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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
4章

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29 新たな依頼

「どういうことだ? アッシュ・〈ザ・パペットマスター〉」


 目の前にいる貴族が不機嫌そうにお茶を啜っている。啜るたびにむせこんで、それでも馬鹿みたいに啜り続けている。

 アッシュは、〈トートリープ・パレス〉の一室に呼び出されていた。

〈ナイトギルド〉の仕事は退屈なものばかりだ。圧倒的な戦闘力を持つ高性能刻印装による制圧、それ自体は面白いともつまらないとも思っていない。殺し合いだろうと子供の遊びだろうと、戦いは戦いでしかない。その形式や使う道具が異なるだけで、本質的な違いはない。貴族との仕事、それ自体が退屈なのだとアッシュは常々感じていた。金と命令だけで、すべてを支配できると思い込んでいる連中との付き合いが。

 しかし今日は珍しいことに、面白いものを見せられている。

 キュリオン・トートリープ。メリディア・シティを支配するトートリープ家の一人。霊石研究の第一人者でもある彼が、ぐずっている子供のように喚いているのだ。


「もう一度言う。どういうことだ? アッシュ・〈ザ・パペットマスター〉」

「俺はそれを聞きにここへ来たのだが」

「お前がそれを言うのか?」

「〈ナイトギルド〉から要請があったからここに来た。それだけだ。依頼内容を」

「お前をここに呼んだのは私だ! ルシェ・〈ザ・アストラル・ゲイザー〉が再び研究所から脱出した」


 ほう、と呟いてアッシュは自分の手──刻印装を眺めた。純白の陶磁器フレームに金の装飾が施された芸術品だ。自分たち〈騎士〉の戦いぶりを評価した貴族からの贈り物。退屈そうにふるまってはいるが、その顔はかすかに笑っていた。


「他人事のつもりかね? 何もわかっていないつもりか?」

「依頼内容以外は実際に他人事だ」

「研究所が襲撃された。被害の把握と調査に数日がかかったが、襲撃者が判明した。キティ、とか言ったか。お前が連れてきた旧王都の傭兵女だ」


 研究所にも刻印装化した兵士はいただろうが、所詮は野良の傭兵と大して変わらないレベルの玩具だ。こういうところで貴族の連中は温いと言わざるを得ない。まあ、〈ナイトギルド〉に警護を要請したらしたで莫大な費用が掛かってしまうから、現実的な問題があるのだろう。目の前の道楽者も、案外懐が寂しいのかもしれない。


「あの後で関りはない」

「渡すはずだった報酬の一部が部屋に残っていたぞ。どういうことだ」

「さあ? 所詮、野良猫だ。獣が考えることはわからない」

「この期に及んで……まあ、いい。依頼は情報器に送った。出ていけ」

「それでは」


 アッシュは「やれやれ」とでも言いたげな顔でわざとらしくため息を吐いて、部屋を後にした。キュリオンのぼやき声が背後から聞こえたが無視する。部屋の外には全身刻印装の〈ナイトギルド〉、ラスト・〈ザ・ガラスドール〉が待機していた。

 ラストも自分と同じように戦争を生き残った元〈騎士〉だ。だが、脳以外を刻印装化し、生命活動自体を〈ギルド〉に管理させている彼女の方が、より完璧にシティのシステムと一体化した存在と言えるかもしれない。


《依頼を受け取ったよ、アッシュ。でも、来る必要あったの?》

「クライアントのご要望だからな。サービスは必要だ、ラスト」

《どんな話をしたの?》

「何も。時間の無駄だった」


 廊下を進み、昇降機へ乗った。

 キュリオンもラストも、キティの選択の意味が分かっていないらしい。

 アッシュは、こうなった経緯を思い返していた。

 約二か月前、〈ハイブ〉に逃げたルシェを捜索するにあたって、アッシュはキティ以外の、複数の傭兵たちにも同じ依頼を展開していた。広大で入り組んだ〈ハイブ〉の中から目標を見つけ出すために、手数を増やして臨もうとしたのだ。

 自分は手を下さず、実戦は人形たちに任せ、任務をこなす。これが〈ザ・パペットマスター〉の基本戦術である。

 多くの傭兵たちがルシェを見つけられない中で、キティだけが目標を達成することができた。道中、ギャングとの戦闘もこなしていたらしい。どうやら運だけでなく、傭兵としての実力も、彼女には備わっていることがわかった。

 任務達成後、システム──つまり契約に則り、アッシュはキティを〈ナイトギルド〉へ招待した。少なくとも実績データ上は、彼女は組織の基準を十分に満たしていた。

 だが、まさかあんな選択を取るとは。

 あの日、キティは三つ受け取ることができる報酬の内、金だけを受け取った。シティに住む気が無かったのか? 〈ナイトギルド〉に入りたくなかったのか? どちらも違うだろう。

 宣戦布告だ。アッシュはそう理解した。傭兵を手懐け利用しようとするシティのシステムを、逆に利用してやろうというわけだ。それも、こちらが予期できないような方法で。その態度を表明するために、あんな選択をしたのだ。

 正直なところ、初めて会ったとき、こいつはシティに向いていないと思った。自分の話をしたがるやつだったからだ。目を見た瞬間、交渉のペースを握ろうとしていたことがすぐにわかった。支配者ならそれでいいだろう。だが、システムの一部となる存在に、意思などいらない。あってはならない。

 やはり、気に食わない女だ。戦争ですべてを失い、あのゴミ溜めで生きてきたのならわかっているはずなのに。この世界には、操り人形と、その操手しかいない。お前は操られる側だ。

 世界はお前が望む通りには動かないぞ、キティ。

 一階へ降りる昇降機の中で、アッシュは白磁の拳を握りしめた。

 エントランスに到着し、無言のまま〈パレス〉の外に出た。そしてルーン動力の馬車に乗る前に、ラストへ声をかけた。


「それで、依頼の内容は?」

《ルシェ・トートリープの奪還。そして、傭兵キティの撃滅》

「それだけか?」

《うん。早く終わらせて、二人でゆっくりしよう》


 なんでもないような表情のまま、「そうだな」と言って馬車に乗った。そして、シティの光り輝く街並みを窓から眺めながら、アッシュはため息をつく。わかっていても、口に出さずにはいられない。


「退屈な仕事だ」

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