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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
4章

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32 迷光

「そっちはどんな感じ?」

《フュリアスとイコライザーがめちゃくちゃ暴れてる》

「勝てそう?」

《わからない。アッシュの刻印装が思っていたのと違った。下は戦争みたいになってるよ》

「アンタ戦争知らないでしょ」

《キティだって》

「私は戦ってるから」

《それを言うのはずるい》

「……ごめん」

《でも、よく引き受けたよね。あの二人》

「傭兵だって言ってたし。頼んだらいけるかなって。金はキュリオンから貰ったのがあったからね。『〈ナイトギルド〉に喧嘩を売る』って言ったら喜んで引き受けてくれた」

《頭おかしいのかな、あの二人。不安になってきた》

「こっちは不安どころじゃないんだけど!」


 実際、キティはこの数分間で何度も死にかけていた。

 ラストが操る無数の杭が引き起こす強烈な竜巻に、キティは手も足も出なかったのである。

 杭の竜巻を起こしてからのラストの攻撃は熾烈を極めた。竜巻で加速された状態から放たれる杭は、先程とは別次元の破壊力を持つ兵器となっていた。杭一本の直撃で壁が爆発する、そんな具合だ。もし一発でも当たればキティの身体は粉々に砕け散ってカッコよくなくなってしまうだろう。

 コイルから放たれる超音速の釘の連射も、すべてあの竜巻に防がれ、明後日の方向に弾かれた。上手いこと杭の隙間を通らないかと期待して撃ちまくったが、一本もすり抜けなかった。

 フュリアスたちと戦った時のように、ガラクタの竜巻を形成して叩きつけることも考えたが、ルシェの方でも出力やら軌道制御やらと複雑なルーン操作が必要らしい。アッシュの攻撃に対応している状態では無理だと言うのだ。

 そういうわけで、他の打開策が見つかるまでの間、キティはラストの攻撃を凌ぎ続けなければならないのだった。

 逃げながら、牽制のつもりでコイルを数発撃った。全然効かない。全然ダメ。

 ラストはニッコリと微笑みながら可愛げに首を傾けて、元気いっぱいに加速された杭をぶち込んでくる。

 いや、ラストの顔面は人形なので表情に変化は無いのだが、間違いなくあれはニッコリ笑っているはずだ、とキティは思った。そういえば聞いたことがある。世の中には、見る角度でその表情が違って見える彫刻があるらしい。なるほど。キティには心当たりがあった。〈ハイブ〉に住み始めた頃、国王の顔が書いてある紙を拾った。多分、広告か何かだ。こちらを指さして『お前だ!』とかそんなことが書いてあった気がする。なんとなく、その紙を縦に三回折って、国王の顔に折り目を付けた。するとなんと、紙を前後に傾けることで国王の表情が変化するという大発見をしたのだった。通りかかった知らない人にその紙を見せると、その人は『今日はこれで我慢してやる』と言ってその紙を貪り食って去っていった。幼いキティは少し漏らした。それに近いことがラストの顔面にも言えるのではないだろうか。いや、多分違うな。絶対違う。

 目の前の瓦礫が爆発し、現実に引き戻された。反動で後ろに吹っ飛ばされる。受け身を取って起き上がる瞬間、ラストと目が合った。相変わらず、ニッコリ笑っているように見える。

 一発だけ撃たせてあげるよ? そんなことを言っているようにも見える。舐めやがって。


《準備ができた! 対抗策だ! 今度は僕が狙いを付ける! まずは一発だけだ!》


 ナイスタイミング。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 コイルの制御がルシェに移り、関節が駆動した。

 〈ハイブ〉で出会ったときのような、初めて制御を奪われたときのような強引な感じはしない。動きをリードするように、そっと腕を支えるように、二人の腕が重なるように、以心伝心セマンティックな軌跡を描いて、刻印装がラストを狙った。


《今だ!》


 ルシェが叫んだタイミングで、超音速の釘を一発だけ射出した。

 釘はラストの竜巻に飲み込まれ、金属音と共に火花をまき散らした。その強烈な閃光に、一瞬だけ目が眩む。

 すぐに視界が戻ったが、杭の竜巻に変化はなく、ラストはその中心に立ち続けていた。

 さっきまでと同じ結果、のように見える。

 しかし、なぜか爆撃は来ない。


《早く帰ってアッシュとゆっくりしたいの》


 ラストが首を傾げた。その顔は、怒りに満ちているように見えた。


「そんな顔もできるんだな」


 それまで傷一つ付けることができなかったラストの身体、その左肩に一本だけ、釘が突き刺さっていた。


《もう一発だ!》

「わかってる!」


 コイルの射撃。再びルシェが狙いをつけ、キティが発射する。

 炸裂音が響く。ラストの竜巻から火花が飛び散り、金属の焦げた臭いが広がる。

 今度はラストの右の脇腹に一本、釘が刺さっていた。


《早く帰ってアッシュとゆっくりしたいの》


 ラストの杭の爆撃が始まった。反撃の余裕はない。とにかく逃げ続ける。竜巻の轟音と瓦礫の炸裂音に加えて、ラストの血管がブチ切れた音まで聞こえている気がした。


「何をやったの!?」

《杭の軌道を読んだ!》

「はあ?」

《さっきも説明したけど、ラストの能力は本体と杭、それぞれのルーンの相互作用によるものだ。杭単体で動いているわけじゃない。つまり、ラスト本体が杭をコントロールしているんだ》

「コイルと同じなんじゃないの!?」

《違う。コイルのルーンは『近くのものをグルグル回し続ける』という動作をしているだけだ。でもラストの竜巻は、ラスト自身が杭の一本一本を制御して引き起こしている》

「そんなことが? 百本以上あるでしょあれ!」

《確かに実際は軌道制御用のスクリプトを〈アストラル〉に投下して物操補助をしつつ各ルーンの連携パターンを──》

「今はそういうのいらない!」

《そっちが訊いたんじゃないか!》


 ルシェがキレたのでキティは少しひるんだ。あとで謝っておこう。


《……ともかく、ラストの意思で竜巻をコントロールしているなら動きのパターンを読めると思った。だから、〈アストラル〉で杭の軌道を計算して隙間を探したんだ》

「計算……まあいいや! それで!?」

《隙間なんて全然無かった! あの竜巻はとんでもなく合理的な要塞だ! 攻撃用、防御用、遊撃用の層に分かれていてすべての層が完璧に連携していた!》

「完璧なら無理じゃん!」

《そこを利用する! あえて防御させた。跳弾だ! グールズを倒した時と同じ。釘を杭に反射させ、それを連鎖し続けて本体まで届かせた! 竜巻の軌道計算が終わった今、タイミングさえ合えば、絶対に本体に釘を叩きこめる!》

「反撃開始ならさっさとそう言え!」


 爆撃の合間を見計らって、コイルをラストに向ける。発射準備。

 ルシェが狙いを付ける。

 超音速の釘の発射。

 連射はしない。一発ずつ。間隔を開けて、一定のリズムで撃ち続ける。

 竜巻から火花が上がり、中心に立つラストがのけぞる。

 撃ち続ける。

 火花は途切れない。竜巻がキティの攻撃を飲み込み続け、反射した釘がラストに襲いかかる。

 四方八方から滅多刺しにされたラストが、まるで金属音と火花を伴奏にして踊るかのように、竜巻の中で藻掻きまわった。

 やがて、コイルを回る釘が無くなる。

 即座に次のポーチへ──装填完了。

 撃ち続ける。

 陶磁器人形の踊りは止まらない。

 それを繰り返し続け──完全に釘が無くなった。

 キティは息をするのを忘れていた。いや、緊張でできなかったのかもしれない。ともかく、釘を撃ち尽くしたところで、大きく息を吸った。呼吸を整えながら、ラストの方を見る。

 竜巻は消え、杭は宙に浮いたまま静止していた。

 凪。そんな風景だ。

 その中心にラストがいた。

 軽く膝を曲げた内股の姿勢でかろうじて立っているようだった。身体中は突き刺さった釘だらけで、ささくれだらけの木偶人形のような見た目になっている。流線型のメタリックなフレームはどこにも見当たらなかった。顔面の陶磁器もひび割れ、ところどころ欠けていた。


《早く帰って、アッシュと、ゆっくりした、いの》


 不快なノイズを交えながらラストが機械音声を発した。まだ生きている。

 その表情には、何も感情と言えるようなものは無いように見えた。

 金属が軋むような、甲高くて不快な音が聞こえてくる。

 ラストの身体に変化が現れた。


 ラストの脚が変形し始めた。両脚がそれぞれ前後左右の四方向に裂け、その並びを変えた。八本の脚が身体を中心にして放射状に並んでいる。次に脛と腿が縦に割れ、スライドして倍の長さに伸びた。そして膝関節を曲げバランスを取り、キティを見下ろした。

 さらなる異形と化したラスト。全身が釘だらけで、両腕が無く、蜘蛛のように八本脚で身体を支える巨体の人形がそこにいた。


「うげ……気持ち悪……」

《ルーンがまだ生きてる!》


 次の瞬間、杭がデタラメな軌道で乱射された。周囲の瓦礫が爆発し、石や煙がめちゃくちゃに巻き上がる。周囲の視界が途切れていった。


《もう弾は無い! 逃げろ!》

「言われなくても逃げるわ! でも弾は探す!」


 爆撃による煙に紛れて、廃墟の中へ逃げ込んだ。屋根は無い。部屋の中を見回して、発射できそうなものを探す。

 ──ダメだ。石ころしかない。これだと威力が足りないはずだ。

 廃墟の周りが静かになった。ラストはどうしている? こちらを探し始めたのか?

 窓に近づき外を見ようとした。


《伏せろ! キティ!》


 とっさに伏せた。次の瞬間、廃墟の外から杭が殺到してきた。三百六十度、全方位からの杭の爆撃。壁が完全に破壊され消滅した。

 杭はすべてキティの上を通り過ぎていったようだった。起き上がって周りを見回す。また煙で視界が途切れる。


《上だ!》


 とっさに上を向くと、十メートルほどの高さに飛び上がった八本脚のラストがいた。驚異的な跳躍力。一瞬だが、身動きができなかった。恐怖心の勝利。

 ラストが落下してくる。鋭利に尖った脚の先端がこちらに向いている。

 八本脚が同時に着地した。キティは寸前のところでかわしたが、仰向けに倒れた。見上げたところに首を傾げたラストがいる。


《早く帰ってアッシュとゆっくりしたいの》


 八本脚をめちゃくちゃに踏みつけてきた。床がめった刺しにされる。無我夢中で転がって逃げた。

 とにかく今は距離を取る。逃げ続ける。

 振り返ったキティは、あまりにも悪夢的な敵の姿に息を呑んだ。

 後ろからラストが蜘蛛のような動きで追いかけてくる。脚を地面と壁に突き刺して、文字通り縦横無尽に動きまわっていた。


「こっちの竜巻は!?」

《アッシュの妨害がまだ続いてる! もう少しだ!》


 そのとき、杭の爆撃がキティの足元に炸裂し、衝撃で身体が宙に放り出された。

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