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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
4章

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39 ガラクタと魔術師

 旧王都とメリディア・シティの境界線上に位置する酒場〈フロントライン〉。そのカウンター席で、ガラクタのような刻印装を左腕に装着した少女がグラスを傾けていた。


「意外と悪くないよ、コレ」


 最近売り出し中の傭兵キティである。

その顔中には縞模様のような傷跡ができていた。ラストを倒すために、半ば自爆するような形で繰り出したガラクタの竜巻によるものだ。顔だけではない。その服の下、全身にもびっしりと縞模様の傷跡ができていた。麗しい乙女としては非常にアレなのだが、今は『トラ猫の模様みたいで可愛いかもしれない』と言って案外気に入っていた。


「そいつは良かった、試してみるもんだね」


 そう返事をしたのは、対面にいるマダム・モンマスだ。両目を黒いアイパッチのような刻印装で覆っているため表情はわかりづらいが、満足そうに見える。

 キティが飲んでいるのは〈フロントライン〉の新メニュー『氷入りミルク』である。

 なんと氷入りだ! それまでこの酒場にそんなものは無かったが、今はこうして氷入りの飲み物が提供されているのだ! その経緯はこうである。アッシュたちとの戦いの後、フュリアスとイコライザーは自分たちの刻印装の破片をかき集めてどこかへ行ってしまった。あの二人組は両手を完全に粉砕されていたのだが、どうやってかき集めたのかは不明だ。後日、戦いがあった場所を漁っているとなんと、かなり高性能な放熱系ルーンが発見されたのだ。どうやら二人組が落としていったものらしい。そして〈シスター〉・レインがその放熱系ルーンを使って『製氷器』なるものを発明したのだ。氷を作れるすごいやつだ。そんなわけで現在この酒場では氷入り飲料が飲めるというわけである。ちなみに、放熱系と一緒に振動系ルーンも見つかった。こちらは現在、酒場の個室に設置されている『全自動ヒゲ剃り器』に使用されている。もちろんこれもレインが発明したのだ。金を払うとヒゲを勝手に剃ってくれるらしい。そのくらい自分でやれよとキティは思っているのだが、なかなか人気があるから不思議だ。キティは使わないので、個室の中で何が起こっているかわからないが、なぜか三人に一人くらいの確率でとんでもない悲鳴を上げるやつがいる。十五人に一人の確率で個室から帰ってこられなくなるやつがいる……なんて噂もある。マダムはこれらの発明品を見て『懐かしいねえ』などと意味不明なことを言っていた。

 酒場に発明品を提供したレインは相変わらず〈ハイブ〉で生活していて、最近は治安維持のために自警団を組織し、グールズの連中をブチ殺してまわっているらしい。殺人兵器みたいな女だと思っていたが、どうやら本当に殺人兵器だったようだ。忙しいはずなのだが、三日に五回くらいの頻度で〈フロントライン〉に顔を出してくる。発明品のメンテナンスと本人は主張しているが、本音は全然違うだろう。どう考えてもルシェがお目当てだ。

 ルシェは現在、キティと同じく〈フロントライン〉に間借りしていて、給仕の仕事に精を出している。今まで研究所暮らしだったからか、労働が楽しくてたまらないらしい。


『こんなの初めて!』


 と意味不明なことを言い、嬉々として酒場内を駆け回っている。客の評判も良い。かなり良い。それはそうだろう。

 理由はメイド服だ。ルシェはメイド服を着て仕事をしている。それもミニスカの。人気の理由は絶対これ。最初はレインの趣味かと思ったが、なんとこれはマダムの指示である。


『こんな時のために取っておいたのさ』


 と意味の分からないことを言ってクローゼットから引っ張ってきたらしい。キティが給仕をしている頃にはそんなものは無かった。キティの場合は、エプロンと思われる汚い布切れを投げつけられて『やれ』と言われただけだった。どういうことだ、この差は。

 確かに、ルシェは素性が素性なだけに、性別を隠して正体を偽る目的があるにはあるが、なんだか釈然としなかった。

 それはさておき──

 やっぱルシェは脚だな、とキティは思いながらグラスに口をつけた。すべすべの肌にいい感じの肉付きのプリプリした脚だ。フリルのフリフリとプリプリが合わさってそれはもう甘美としか言えないような姿で笑顔をフリまいている。ソックスの締め付けがプリプリを強調していてこれがまた良いのだ。マダムは最近ルシェにクリームを渡していて、身体に塗り込むように言っているらしい。ルシェは素直に聞いてしまうので毎日お肌プリプリだ。髪型は日替わりで今日は──


「それにしても」


 マダムが遮りやがった。何なんだ。今日のルシェの髪型は──


「なんでこんな子に仕事を頼む連中がいるんだろうねえ」


 キティは頬杖をついてルシェの方を見ながら話を聞く。


「え? 何? 私のこと?」

「事情はどうあれ、アンタはクライアントの要求を台無しにしちまったわけだ。そんなことをしちまったら、評判ガタ落ちだよ、普通は」

「私は依頼を完璧に達成したよ、マム」

「ん?」


 直接見てはいないが、マダムはきっと不思議そうな顔をしているだろう。


「わかってないなー、マム。アッシュの依頼は『ルシェをこの酒場に連れてくる』だった。そして今! その通りになっている!」

「……フッ、まあいいだろうさ。──で、仕事の話がある」


 頬杖をついたままマダムの方を向き、ニヤリと微笑んで訊いた。


「なんで私に?」

「わざわざそれを言わせるつもりかい? 凝り性アーティストさん」

「どうしても、聞きたいね」


 マダムは呆れたようにため息をついた。そして、こう答えた。


ガラクタの魔術師ジャンク・ウィズ〉・キティ──竜巻の刻印装を操る騒乱の傭兵。アンタをご指名だ。

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