭の血管がちぎれるかと思うくらいの力でひっぱると、ようやく玉が持ち上がった。

だが、その玉の重さが尋常ではない。数十キロ、いや数百キロはあるだろうか。

どうも、玉が重くなっているのは青組だけのようだ。あちこちで異変に気付いた青組の生徒達が騒ぎ始める。


「フン、青組さんは所詮こんなもんやな」

ふと、白熱する運動場には場違いな鈴の鳴るような声が響く。振り向くと、やはり思った通り湖華が立っていた。

「おま…二年のクセに汚いマネして紛れてんじゃねぇぞ!?」


湖華はフン、と微笑を浮かべる。分子操作で玉を重くしたのだ。本当に何でもアリのトンデモお嬢様である。

頭に来た那雲は、玉入れ用のかごを見上げる。狙うは只一つ、オレンジ色のテープが巻かれたかご。


「形成逆転だクソやろおおおお!!」

手を翳した瞬間。

那雲を中心に、莫大な突風が巻き起こった。

その突風の塊は、オレンジ組の玉入れかごに向かって突き進む。

「な…っ!?」

風速約120メートル。

巨大クラスのハリケーンをも超える勢いで暴風がかごに直撃した。

ギギ…とかごが傾く。

中の玉がすべて零れれば、得点はゼロになる。


辺りの生徒がかごが倒れるという事を悟り、四方に散り始めた。

ズズーン!という音と共に、粉塵が舞う。


「な、何が起こったんだ…?」「かごが倒れたの!?」

生徒があたふたしながら見守る。すぐに粉塵は晴れた。

結果。


――六個のかごすべてが倒れていた。


「………。」


当然、どの組も得点はゼロである。

放送委員も予想外の展開に、中継を忘れて呆然としていた。


しばしの沈黙。

『り、両者引き分け――っ…!?』

ぎこちない様子の放送で、辺りからパラパラとまばらな拍手が起こった。


「盛り下げてどうすんやアンタはあああああ!!」

「うるせええええ!先にやったのはそっちだろおがあああ!!」


そんな中、何やら掴み合いを始める二人。

両者はゼエゼエと荒い息を吐きながら睨み合う。


と、そこで不意に第三者の声が割り込んだ。


「那雲君…?」

「あァ!?今取り込んでるんだ!!」

イラつきながら周囲を見渡すが、人が多すぎて誰に呼び掛けられたのか分からない。


「ッ!?」

そして視線を戻そうとした時、那雲は確かに見てしまった。


ある、少女の姿を。

体操服を着た少女の姿。

茶色い髪をボブにした、可愛らしい少女の姿。

まるで、感情というものがない少女の姿を。


あの少女は。

あの少女の名は。


「……ッッ!?」

口の中が乾いて声が出ない。

変わりに、その少女の人形のような唇が、動く。


口角を僅かに吊り上げて。


『また、合いましたね…超能力者、涼原那雲…』







スミマセン!投稿遅れました!!

十月は文化祭があり、忙しかったのです。(という言い訳)

しかも今週はテスト週間に突入してしまいました。

またしばらく投稿に間が開いてしまいますが、どうぞ気長に待っていただけたら幸いです。

また、ものすごくヒマな人は山吹がテストで成功することを祈ってください。

では、ご迷惑をおかけしますが、これで~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ