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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
1章

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07 侵入

〈ハイブ〉に門や扉のようなものは無い。どこからでも入ることができる。無秩序な増築の結果、建物や壁は隙間だらけになっているからだ。キティは入れそうな隙間を探し、そこから〈ハイブ〉の内部へ入った。その隙間は、どこかの家屋から流用された木製の壁と、人型の石像との隙間だった。石像はどうやら上の居住空間を支える柱として使われているようだ。


「実用的な使われ方で良かったな」


 その隙間を選んだのには理由があった。足元に何かを擦ったような跡がある。つまり人の通りがあるということだ。であれば、ここから人が集まるような場所へ行くことができるはずだと考えた。

 通路を進んでいく。周りはガラクタしかない。でたらめな素材で構成され、歪な造形をした壁や床が、ガタガタキイキイ鳴いている。内部の印象はキティが住んでいた時と変わらないが、構造自体は変わっているはずだった。〈ハイブ〉は、実用性や耐久性など無視した増築に伴って、補修や修理が積み重ねられ、内部構造が変化するのだ。

 さらに歩くと、前方に三人の男女が現れた。ようやくお出迎えだ。後ろから物音がしたので振り返ると、男が二人いた。どこかに隠れていたらしい。前後で合わせて五人に囲まれた。

 五人とも緊張した面持ちで、ナイフや棍棒などの武器を持っている。いきなり襲ってこなかったところを見ると、追い剥ぎの類というよりは、よそ者を警戒している自警団といった様子だった。

 キティはさっと両手を上にあげた。戦う意思は無いと伝えるジェスチャーだ。さすがに素性もわからない相手をぶちのめす気にはなれなかった。できれば穏便にこの場を収めたい。


「私はここの出身だ。人を探してる。用が済んだらすぐ出ていくよ」

「信用できるかガキが。ヘイズか? スカルズか? どっちだろうと関係ねえ。ここはお前らの戦場じゃねえんだ」


 前方にいる若い男が額に汗を流し、ボウガンをこちらに向けて言った。

 意味不明だ。きっとこいつは、思いついたことを思いついた順で話すタイプだろう。会話にならないぞこれは、とキティは眉をしかめながら思った。


「ええと……何の話なのかさっぱりわからないんだけど……」

「しらばっくれてんじゃねえぞ。お前みたいな物騒な格好したやつが、関係無いわけあるか。兵隊として呼ばれたんだろう? 他にもいるのか?」


 ボウガン男が喚き散らす。完全に興奮状態だし、手も震えているようだ。こいつが暴発する前に片づけてしまおうかと考えていると、隣にいた壮年の男が、重々しく口を開いた。


「おい待て。確かに怪しいは怪しいが、話くらいは聞いてやれ」

「で、でも、ガっさん! 何かあってからじゃ……」

「お前が何かやらかしそうだから言ってんだよ」


 ボウガン男が黙り込み、舌打ちをしてボウガンを下す。ガっさん、と呼ばれた壮年の男がため息を吐き、話を続けた。


「で、嬢ちゃん。ここの出身って話だが、証明できるか? それと、誰を探してる?」

「探してるのは、レインって女。〈ボロワーズ〉って言えばわかる? 私がいた時には、西区に住んでたと思うけど」


 ガっさん以外の連中が顔を見合わせた。少し警戒心が溶けたような雰囲気だ。


「……いいだろう。お前たちは下がれ。俺一人でいい」


 その指示を受けて、他の連中が通路や壁の隙間に去っていった。みんな、警戒しているようなそぶりを見せつつ、少し安心したような表情をしていた。

 キティと二人きりになると、壮年の男が口を開いた。


「俺はガリルだ。さっきは悪かったな、嬢ちゃん。案内してやるよ。〈シスター〉・レインの〈教会〉に」



 ガリルと名乗った男に案内されて〈ハイブ〉の中を進んだ。

 通路、階段、はしご、キャットウォーク、上がったり、下がったり、飛び越えたり。道、と言うにはあまりにもデタラメな構造の通路ばかりだ。見覚えのある場所もあったが、そうでないところもあった。やはり構造が変わっている。きっと以前の知識のままで歩き回ったら、迷子になっていただろう。

 道案内をしながらガリルが訊いてきた。


「〈ハイブ〉にいたのはいつ頃だ?」

「戦後すぐに入って、出たのは今から三年くらい前かな。やっぱり、だいぶ造りが変わってるね」

「そりゃあ三年も経てばな。人も増えたし、その分だけここも変わり続ける」

「アンタはいつから?」

「俺も戦後すぐからここにいる。でも、意外と会わないもんだな」

「まあ広いしね。ところで……さっきのは何? ヘイズがどうとかって……」

「最近、上層の方がちょっと荒れててな。下の連中が巻き添えを食らうことがあるんだ。それでみんなちょっとピリピリしてる。まあ、大目に見てやってくれ」

「こうして案内してもらっているから、別にいいけど。〈シスター〉・レインってのは? 前はそんな呼ばれ方してなかったよね? 〈教会〉?」

「それについては本人から聞きな。ちょうど着いた」


 ガリルが指し示す方に扉があった。教会で使われていた木製の扉だ。ここに協会が建っていたのではなく、扉だけ持ってきて入口として使っているようだ。なるほど、だから〈教会〉か。そして、〈教会〉にいるから〈シスター〉ということだろうか。

 入口に近づいた、その時──

 吹き飛ばされるような勢いで扉が外側に開いた。それと同時に男が転がり出てきた。頭を短く刈りこんだ、小狡そうな顔の小男だ。

 続いて、〈教会〉から殺人兵器のような大柄の女が出てきた。

 ウェーブがかった黒髪を後ろで結んだ、顔立ちのはっきりしている女だ。ノースリーブの襟付きシャツとベストを着ており、筋骨隆々とした両腕を覗かせている。胴回りはすらりとしているが、開いたシャツの胸元からはこれまた攻撃的な肉体美が垣間見えた。刻印装の無い生身の身体だ。

 女はドスの効いた声で小男を怒鳴りつけた。


「アタシに偽造ルーンを売りつけようとはいい度胸じゃねえかオラア! 気付かねえと思ってんのかァ! ボケがァ!」


 女はそう怒鳴ると、黒のレザーパンツに包まれた長い脚で、地団駄を踏むように小男を蹴りまくった。「舐めんな」「ボケカス」「詐欺師」「ゴミルーン野郎」「ボケカス」などと吐きながら蹴り続ける。

 小男はヒイヒイ言いながら藻掻いて地団駄地獄から脱出した。全力疾走で女から逃げたが、通路で転んでそのまま建築物の隙間に落ちていった。

 小男の悲鳴が消えると、女がガリルに気づいた。するとさっきとは打って変わり、甘ったるい猫撫で声で言った。


「あら、ガリルさぁん、いらっしゃい。今日のご用件は? また腕の刻印装の調整?」

「アンタにお客さんだ、〈シスター〉・レイン。知り合いのようだが」


 女──レインがキティをじっと見つめた。はじめは怪訝な顔をしていたが、何か思い出したかのような表情に変わった。パン、と手を叩いて口を開いた。


「キティか! 久しぶりだな! デカく……なったのかなってないのか、よくわからんが。ともかく、何年ぶりだ?」

「三年ぶりだよ。私も会えて嬉しい。レインは前よりデカくなったね、元気そうで良かった」

「こっちもイロイロあったからな。おいおいどうしたんだよ! ほんとに久しぶりだな! まあここじゃなんだし、中に入れよ。メシ食おうぜ」


 レインは満面の笑みでそう言うと、腕を振ってキティを〈教会〉へ招き、中へ戻っていった。

 一方ガリルは「それじゃ、帰るよ」とだけ言って、元来た道を去っていった。

 レインの腕の筋肉はまるで彫刻のように立体的で逞しく、筋肉と筋肉の境が深い溝になっていた。素手だけで人間を叩き潰すことができそうな迫力だ。どうやったらそんな身体になるんだ、などと考えながらレインの後姿を眺めた。

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