その1
セラディ・ソーサラーズシリーズ第3話。
再び出会うアリアとセイア。中央国の「セラディ・ソーサラーズ」への勧誘を受けたり、思いがけない出生の秘密が明かされたり……ケンカをしたり。
二人の恋の行方と、未来への決断を見守ってください。
年が明け、二週間ほどの時が流れた。
ここは、オズの国の西国、海にほど近いシャキの町。新年早々に盛大な花火大会が開催されたこの町も、浮かれモードから徐々に落ち着き、いつも通りの日常を取り戻しつつあった。
「アリア!おい待てよ、話があるって言ってんだろ!」
日が落ちた薄暮の空を、薄い雲が流れていく。町の大通りは、仕事や学校からの帰り道の人たちが大勢各々の家路を辿っていた。その中には、明日も仕事だがこれから一杯、という勤め人の姿もあり、それなりににぎやかだ。そんな人混みの間を縫うようにして、早足で歩く人影があった。
アリア・コーダ、十四歳。灰色の作業着の上にだぼっとした黒い外套を羽織り、その姿はいかにも町工場辺りの勤労少年のようにも見えるが、正真正銘の女の子だ。
少女にしては短い黒髪を風になびかせ、きつめの黒い大きな瞳で前方を見据えて、前へ前へと足を運んでいる。ここは地元の通りで、彼女を見慣れている人が多い中にあっても、時折振り返る人がいるくらいには目立つ美少女だった。
美少女であることには、メリットと同時にデメリットもある。彼女の後ろを追ってくる人物も、そのデメリットの一つと言っていい。アリア自身にも過失があるので、そう切り捨てるのも非情かも知れないが。
「待てってば!……おまえ、か、彼氏の言うこと聞けないのかよ!」
さっきから執拗に彼女を追ってきているのは、ゼビアという地元の少年である。決して容姿がいい訳でもないが、不良っぽい感じが一部の少女に受け、まぁそこそこモテる部類に入る。
アリアは、ゼビアの『彼氏の言うこと云々』発言を耳にしてようやく足を止めた。
(ずっと避けてたのになぁ。やっぱり一度話さないとダメか)
ため息をついた。そしていかにも嫌々という様子で後ろを振り返り、腕組みをした姿勢で、やっとのことで追いついたゼビアに向かい合った。
「誰が、誰の、カレシだって?冗談もたいがいにしろよ、ゼビア」
わざと一音一音を区切るようにして不機嫌を表現すると、ゼビアは面食らったように目を瞬かせた。演技と言うよりは、本当に戸惑っているらしい。
「え?い、いやだって前に……その、キス、しただろ?」
「いつの話だよ」
「あー……二ヵ月、いや三か月くらい前?」
「だから何。だからカレシだって?ばっかじゃねぇの、ガキかよおまえ」
苛々しているせいで、いつもより更に口調がきつくなってしまった。舌打ちをして、地面に向かってため息を吐き出す。ゼビアに対して、というよりも、この状況を作り出している自分自身に対して、本当に嫌気が差していた。
「あのさ。あの時は、俺がタバコが欲しいって言ったら『じゃあキス一回』って、おまえが言い出したんだろ?俺としては、ちゃんとタバコも頂いたし、酒も奢ってもらったし、だからちゃんとキスに応えたってだけだろ。ただの交換条件じゃん。何だよ、カレシって」
畳みかけるようにアリアが言葉を投げると、ゼビアは何か言い返そうとした顔のまま固まった。認識のズレを改めて思い知らされた、というところだろうか。
(それにしてもこんな人通りの多い場所で、まだ早い時間帯なのに。本当に、やめて欲しい)
アリアにも、一応羞恥心はある。嫌々ながらも足を止めて会話に応じているのは、自分も悪かったと自覚しているからで、本当は今すぐにでもこの場から立ち去りたい。道行く人の多くがちらちらと好奇心丸出しの視線をこちらへ向けてくるし、「ねー、ケンカしてるよ?」「こら、そっち見ちゃダメ!」という親子連れの会話も聞こえてくる。純粋な子供にろくでもないやり取りを聞かせて、本当に申し訳ない。




