不安
予知夢が現実になった瞬間、その光景を過去の私が夢で見ている──
そう考えると、面白いだろう?
──情報を過去に伝えているわけだが、それによって今が変わるわけではないにしても、せめて過去の私には幸せになって欲しいものだ。
──私達は今、某心霊スポットの建物前に立っている。
時刻はPM11時過ぎ頃で、辺りは街灯も無く暗い。
隣には、先程コンビニで知り合った女性が静かに寄り添っていた。
彼女は無口で、私が話しかけない限り喋ろうとしない。
青白い顔の華奢な彼女は、骨と皮だけの冷たい手をしていた。
──勿論、彼女が¨生きていない¨という事を、私は知っている。
目の前の建物の中で彼女に襲われ、その後の人生をマトモに送れなくなる事も知っていた。
──私は、予知夢を見ることが出来る。
それを知りながら今ここにいるのは、単純にスリルを味わいたいだけだった。
──5日前
マンネリな生活の中、この夢を見た時は、体の震えが暫く止まらなかった。
そして、久しぶりに脳に刺激が走る。
テレビでしか見たことのない存在に関われる事が嬉しかった。
──早速、自分の命を守る為の準備を始めた。
御守りから火薬まで、あらゆる事態に対応できるよう必要な物のリストを作り、買い出しに行った。
ひとつ不安が有るとすれば、その場所へ下見に行けないことだった。
──夢の内容は全て、ノートに書き残してある。
相手の出現ポイントに爆薬を仕掛けておけば、多分危険は避けられる筈だが、その建物の場所が分からなければ意味がない。
そこで、対霊手榴弾を手作りする事にした。閃光タイプや¨線香¨系スモークタイプ、爆発すると辺りに御札をバラまくクラスター系も作った。
また、当日には¨耳なしホウイチ¨式全身迷彩を施す予定であり、先程電話で、美術系の妹に協力の為の要請をしておいた。
その他、準備のため慌ただしく駆け回っているうちに、前日の夜となった。
妹に明日の確認の電話をすると、夕方頃に来てくれると言う。
……さて。
明日に備えて、早めに床についた。
──その夜、夢を見た。
いつも通り過ぎていた町外れのコンビニで、誰かに会う夢。
だが、いつもより眠りが浅いのか、夢の途中で目が覚めてしまった。
──AM3時
忘れる前に、夢の内容をノートに書いていく。
そのノートを読み返しながら、コンビニの場所を考えた。
…そこから、あの場所へ連れて行かれるのだろうか?
不安になり、もう一度装備の確認を始めた。
装備品リストを見ながら1つ1つ手にとり、リストにチェックをいれていく。
──5度目だった。
……問題なし。
だが、問題の無い事が逆に不安になる場合もある。
──スコット探検隊
頭の中で響いたその警告のような言葉が、更に私を不安にさせた。
……今、確認した装備が全て使い物にならなかったら?
私は、慌てて対策を考え始めた。
──もう直ぐ、夜が明ける。
──AM8時
当日の朝になった。
結局、何の良案も浮かばなかった。
……ああ、妹との約束を忘れていた…
私は、その場で着ている服を全て脱いで風呂場へいき、鏡を見ながら全身の体毛を剃り始めた。




