午後
最後に頭を剃り上げると、床に落とした大量の体毛を片付け、そのまま風呂場で全身を洗い始めた。
妹のくれた柑橘系の石鹸の匂いが、辺りに広がる。
爽やかで心が癒されるのだが、この香りが満たされている密閉空間でオナラをすると、一瞬ではあるにしても、匂いの相乗効果で臭さが倍増するのだ。気を付けているのだが…
……うう…う…
──今回も我慢出来ず、オナラを放出してしまう
……ああ、逃げ場がない
風呂から上がり、台所で昼食をとろうとしたが冷蔵庫の中には何も無かった。
……。
部屋中を探して、お湯で煮るタイプの袋麺を1袋ようやく見つけると、ノンフライ麺ではない事確認して、さっそく調理を始めた。
袋麺をそのままテーブルに置き、拳で適度に麺を砕いた後、静かに袋を開ける。
そして、付属のスープの粉を取り出し、半分ほど中に入れて袋の口を手で閉じ、シャカシャカ振る。
粉が全体に馴染んだら中身を皿に移す。
残りの粉は、カップに適量を入れ、お湯を注ぎながら味を見て調整していった。
──砕いた麺を、スプーンで掬って口へ運んだ。
……う。
古かったせいか、麺が湿気っていた。
仕方なく、カップのスープで食感の悪い麺を喉へ流し込みながら、今後の対応を考える。
《予知夢を見た》
とは言っても、今後の展開の全てを把握しているわけではない。
──夢で見ていない部分で何が起こるのか?
……夢が見せ掛けの¨フェイク¨かもしれない。
──不安は広がる。
……行った事のないコンビニへ行く理由は?
──いつしか、スプーンの動きを止めて考え込んでいた。
カップのスープがぬるくなり、体も冷えてきた頃、携帯電話のメールの着信音が鳴った。
メールを確認すると、妹からだった。
¨妹、用事忘却道中蛙。
追伸。
風邪不引歯磨宿題殺。¨
………。
仕方なく、服を着始めた。
全身迷彩に関しては、予め購入していた¨耳なしほういち¨なりきりセット(お面付き)を代用する。
──肌色の改造全身タイツで、輪郭のぼけた文字が全体に印刷された、消耗品である。
当然、耳の所も加筆修正済みだ。
それを、現地で装備する。恐らく、辺りが暗いだろうから恥ずかしい事はないだろう。
──残りの、麺とスープを胃へ送り込んだ。
……ふう
腹が満たされた途端、急に眠くなってきた。
……さて…これか…ら…
──夢を見ていた。
妹が、此方に向かって手を振っている。私は、バイクに乗ったまま減速せずに妹に突っ込んでいった。
……わあああああっ
自らの叫び声で目が覚めた。部屋は、夕焼けの紅い原色の海だった。
……。
時計を確認すると、もうすぐPM5時になる所だった。
──そして、携帯電話が鳴る。
電話に出ると、妹の元気な声が聞こえた。




