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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
4章

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36 少女と少年

 森の小道を、わたしは歩いている。

 暖かい木漏れ日が降り注ぎ、枝葉が風でこすれ合ってさざ波のような音を立てていた。視線を土の上に落とすと、こぼれ落ちた光と木々の影が交錯した模様を描いている。

歩きなれた道をそのまま進むと、少し開けた場所に少年の後姿が見えた。

 遊びのため、剣の稽古のため、そして語らうため、幼いころから二人で何度も来たこの場所。

 そこに佇む少年の、見慣れたブロンドのくせっ毛が、風に優しく撫でられそよいでいた。


「ここにいたんだね。アース」


 わたしが声をかけると、気づいたあなたは振り返り、にっこりと微笑んだ。わたしもつられて頬が緩んだ。


「ここにいると落ち着くから。でも、いま行こうと思ってたところだよ。リンレイ」


 アース・ウェイヘム──国王に仕える〈騎士〉の一族、その一人。

あなたはいつもそんな風に、心が軽くなるような、暖かな顔をしていた。目が大きくて、まつ毛が長くて、同い年の子たちよりも少しだけ背が低くて、やっぱり子供みたいに見えた。でもこれから、あの戦場に行かなければならなかった。


「結局、稽古ではリンレイに一度も勝てなかったなあ」

「わたしの方がお姉さんだからね、当たり前でしょ。それに、大人でもわたしに勝てない人はたくさんいるし」

「……そう、だね」


 そう言ってあなたは目を伏せた。微笑み続けていたけれど、よく見ると引きつっていて、無理をしているように見えた。

 視線を下げると、あなたの手はかすかに震えていた。


「怖いんだ。こんなところを見せたくなかったけど、どうしても、怖いんだよ」

「アース、あなたはまだ子供だし、やっぱりまだここに残っていたほうが──」

「ダメだ、一族の者はみんな戦いに行ってる。リンレイの……オートヘイム家もそうでしょ?それに、僕とそう歳が変わらない子たちも出撃した。僕だけが何もしないなんて、そんなことは認められない」


 招集がかかっていた。貴族軍が擁する刻印装部隊を迎撃するため、王国の最高戦力である〈騎士〉たち一人残らずに。その時の王国は、自分とアースのような子供でさえ戦力として見なさなければならないほど、追い詰められていた。

 王のため、国のため、民のため、家族のため、戦いに向かわなければならなかった。他にどうすれば良いのかなんて、思い付かなかった。


「怖いとか、怖くないとか、そんなことは関係がない」


 あなたは声を絞り出した。まるで、自分に言い聞かせるように。

 わたしは、その時できることをするしかなかった。

 あなたの手を握ることしか、できなかった。


「……ありがとう。震えが止まったよ」


 違う。本当は、わたしも震えていた。

 本当はあなたと同じで、怖くて怖くてたまらなかった。それでも、そんな姿をあなたに見せてはならないと、その時は思ってしまった。


「やっぱりリンレイは優しいね」


 違う。あなたの手を握ることで、二人の震えを押さえつけてしまった。


「大丈夫だよ、アース。何があっても、わたしが守るから」


 そんなことを言うつもりはなかった。もっと、話したいことがあったはずなのに。

 きっとあの時、わたしたちは糸で結ばれてしまった。

 そしてあの戦場で、わたしたちの全てが変わった。

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