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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
1章

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03 傭兵の酒場

 メリディア・シティと旧王都の境界線上にその酒場はあった。

 店の名前は〈フロントライン〉。都市とスラムを行き交う傭兵や賞金稼ぎたちが立ち寄り、依頼を引き受けたり、情報交換をしたりする場として使われていた。


「マムの情報通り、お宝がゴロゴロあったよ」


 キティが大きな袋をドシンとカウンターに置き、中に入っているものを広げて見せた。

 袋の中には、義手や義足として使われる刻印装が何本も入っていた。しかし、それらはキティやギャングが使っていたのとは趣が異なるものだった。

そのフレームは磨き上げられた金属や、透き通るような純白の陶磁器、重厚感のある象牙、その他に鮮やかな色合いの部品で構成されており、凝った意匠も施されていた。宝石が散りばめられているものもあった。誰がどう見ても実用的ではない。都市に住む富裕層向けに製造された、装飾品としての刻印装であることが一目でわかる代物だった。

 かつて『魔法』という技術があった。それは杖や石板に彫られた魔法陣を起動し、火や風などの物理現象を起こすだけの簡単なものだった。

 だがやがて貴族たちの技術革新により、それまで経験的に画かれていた魔法陣とその効果が体系化され、ルーンとして工業製品化された。ルーンが刻印された部品を組み合わせて様々な道具や兵器が生み出された。

 十年前の戦争により、その技術はさらなる進化を遂げる。貴族たちは、人間の身体の一部をルーン製品で置き換える技術を編み出したのだ。刻印装の誕生である。刻印装の導入により肉体の機能を拡張し、身体を武器化した兵士を実戦に投入することで、貴族たちは国王軍を打ち負かした。

 現在では義手や義足としての機能しかない簡単な刻印装も出回り、二次流通品や廃棄されたものが貧困層でも使用されるほど一般的なものになっている。そして、キティが持ってきたような高級品も当然存在する。


「ご苦労さん」


 カウンターを挟んでキティの対面にいる女がぶっきらぼうに言った。

 極彩色のドレスに身を包み、これまたド派手な深紅のストレートヘアが特徴の妖艶な女だった。その女は見た目こそ二十代後半に見えるが、妙に貫禄があり、実年齢は不明だった。

 その女の両目は黒いアイパッチのようなもので覆われていた。アイパッチの端のほうをよく見ると、顔の皮膚に埋め込まれている。義眼として使用される視覚系の刻印装だ。目元が見えなくなっているのも、年齢不詳であることの一因だった。

 彼女の名はマダム・モンマス。〈フロントライン〉の店主である。

 マダムの経歴はよくわかっていない。凄腕の傭兵だった、娼館の主だった、はたまた王族の生き残りだ、などと様々な噂がある。なぜ誰もマダムの過去を知らないのか? それを知っている者はみなマダムに抹殺されてしまったからだ、なんて噂もあった。ともあれ今は酒場を切り盛りしつつ、情報屋として傭兵たちからの尊敬を集めている人物だった。やたら超然とした態度で物を言う人物であることでも有名だ。


「で、ブッチャーズの連中は?」


 マダムが訊いた。

 キティは義手の親指を自分の首に当て、引くようにしてなぞった。その動作をやりながら、馬鹿みたいに舌をだらんと垂らす。『全員始末しちゃいました』というジェスチャーだ。

 マダムはため息をしながらかぶりを振った。


「アンタねえ……そんな仕事のやり方じゃあ長生きできないよ」

「でもコソコソやるよりそっちの方が早いし私向きだしそれに──」

「アンタに伝えたのは、

『シティの人間を拉致してバラした品を売り捌いている連中がいる』

『そいつらが旧王都の商業区をアジトにしている』

『奪われた刻印装が裏に流れる前に回収したいクライアントがいる』

 って情報だ。普通の傭兵は今言った話を聞いたら『ハイハイ、アジトに忍び込んで目標の品を盗んでくれば良いのね』ってなるもんなんだよ。そっちの方が安全だしね。一人で殴り込みにいって、全員ブチのめしてくるやつがあるかい」


 呆れたそぶりを見せるマダムをなだめるように、キティは両手を前に出して悠々と言った。


「まあまあ、マム。あいつら死ぬほどゲスだったし、勧善懲悪だよ。それに、みんなと同じことやっていたら大物になれないよ? 私はいつかメリディア・シティに移り住んで、〈ギルド〉に入って稼ぎまくるつもりなんだから。それで、報酬は?」


 満面の笑顔を浮かべるキティを見て、これ以上説教をしても無駄だと判断したマダムが再びため息を吐いた。


「仲介料を差し引いて……先月の家賃はチャラにしてやるよ。フン、ついでに今月分も加えといてやろう。こっちは善意のおまけだ」


 一瞬の間があった。

 キティは顔を強張らせて怒鳴った。


「はあああああ? こっちは命がけだったんだけど! だいたいクライアントって絶対金持ちだよね? もっと貰っても良いでしょ! というか、貰ってるでしょ!?」

「先方が依頼した相手も、情報を集めたのも、全部アタシだ。アンタは品を取ってきただけ。公正な分配だよ。命張って暴れたのはアンタの勝手だしね」


 キティはマダムの店に間借りしていた。傭兵稼業は安定して仕事を得られるわけではない。確かに先月分の家賃は滞納していたし、今月分まで先払いできるのはありがたいと言えばありがたいのだが、それだけとは。今回の仕事の成果には自信と期待があったので、キティはどうも納得できなかった。

 キティは、わーわーぎゃーぎゃーと駄々をこねるように報酬を受け取る権利を主張し続けたが、マダムは完全に聞き流している。やがて騒ぐのに疲れ、肩で息をし始めた。やる気を無くして完全に腑抜けの表情となっている。ほろりと泣き出す一歩手前の状態だった。

 すると、そうなるのを見計らっていたかのように、マダムが話を切り出してきた。


「それはさておき……また仕事の話がある。しかも、今回の先方はアンタをご指名だ」

「へ?」

「客はアンタに面と向かって依頼したいみたいでね。実はすでに、奥の部屋で待ってもらってる。メリディア・シティから来た、貴族の使いだとかなんとか言ってたね」

「貴族が!?」


 両手でカウンターをばしんと強く叩いて前のめりになった。先程とは打って変わって、その目には光が満ちていた。

 きっと今までの努力が実を結び、自分の存在がシティに伝わっているのだろう。スラム出身だが優秀で若くて可愛い女の子の傭兵がいるらしいぞ、とかなんとか。そんなことを想像した。


「うんうん……やっぱり頑張り続けていると、良いことがあるもんだねえ……」


 キティは目を閉じ腕組みをしながら、しみじみと感慨に浸った。


「なに年寄りみたいなこと言ってるんだい。先方を待たせるんじゃないよ。さっさと行きな」

「はいよ、マム! これでこんな場所とはもうおさらばだ! 私はシティに行く!」


 両手をマダムの方に向けてヒラヒラさせながら、奥の部屋に向かった。

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