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ヤバい。

──その時、


 突然、背後に人の気配を感じた。


 そして、少し乱暴に右肩に手を置かれた。

 その瞬間、辺りが元の廃墟に戻った。

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。


──後ろから声がした。


「おい、お前。」



 振り向くと、懐中電灯の眩しい光を此方に向けた男が立っていた。



「お前、さっき道で変な動きしていたタイツだな?」

「……。」



「此方で何をしている?」

「……?」



──お巡りさん?



「まず、お面を取れ。…それと、名前と住所だ。」

「……。」



「早く言え。…ん?…胸の所にあるのは何だ?」「……。」



「ほら、見せなさい。…早く。」

「……。」



 お巡りさんが、此方に手を伸ばしてきた。


 仕方なく、先程火薬などの中身を抜いた手榴弾を相手に手渡した。



「ずいぶん重いな。本物じゃないだろうな?」

「…違います。」



「…顔を見せろ。あと、名前と住所を言え。此処で何をしていた?…気持ち悪い声出しやがって。」

「……。」



 お面を外し、正直に質問に答えた。ただ、彼女の事については聞かれるまで黙っていることにした。



「いい年した大人が、そんな格好でナニをしてるんだ、全く。」

「……。」



「ほら、早くここを出なさい。」

「…え?」



「入ってきた所から出ろと言っている。」

「……。」



「おい、どこへ行く?…お前、どこから入って来たと思っているんだ?」

「え?…お巡りさんは何処から入ってきたのですか?」



「ソコからだ、脱衣場の所のドア。隣の住宅からこっちにきた。」

「…え?…でも」



「でも、じゃない。早く出ろ。」

「……。」



 お巡りさんに背中を押されて、脱衣場のドアの所まで仕方なく歩く。


……。



 先程までの床男達の柔らかい感触は、足元から感じられなかった。

 時々、虫のようなモノを¨くしゅっ¨と何度も踏んで、トラウマになりそうだった。



 脱衣場の、隣の住宅へのドアの前まで来た。ドアは閉まっていた。



「ほら、止まるな。」

「……。」



 そのドアノブを回し手前に開くと、短い板張りの廊下の先にも同じようなドアがあった。

 廊下には、窓は無かった。



 そのギシギシ鳴る廊下を進み、奥のドアを手前に少し開いた時、



──きゃああああ


 女性の声が聞こえた。


……彼女?



 その声を聞き、私の体を退けるようにして、お巡りさんは中へ飛び込んでいった。


「お前は早く帰れよ。」

「…私も…え?」




 後を追いかけようとした時、足に何かが絡み付いていた。


「あ…あれ?」


 廊下が、見覚えのあるショッキングピンク色に包まれていた。


──目の前のドアが静かに閉まっていく。



 そのドアを、両手で閉まらないように押さえても、それ以上の力で閉められていく。



……ぐっああああっ。



 この土壇場で、火事場の馬鹿力が肉体の限界を超えて発揮され、両手で押さえていたドアを¨バキバキ¨と真ん中からへし折った。


 その勢いで、へし折ったドアを後ろにブン投げると、残り全ての手榴弾を、ピンを抜いて廊下後方に次々と放り投げた。


 そして、ドアの間から住宅の中へ飛び込んで、横へ転がった。



──直後、



 廊下の方で、火薬の量を間違えた手榴弾が爆発した。


…あ…あれ?



 住宅の壁がガラガラと崩れ、外の冷気と埃っぽい暖気が混ざりあった風が、顔を撫でていった。

 ここから見える外の景色に先程まで彼女といた銭湯の姿はなく、瓦礫の山になっていた。

 爆発の影響で、住宅の1階部分はほぼ塞がってしまったが、目の前の階段と玄関だけは損傷なく残った。

 階段は、2階へ安全に上られそうだった。



……彼女が2階へ上がっていればいいんだけど…


 階段の先を懐中電灯で照らしながら、彼女を気にしていた。

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