その12
「でも、好きだって気が付いてからもずっと、迷ってる。本当なら一人きりでちゃんとライアのことに向き合わないといけない時期なのに……俺は結局、ライアが死んだことから立ち直れなくて、だからその埋め合わせに、セイアを求めてるだけなんじゃないかって。支えになるどころか、あいつが優しいのに付け込んで、顔を見ればベタベタ甘えまくってさ。……我ながら、ほんとに気持ち悪い」
吐き出すようにそこまで一気に話して、大きく息をついた。今日、セイアが会いにきてくれたのは、すごく嬉しかった。でも、帰ると言われて、寂しい気持ちを抑えられなかった。「遠慮しなくていい」と言ってくれたけれど、告白の返事を保留にしているのだから、もう少し自分の方がわきまえて距離を取るべきだ。
黙ってしまったアリアを前に、シルヴィアは少し考え込むように湯たんぽをしっかりと抱え直した。
「あのね、アリア。アリアの言ってることは、分からなくはないわ。私は少なくとも気持ち悪いとかは思わないけど、それでもアリアの悩んでる気持ちは、ちょっと理解できる。……辛い思い、してるもんね。違う人に向かって踏み出すのは、勇気がいるよね」
「………」
「でもね、一人で悩んでる状態は、そんなに長くは続けられないわ。だってもう、動き出しちゃったもの。告白を保留にしても、時間が待ってくれる訳じゃないんだし、今の気持ちをなかったことにはできないわ。セイアだけじゃなく、あんたもね」
そう言って、彼女は手を伸ばし、アリアの黒髪を軽く撫でた。最近、よく頭を撫でられる。小さい頃に戻ったみたいだ。少し照れくさいけれど、決して嫌ではない。
今ならまだ、自分さえ強い気持ちになれば、セイアの手を離せると思っていた。もう無理なのだろうか。お互いに引き返せないところまで、来てしまったのだろうか。
シルヴィアは、思い悩むアリアを見つめながら、何か思い出したように小さく笑った。
「……なんだよ」
「ふふふ、まぁ大したことじゃないけど。ラトスといると、どうしてもあんたの話になることが多くてね。あの人も私も、別に親でも何でもないのに親バカみたいになっちゃって。お互いに思い出話を語り合って、あれは可愛かったなぁ、みたいな」
「えー………やめろよ、人のいないところで何話してんの」
照れ隠しもあって、思わずげんなりした口調で遮ってしまった。シルヴィアは笑いながら手を伸ばし、再びアリアの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「いいじゃない、甘えられる人には甘えれば。セイアだけじゃなく、私もラトスもいるわ。父と母はねぇ、ひとり娘の幸せを、心から祈っていますよー」
「はいはい、酔っ払いはもう寝てください。ほら、そっちのベッドに行って」
シルヴィアは「えーまだ眠くないー。ねぇねぇ、セイアのちゅー、どうだった?」などと酔っ払い丸出しの発言をしていたが、アリアが半ば強引に隣のベッドに彼女を寝かしつけると、あっという間に寝息を立て始めた。これでよく飲み屋が続けられるよな、と思うほど、シルヴィアは酒が強くない。
(別に、どうだった、とか言われてもなぁ。花火大会の時は、みんなキスしてたじゃん)
それでも、セイアがあの時、どれだけの勇気をかき集めて触れてくれたのか、分からないアリアではない。嬉しかったし、こっそり思い出す度、頬が熱くなってしまう。まだライアへの想いは、その悲しみは、全く癒えていないというのに。
(幸せになって、ってみんな簡単に言うけどさ。いったい、どうしたら)
ため息をつき、部屋に下がった電球に手を伸ばして、灯りを消した。
悩みは消えないし、未来も見えない。そんな中ではあるけれど、昨日とは違い、温かな湯たんぽを抱いてスズランの香りに包まれて、今日はゆっくりと眠れそうな気がした。
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