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10、KSF(鶴城ケ丘スポーツフェスティバル)①

プログラム


・開会式

・一年男子による『徒競走』

・二年男子による『食い物競争』

・二年女子による『タイヤバーゲン』

・三年男子による『騎馬戦』

・一年女子による『借りもの競争』

・三年女子による『背渡り』

・一年による『玉入れ』

・二年による『障害物競争』

・三年による『綱引き』

~昼食~

・色別大玉転がし

・部活対抗リレー

・色別対抗リレー

・閉会式



空は、これでもかというほどの快晴だった。


太陽に照らされた運動場は白く輝いており、応援席には聳え立つそれぞれのクラスカラーの旗。

ピシッとしまった運動場のため、校舎までもが輝いて見える錯覚を覚える。

運動場の端と端に立っている六つの色のチームはそれぞれ闘志を燃やした凄まじいオーラを放っており、ピリピリとした緊張感が伝わって来た。


KSF開会式からこの有様である。

只今青組の中に紛れて早くもやる気喪失している那雲は流れる汗を拭った。


(熱っちぃ…帰りてぇ…)

だがそんな那雲の切実の願いが届くはずもなく、長さでお決まりの『校長先生の挨拶』は続く。


「日頃培ってきたクラスの団結力を存分に発揮し、今日このKSFを皆さんの力で盛り上げて行きましょう!」

締めの言葉とともに、大地が唸るかのようなやる気マンマンの掛け声が上がる。


「うるせぇ…」

耳を塞いでやり過ごす那雲に、隣に立っている影也は呆れて溜息をつく。

那雲のクラス1-2と、影也のクラス2-4は同じ色の同じチームなのだ。

なので那雲の額にも影也の額にも青色のハチマキが巻かれている。


「那雲君…もう少し緊張感というものを持ったらどうですか…今日は『奴ら』がやって来るかもしれないんですよ」

影也の忠告も上の空だ。

「でもよ~…お前がこの前言ったこと、本当なのか?」


この前言ったこと、というのは那雲と湖華が倉庫に閉じ込められ、火を放たれた時のことである。

超能力で酸素を奪い、炎を消した那雲だがその後酸欠で倒れ、影也の手で部室へと運ばれたのだ。

倉庫が焼けた件については、またしても『少々難儀な科学実験を行い燃やしてしまった』と影也が大ウソをついたので事故として片付けられた。(もちろん修繕費は金持ち部で出した)

そして目を覚まし、落ち着いた那雲と湖華に影也は自分の考えを述べたのだ。


『僕が思うに…あの依頼者の蔭艶さんは怪しいです』

『怪しい…って、まさかあいつが火をつけたとでも言うんか!?』

『それは分かりませんが…あの依頼そのものがダミーだった可能性が高いんです』

『どういうことだ?あれは俺が起こした突風のせいじゃなかったのかよ?』

『それはあり得ないはずです。それなら、あの教室だけじゃなくて他の教室の窓も割られてるはず』

『確かにな…でもそれはガラスの強度があそこだけ弱かったとしたらどうなるんや』

『強度は関係ありませんよ。それに、彼の言った言葉の中に何か不自然な言葉があるのに気が付きませんでしたか?』

『んなもんあったか…?』

『彼は言いました。ガラスが何者かに内側から割られたのでは、と』

『それのどこがおかしいんや』

『考えてみてくださいよ、那雲君の起こした突風ならば衝撃は外側から来る。つまりガラスは外から中へというように割れる』

『……』

『だから那雲君のせいならば、ガラスが内側から割れるというのは絶対に有り得ない』

『言われてみれば…』

『ちょい待ち、そんなら蔭艶はなんやったんや?何のためにこんなことを…』

『……ひょっとしたら彼は機械人間アンドロイド達の協力者かもしれません』

『!?アイツが…?』

『確信はありませんが……KSFは気を付けてください。連中はどんな手を使ってでも僕らを捕まえに来るはずです』


昨日のやり取りが脳内で再生される。

影也はそんなもん知るか、というように腕を組んだ。


「あれはあくまで僕の想像です。本当の所は分かりませんよ」

「ま、何にせよ今日を乗り切ればいいんだろ?任せろ

お気楽の那雲に呆れながら苦笑する。と、そこに背後に人影が立った。運動場がいつもより綺麗なので、人の影はハッキリと分かる。

振り向くと、綺麗に波打った髪をリボンで纏めた湖華が得意げに立っていた。額にはオレンジ色のハチマキがしっかり巻いてある。

体操着姿でも、纏っているお嬢様オーラは消えていない。


「なんや随分余裕やな~青組さん?」

「……何か用ですか」

影也も湖華とは今日一日は敵同士なので冷たくあしらう。湖華が挑発的な笑みを浮かべた。


「言っとくけどな、ウチらオレンジ組は強いで?覚悟しいや」

「……言いましたね。その言葉、閉会式の後でも言えるんですか?」


両者が睨み合う。

二人とも、数日前にあんなことがあったのにあまり気にしていないようだった。

特に湖華。那雲と倉庫の中で何があったのか――まさか忘れている訳ではないだろうが、いたって変わった所はない。

(……別にいいけどな)

自分一人で気にしているのが恥ずかしくなってきた那雲は、振り払うようにハチマキを締め直した。


影也と一通り言い合った湖華は「青組ぶっ潰したるで!」といいながらオレンジ色の応援席に戻って行く。

ちなみに、応援席は基本同じ色のチームなら誰といようが関係ないので、学年の違う影也といても誰も不審がらない。

だが影也といるとそこらの女子が写真を撮ろうと殺到して来るのがたまに傷だ。

那雲に言わせれば、影也コイツの体操着姿などわざわざ写真に収めようとする奴の神経を疑う。

まあ、顔がいいのは認めるが。


と、そこで唐突に放送委員のアナウンスが響いた。

『では初めに、一年男子の徒競走を行います。該当する生徒は、至急入場門に集合して下さい』


一年男子、該当する那雲は慌てて入場門へと走る。背後からは「頑張って下さいね~」という影也の声が聞こえた。

見ると、一年男子は早くも入場準備をしていた。山川に急かされ、青組の群集へと突っ込む。

整列し、校庭のど真ん中に進む。

那雲は身長的に、走るのは最後から三番目だった。本当は最後付近は追い抜き争いが激しく、プレッシャーもかかるため嫌だったのだが。

 

事前に決めた通り、インコースから順に白、オレンジ、緑、紫、紅、青と並ぶ。

(そういやぁ、うちの組はアウトコースだったな…)

早くもやる気をなくした那雲だったが、応援席からはそれぞれの色が懸命に応援の声を張り上げている。

巻き起こる喧噪の嵐に思わず耳を塞いだら、山川に睨まれた。


パアン!!と勝負の幕を開ける銃声が響いた。放送委員がすぐさま『天国と地獄』を流し、余計に辺りを盛り立てる。

一人が走る距離は百メートル、つまりトラック半周だ。


遠目で見ると、現在の様子は速い方から順に青、紅、オレンジ、紫、緑、白となっていた。

一番なことに何となく安堵しながら出番を待つ。

と、半分意識が飛んでいた那雲の肩に軽い衝撃が走る。どうやら隣の色の人にぶつかったらしい。


わりィ…」

謝りながら振り向き、硬直する。

「おや、何だ君か」


そこにはあのチャライイケメンの蔭艶が立っていた。頭には紅色のハチマキをしている。


『僕が思うに…あの依頼者の蔭艶さんは怪しいです』

影也の声が脳内に蘇る。

サッ、と那雲の顔が険しくなった。軽薄そうなその面差しの裏には、何が隠れているのだろう。

……コイツは、何者なのだろうか。


「な、なあお前……」

言いかけた所で、那雲が走る番になった。急いでスタート地点に立つ。

蔭艶は不思議そうな顔をしたが、すぐに微笑を浮かべる。


「負けないよ」

微笑みかけられ、ケッと視線を逸らした。


「用意」


サッ、と那雲と蔭艶を含む六人がクラウチングスタートの姿勢をとる。

パアン!!という威勢のいい音とともに前に飛び出した。そのまま全力で走る。

『青、速い!おっとだが紅も追い上げる!!』

そもそも短距離走というのは走る距離が微妙な上、地味に疲れる。存在自体が何とも微妙な競技だ。

だが、こうやる気のないヤツに限って何故か足が速いのは不思議である。


完全に那雲と蔭艶の接戦になっていた。だが、同時にゴールすると思われたその時。


コツン、とつま先に鈍い衝撃が走る。

「!?」


蔭艶の足が滑り込んだのだ。そのままバランスを崩し、転倒――

『おおっと青が転んだー!その隙に紅はゴール!!』

トラックに転がった那雲は茫然するしかなかった。アナウンスを聞いて耳を疑う。

そして三秒後、自分のされた仕打ちに気付いた。

(あの…やろォ…ッ!?)



結局、青は三位だった。一位は蔭艶が大きく引き離したことがきっかけにより紅。


蔭艶は早くもクラスの女子に褒め称えられており、応援席に戻った那雲は影也に愚痴りまくった。

「うわーそれはいかにも蔭艶さんらしい…まあ大丈夫ですよ。次の『二年男子による食い物競争』で挽回します」


とやけに自身満々で入場門に向かった影也に首を傾げつつ、応援席に座る。

食い物競争とは名の通りで、竹竿にぶら下がったパンを食べながらゴールを目指すリレーだ。

ただし運が悪いと『カラシたっぷりパン』や『ジャンボパンに当たってしまう。食べ終わってからゴールしないと反則なので、これらのパンは大ダメージである。


ワッ、と気が付くと周囲が盛り上がっていた。第一走者がスタートしたのだ。影也は身長から見て、走るのは最後になりそうだ。


「青組ファイトオオオオオオオ!!」

山川が声を張り上げた。ここのクラスだけ異様な盛り上がりである。


「影也様が走るまで一位をキイプウウウウウウウ!!」

「影也様応援しまーす!!」


(そうゆーことかよ……)

おそるべし影也の力。顔がイイ奴はこれだから調子に乗るのだ。

いつの間にか辺りは影也コールになっていた。ちなみに青組は現在応援むなしくビリである。

そしてそのままバトンは最終走者へ。


「きゃあああああ影也様あああああ!」

「頑張って下さい影也さまああああ!」

「青組ファイト――――!!」


影也は女神顔負けの笑みをこちらに向けながらバトンを受け取る。

瞬間、那雲は驚愕のあまり目を見開いた。

影也は一瞬の内に消えては現れ、消えては現れを繰り返す。そして他の走者をあっというまに追い抜きながらパンへとたどり着いた。


『お、おお!鶴城ケ丘一の美貌を誇る三苑影也!まるでコマ送りのような速さだ―――!!』

「きゃあああ素敵影也様ああああ!!」

「愛してるううううう!!」


(あ、アイツ超能力バリバリ使ってんじゃねぇかよ!!そしてその速さに何の疑問も抱かない周囲もどうなんだ!?)

 

巻き起こる影也コールと歓声の中心地にいる那雲は、頭痛がしてきたため一部始終しか分からなかったが、影也のおかげで青組は一位だったらしい。



競技を終えた影也が応援席に戻って来る。


那雲は呆れて責め立てようとしたが、その前に影也は女子の大群に囲まれた。

誉められまくりの影也は、世界がとろけてしまいそうな笑みを浮かべるとこう言う。


「僕一人の力ではありません。応援してくれた皆さんあっての一位ですよ」

その破壊力に、女子全員が顔から湯気を出す。数人がバタバタと倒れた。


挿絵(By みてみん)


「皆さんありがとうございます~あ、那雲君」

「……影也、お前なあ…」


ものすごく遠い目で影也を見るが、当の本人はニコニコ笑顔を崩さない。

「ね、言ったでしょ☆これで青組の未来は明るくなりました☆」

「俺の心はお前のせいで暗黒だぼけえええええええええ」

「世の中、勝ってなんぼですよ☆あ、それとも自分は活躍できなかったから悔しいんですか~?ピュアですねぇ☆」

「ブッ殺すぞてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「そうやこの卑怯者おおおおおお!!」


ふと、聞きなれた声が割り込んだ。湖華はずかずかと青組の応援席に割り込んで来る。


「アンタ瞬間移動テレポートなんぞ小賢しいマネしはってええええ、次の競技は覚えときいいい」

怒り頂点の湖華は影也の襟を締め上げると、さっさと入場門へと走って行った。

せき込む影也を無視してプログラムを取り上げると、次は『二年女子によるタイヤバーゲン』と書いてある。


タイヤバーゲン、とは文字の通り、校庭の真ん中に積まれた数十個のタイヤを取り合うものだ。

自陣により多くのタイヤを運んだチームが勝ちとなる。

この競技は『女の本性が出る』と男子に恐れられているらしい。

KSF後、急に別れたカップルの男子に別れた原因を問うと『タイヤバーゲンの時の彼女が恐ろしかったから』と答えたらしい。(昨年の新聞部調べ)


そんなこんなでこの競技は何かと存在感が強い。

(ん、まてよ…タイヤを運ぶ…?)

何かとてもやな予感がした那雲。

だが、その予感は数分後にすぐに的中する。


『あの愛らしいお嬢様、秋ノ宮湖華はなんとタイヤ十四個を抱えて自陣に放り込んだ――!?』


オレンジ組の応援席からは「秋ノ宮先輩恰好いい――!!」などという歓声が上がっていた。

タイヤ十四個。湖華は一人で全体の内の八割をゲットしたことになる。

(あいつまでえええええ!?)


一見怪力に見えるが、湖華は自身の超能力でタイヤの重さを軽くしたのだ。

もちろん、そんなことをされてはオレンジ組ぶっちぎりである。


「うーん、湖華も突っ走りますね~」

巻き起こる歓声とどよめきの中、那雲は呆れて物も言えなくなった。影也だけが何故だかヘラヘラ笑っているが。


(もうコイツら超能力全開で隠す気ねぇな…)

とても虚しい気分になってきた那雲はガックリと肩を落とす。


そして、さらに競技が進むことに生徒達の盛り上がりは増した。

ぬける様に高い青空はその様子を黙って見下ろす。



―――その中に立ち込める黒い暗雲がだんだんと近付いているのを見つめながら。

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