ゴフンマエの出来事
本当かどうかは分からないが、1つの夢を他人と共用する話を聞いたことがある。
つまり、自分の夢を他人が見ている事もある、という事だが…
ただ、その¨他人¨は生きていない事もあるだろうし、ストーカーかもしれない。
《もし翌日、その人に会ったらどうする?》
──勿論、あの漫画の話ではないよ。
──PM11時
コンビニから此処に来るまで、5時間が過ぎていた。
彼女の話だと、直線距離で5Km程度らしいのだが、来るのが久しぶりなのか町並みが変わっていることに彼女は戸惑い混乱し、道案内に悉く失敗していった。
……。
それでも此処にたどり着けたのは、5分ほど前に彼女が、
¨トイレへ行きたい¨
と、目的地が変更され大騒ぎしているうちに、偶然前を通った為だった。
「…う…うあ…」
その場所で、彼女の限界を超えた呻き声を聞いた。
…わわわっ
危険を感じ慌ててバイクを止めると、彼女は後ろの座席から降り、闇の向こうへ駆け出していった。
……。
1人残され、寂しく座席から降りて、エンジンを切ったバイクを道の端に移動させると、スタンドを立てて一息ついた。
……本当に、彼女は幽霊なのだろうか?
彼女が¨生きてはいない¨ことは夢で確認していたが、とても信じられなかった。
独特の口臭や、バイクで2人乗りしていた時の後輪の感覚などが現実的すぎて、
──夢が間違っている?
と、疑いたくもなる。
目の前の建物にしても同じように違和感があった。
夢では、買い手が長年つかない寂しい感じの家だった。
だが、目の前にあるのは普通の一戸建ての住宅で、旅行で暫く留守にしているような雰囲気がある。
そして、その隣には古くて大きな銭湯らしい建物が建っていて、それら2つの建物が繋がっているようだった。
……銭湯なんて、夢に出てきたかな?
暫くそのような事を考えていると、彼女が戻って来るのが見えた。
……?
彼女は、そばに来るなり手を繋いできて、体を寄せてきた。
その温もりを感じない冷たい体は、小さく震えていた。
「どうかしたの?」
「…ううん。」
「……。」
「……。」
──ヘルメットをとり、彼女の表情を確認する。
「大丈夫?」
「……うん。」
「なりきりセットの¨サイン入りホウイチ下帯¨あるけど…使う?」
「いらない。」
「…そうか。」
「……。」
「ところで、目的の場所なんだけど…」
──あえて知らない振りをして彼女に聞いた。
「あと、どの位で着くのかな?」
「え、…えと、」
彼女は、辺りを見回して、目の前の家を指差した。
「あれ。」
「やっぱり、この家なのか…」
「え?」
「いやいや、独り言。」
「……。」
目的地に着いたのを確認し背中のリュックを下ろすと、中から対霊品を次々と取り出して路上に並べていった。
「これ、予備のヤツだけど着て。」
「……?」
¨耳なしホウイチ¨なりきりセットを彼女に手渡した。
「一応、縁起物だから。」
「……。」 彼女は、それを広げ趣旨を理解すると素直に着始めた。
……可愛い。
予想以上に似合っていた。
……でも、彼女が何の抵抗もなく着られるということは…
──効果がない
と、理解した上で私も同じものを着た。
……雰囲気、雰囲気。
そして、手榴弾などを装備したベストを上に着て準備を終えると、彼女の方を向いた。
そして、なりきりセットの¨ホウイチデスマスク(レプリカの面)¨を彼女に手渡した。
「これを付けて。」
「……可愛いのない?」
「…じゃあ、これはどう?
¨ホウイチデスマスク・ニューハーフスペシャル(職人力技レプリカ)¨だよ。」
「……。」




