1、その少年はヤツらと出会う
初めまして。夏目玲と申します。
超能力モノはずっとやってみたかったので嬉しいです。
自分にも超能力があったら…
ただし私自身、文才というものに全く恵まれていないため、勝手に謎を増やしてしまったり、複線が回収できなかったりと見苦しい所もありますが、それでも見てやる!という心の広い方はどうぞ見てやってください。
また、私は絵を描くことが好きなので、ちょくちょく挿絵が入っていることもあります。が、所詮は下手の横好きなので色々崩壊寸前です。
拙すぎる文章と挿絵ですが、温かい目で見守って下されば幸いです。
只今絶賛受験生中(?)なのでどこまで行けるか分かりませんが頑張ります。
か細い呼吸音だけが暗い室内に響いていた。
声の主の女性には玉のような汗がびっしりと浮かび、時折訪れる激痛に身をよじる。
見かねた一人の看護師が妊婦に近寄ろうとしたが、それを隣にいる医者が制した。
妊婦の体には数本のチューブが取り付けられており、その中を不気味な液体が行き来する。
寝かせられているのも、何年も使っているであろうボロボロのベッド。
病室の壁は、薄汚れたシミが水玉模様を描いていた。少し視線を天井に向ければ雨漏りまでしている始末である。
誰が見ても異様な光景だった。
禍々しい空気の病室もそうだが、妊婦は大変デリケートなため特に出産の際には最新の注意をはらう。
一つでもミスを犯すと、胎児にも異常が出るためだ。
それにもかかわらず、この病院ではそのような気遣いは一切施されていなかった。
傷だらけのベットに横たわっただけの妊婦。
当然、本来の出産よりも倍以上の苦痛を味わらなければいけない。
痛さと苦しみに身をよじる妊婦を、医者はじっと見つめる。
「――『あれ』はもう投入したか」
不意の質問に、隣にいた白衣の男性は慌てて答える。
「は…はい!二分四十秒前に…今のところ、拒絶反応はありません!」
「なら良い」
医者は、ニヤリと口が裂けるかのような笑みを浮かべた。
直後だった。
絶叫が響く。
痛みと苦しみと憎しみ、それをすべて吐き出すかのような絶叫。
妊婦の瞳は血走っており、口から大量の鮮血が零れた。
「――よし」
その一言で、数人の白衣の男が妊婦を取り囲む。
間もなく聞こえるのは、生まれたての小さな命の産声。
血まみれの胎児をゆっくりと抱き上げると、白衣の男たちは別室に逃げるようにして去って行く。
その様子を満足そうに見ていた医者に、恐る恐る看護師が声をかける。
「あ…あの…女性の方は…」
「ん?ああ、そっちで勝手に始末してくれ。父親の対処と同様にな」
「は…はい…ッ!!」
恐怖で震える声の看護師に目も向けずに、医者はその部屋を後にした。
コツコツと、暗い廊下に足音だけが響く。不規則なリズムが響いた。
医者は邪悪な笑みを浮かべる。それでも足りずに笑声が漏れた。
「ハハ…ハハハ…上手く…上手くいけばあの子は…あの子は…ッ!!」
――時刻は、九月十八日午前三時五十八分。
◆◆◆◇◆◆◆
空は、今日も澄みきっている。
少年は机につっぷした体制のまま、ぼんやりと焦点の合わない目で教室の外を眺めていた。
桜の花びらとともに、春の香りがうっすらと匂ってくるような感じがする。
静かに流れゆく雲。時折視界に入る鳥たち。
少年はそれを見ながら、訪れる睡魔に身をゆだねようと瞼を閉じかける。
が、そこで。
「あ、あの…涼原君…だよね…?」
震える声で言葉をかけられた。面倒くさそうに視線だけを横に向ける。
怯えていますといわんばかりの表情ををしているのは、少年のクラスメイトの女子生徒だったか。
『だったか』などという曖昧な表現をしているのは、まだ高校に入学して二日目だからだ。
もともと他人に興味がない彼が、クラスメイトの顔など覚えている訳もない。
「あァ?」
少し声を荒げただけで、ビクッと女子生徒が震えたが、それでも負けずに話しかけてくる。
後ろの方で、友達と思われる人物が『頑張って!』と応援しているのが見え見えだ。
「あの…ま、前の時間にやった自己紹介カード…出してないの、涼原君だけ…だから」
チッ、と舌打ちをした。新品の机から適当に丸めた自己紹介カードを取り出すと、女子生徒に放り投げる。
カードを手にした女子生徒の目がびっくりしたように開かれた。
「えっと…これ、何にも書いてない…けど…」
「うっせーな、とっとと消えろ!!」
一際大きい罵声に、ヒッ!と女子生徒の喉がなった。ほとんど半泣きの状態で、逃げるように去って行く。
その姿を見送ってから、彼――涼原那雲は再び机につっぷした。
伸びっぱなしの黒い長髪(学校では校則違反)に人を射抜くような鋭い瞳。
さらに高校の入学式からまだ一日しか経っていないのに、『学ラン着用』という校則を無視して黄色とピンク色の派手なパーカーを着ていた。
フードは何故か防災ずきんのようにすっぽりと頭を覆っている。
下はかろうじて規定のズボンを履いているものの、完全に腰の辺りまで下げてあり、何やらチェーンのような飾まで取り付けてあった。
顔立ちは悪くないのに、いかにも『不良です』という恰好をしていては人も寄り付かない。
現に、あの女子生徒の反応だってそうだ。
だが、那雲はこれでよかった。
自己紹介カードだのなんだの、もともとクラスメイトとなれ合う気などさらさらない。
自分がかかわったところで何だというのだ。
どうせ、壊してしまうんだから。
ならば、最初から断ち切ってしまった方がいいに決まっている。
誰にも心を開かず。
「……ッ」
一つ舌打ちをすると、乱暴に椅子から立ち上がる。
周りの生徒達は那雲がいきなり行動したことに驚いているのだろう。ヒソヒソと何かを話し合っている。
だが、そんなのをいちいち気にしていられない。
教室を出て、古臭い臭いのする廊下を歩く。
那雲は上に、上に向かった。
学校の最上階、すなわち屋上へ。
半分錆びているドアを開ける。キイ、と甲高い音がした。
ドアを開けると、心地よい春風が那雲の頬をくすぐった。
溜息をこぼすと、背伸びをする。
屋上と呼ぶだけあって、何もない空間だった。黒く変色したタイルがしきつめられている。
四方はフェンスで囲まれており、まるでちっぽけな檻の中にいるようだ。
那雲は一応誰も入ってこられないように鍵をかけると、フェンスに両腕をつき体重を預ける。
空は青く、青く澄んでいた。綿菓子のようなふわふわの雲が浮かんでいる。
ここからは街が一望できた。
買い物帰りだろうか、乳母車をおした若い母親が小さく見える。檻の中から眺める平和な世界に、胸が痛む。
自分にもあんな頃があったのだろうか。
そもそも、自分の両親はどんな人間だったのだろうか。
那雲は両親の顔を知らない。
母親は、自分を産んで死んでしまった。父親はそのショックで病院の最上階から飛び降りた。
母親の命を食らって生まれた子供。
彼は、いくつかの施設をたらい回しにされた。
だが、どこの施設も一年と持たなかった。
理由は簡単だった。
『超能力』
那雲は、生まれた時から異能の力を体に宿している。
仕組みは分からない。どうやったら発動するのかも分からない。ただ『異能の力』として記されるだけのイレギュラーな能力。
初めてそれに気づいたのは3歳の頃だ。
子供のささいな喧嘩で、同じ施設に住んでいた子供に突っかかられた。
那雲は、その子供を軽く殴った。
子供の、まして3歳の幼児の力など大したこともない。多分痣もできないほどの力の加減だっただろう。
だが。
その子供は遥か先の壁まで吹き飛ばされ、首の骨を折る重傷を負った。
大人達は那雲を恐れるようになった。
だが、小さい子供はどうしてそうなったのか理解できなかった。
僕は悪くない。
どうして、そんな怖い顔をするの?
どうして、僕だけ他の友達と会わせてくれないの?
どうして、僕から離れるの…?
『疫病神』『汚らわしい』『悪魔の子だ』
その言葉の意味は理解できなかったが、自分は嫌われているということだけは理解できた。
殴られたこともあった。
何もしていないのに。
子供は、ある日気づいてしまった。
ボクハ、イナイホウガイイノ―――?
小さな子供にとって、自分の存在意義を失うということは、どれほどの苦痛だったのだろう。
そして、那雲は大人になった。
そして、分かったのだ。
誰にも関わらず、一人で生きて行けば。
人を傷つけてしまうくらいなら。
だから那雲は自ら『孤独』という道を選んだ。
後悔など、ない。
今だって、ちょっと頭の中で命令すれば風を操ることができる。物を浮かすことだってできる。
自分は、人とは違うから。
母親の命を食らって生まれた『化け物』だから。
俺は―――
そこで、ふと那雲の思考は閉ざされた。
誰かが、彼の後ろに立っていたから。
「……誰だ」
那雲は振り返らない。
ただ、一つ気がかりなのは。
「ドアには、鍵がかかっていたはずだ。どうやって入った」
すると、相手はその質問に対して軽く微笑んだようだ。クスリと笑う声が聞こえた。
早く答えない相手に那雲は苛立ちを覚えていた。一喝しようとしたが、相手に先手を打たれた。
「あなたと同じ超能力者、ですよ。涼原那雲さん」
「!?」
ビクリ、と電流を流されたようだった。考えるより先に、身体が動く。
那雲は振り返った。そして――――息を飲む。
目の前にいたのは、とんでもない美貌を持つ人間だった。
触れただけで壊れてしまいそうな華奢な体。かなりの長身で、那雲よりも背が高い。
透き通った白い肌。ほんのり赤みを帯びた唇。長い睫に、肩まで伸ばした亜麻色の髪。
何より、その顔が整いすぎている。
だが、その女神と呼んでもいい人物は次の瞬間驚愕の言葉を口にする。
「あ、ちなみに僕は男ですよ。ホラ、ちゃんと学ラン着てるでしょ?」
そういって、校則通りに整えられた学生服をひらひらさせた。
だが、顔立ちといい体系といい信じられなかった。
学ランは、その体の細さを強調しているようにしか思えなくて。
しばらくの間、那雲は息をするのも忘れてその場に立ちすくんでいた。
目の前の――自称男は、そんな那雲の様子を気に留めることもなく淡々と話す。
「貴方を僕達の部に勧誘しにきました。超能力者しか入部できない『異能力研究部』にね」
キャラクター紹介1
●涼原那雲
風、大気、空気を操れる超能力者。通称『空気誘導』
鶴城ケ丘高校一年生で、誕生日は九月十八日。
基本『なんちゃって不良』だが心の中ではそんな自分を嫌悪している。
生まれた時から両親はなく、ずっと孤独だった。
頭はいいのか悪いのか分からないが、妙にカンがさえる。
めんどくさがり屋で、テストはいつも鉛筆(九年間愛用)ころがしで決める。
マイペースで年甲斐がなく、カエルやクマ、ウサギといった動物グッズには目がない。あと裁縫とか女の子みたいなことが得意。
顔立ちはまあまあ美形だが、目が怖いのとファッションがおかしいので女子支持率は低い。