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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
2章

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22 地下の道

「おいおいおいおい。すごいな、これは」


 レインが感嘆しため息を吐いた。

 キティとルシェは地下通路を見つけたあと、いったん〈教会〉へ戻ることにした。地下通路はどれほど広いか見当もつかないので、拠点で補給と休息を挟んでから再探索をしようという話になったのだ。

 戻る途中、フュリアスたちがいなくなっていたことに気づいた。またどこからか襲撃してくるのではないかと警戒したが、結局再び出会うことはなかった。ルシェに〈アストラル〉経由で探査をしてもらってみても周囲にはいないようだったので、どうやら引き下がってくれたらしい。

〈教会〉にてことの顛末をレインへ報告したところ、地下通路の発見は間違いなく〈ハイブ〉史上屈指の大発見だ、ということで再探索は彼女も同行することになった。とりあえずその日の残りは、レインとキティは刻印装の修理に時間を費やすことになった。ルシェは飯食って寝ていた。

 ちなみに、倉庫を爆破されてブチギレた小麦粉バイヤーが殴り込んできて一戦交えそうになるという状況が起きたが、そちらは土下座して何とか丸く収まった。

 そして次の日、三人は地下通路を進んでいった。発光系ルーンを持ってきているが、トンネルの奥は全く見えない。同じような煉瓦造りの通路がずっと続いている。

 数分進んだところで通路に変化があった。突き当りだ。歩いてきたのと同じくらい広い通路が左右に伸びていた。床が段差になっており、下に一段降りると左右の通路に合流する形だ。

 その通路の床は奇妙な造形をしていた。まず、それまで煉瓦作りだった通路とは違い、石や土が敷き詰められている。さらに、長い鉄柱が二本横向きに並んでいた。鉄柱は途切れることが無く、通路の奥まで続いているようだ。二本の鉄柱の間には、木の板が等間隔で並べられている。見た事の無い造形だった。歩きづらそうな通路だ。壁と天井は煉瓦造りだったが、よく見ると天井に通気口のような穴が何箇所も開けられていた。


「何これ? ルシェ、わかる?」

「いや。シティにもこんなものは無かったと思う」


 三人で訝し気に床を眺めていると、レインが「あ!」と何かに気づき、その場をぐるぐると回り始めた。


「ええと……シティが多分あっちか……? よし! きっとこっちだ!」


 レインが駆けだした。どうやらシティではなく、その逆、〈ハイブ〉の中心に向かっているらしい。キティとルシェも着いて行った。


「あったぞ! やっぱりだ!」


 レインが進む先は行き止まりだった。行き止まりにはこれまた奇妙なものがあった。馬車くらいの大きさの黒い箱があり、奥に向かって同じものが三つ並んで繋がっていた。箱の左右には車輪がいくつか付いていて、それは二本の鉄柱の上に乗っているようだ。見たところ金属製だ。通路に向かう先頭の箱には小さい箱のようなものがいくつか入っており、残りの二つの中には椅子が並べられている。乗り物のように見えるが、馬は当然いないし、ルーンも刻印されていない。どうやって動かすのか不明だ。


「本当にあったのか……おい! すごいぞお前ら! これは蒸気機関車だ!」

「……ジョーキカ?」


 キティはルシェの方を見た。ルシェは両手のひらを上に向けて肩の高さまで上げ、首を傾げている。さっぱりわかりません、のポーズだ。いつの間に体得したんだろうか。


「蒸気機関車だよ! 蒸気機関! スチーム!」


 レインは腕をブンブン振って興奮している。なんだか頭からシュポシュポ煙のようなものをあげているようにも見える。多分気のせいだろう。


「いつもの長くて丁寧な説明をお願いします。レイン教授」

「蒸気機関だ! ルーンを使わない動力として開発されていた幻の技術だ! ルーン産業で利権を得ていた貴族のせいで闇に葬られていたらしいけど、王城で! 文字通り! 地下で! 実用化されていたんだ!

 で、どういう原理かと言うとだな……なんか水を沸騰させてなんかその蒸気でなんか回すんだよ!

 これはそれを使った乗り物だ! 蒸気機関車! 多分ここでの移動手段だ!

 キティにはそんな説明で良いだろ! ハハハ!」


 最後の一言が思っていたよりもプライドに響いてしまったキティは歯を食いしばって耐えた。フュリアスの一撃よりもキツイかもしれない。レインは小躍りに夢中だ。ルシェが期待と不安が混じったような顔をして訊いた。


「つまり、これに乗ってシティよりも外に出れるかもってこと? もし地下通路がずっと続いていればだけど」


「続いてるに決まってる! どこまでも! ルシェ! ハイタッチだ!」


 勢いに流されてルシェがおろおろ片手を上げた。それに合わせてレインが体を捻って振りかぶり、ルシェの掌を思い切りぶっ叩いた。

 バチイイン! と強烈な破裂音を立ててレインとルシェがハイタッチした。するとルシェはその場で手を押さえて、ゆっくりとうずくまった。顔が真っ青だ。声も出せず、激痛に耐えている。一方の相手は再度小躍りを継続する。

 そしてレインが絶叫する。


「地下を突き進む鉄の道! 地下鉄道アンダーグラウンド・レイルロードだ!」




「動かねーじゃねーか!」


 レインがブチ切れている。先頭車両の中で、鉄の箱をドッカンドッカン蹴りまくっている。長身から繰り出される強烈なスタンプで鉄がベコベコになっていく。


「レイン教授。ルシェが怖がっています」


 ルシェを後ろにかばいながら、キティは恐る恐る訊いた。レインの血走った目がぎょろりとこちらを向く。背後でルシェがガタガタ震えている。


「燃料がねえ!」

「だから、わかるように言──」

「石炭だ! 燃えるやつ! 蒸気機関は水を沸騰させなきゃならん! それも高熱でだ! 水があってもその石炭が無いから動かせねえ!」


 おおおん! とレインは叫んだ後、天井を見上げて、涙目になりながら呟いた。


「帰る……」


 レインはがっくりとうなだれて、足を引きずるように歩き出した。


「帰って風呂に入る……ルシェも一緒に入ろう……」


 ルシェが「ひっ」と言って身を強張らせた。何を言っているんだこの女は。気性の乱高下と言動の異常さに、キティも怖くなってきた。だが、その時、


「ん?」

「ん?」

「んあ?」


 三人が同時に、あることに気づいた。

 きょろきょろ目を見合わせると、やはり三人とも同じことを考えているようだった。

 ──動かせるんじゃないか? 蒸気機関車。


 そこからは早かった。レインが発熱系ルーンを持ってきて、水を加熱して蒸気を発生させる構造を機関車に取り付けた。〈教会〉の風呂に使われていた給湯設備の応用である。


「でもさ、レイン。これってお湯を沸かすものだよね。ホントにこれで動くの? ジョーキ機関車」

「ここにあるルーンじゃ全然熱量が足りないな。本来なら」


 そう言ってレインは振り返った。その視線の先にいるルシェがこくり、とうなずいた。


「僕ならできるね」


〈ウィズ〉の能力を持つルシェは、〈アストラル〉を経由して意識をルーンに侵入させることができる。そして、侵入したルーンの制御を奪って操ったり、その出力を強化したりすることもできるのだ。先の戦いで、キティの刻印装がガラクタの竜巻を起こすことができたのも〈ウィズ〉のお陰だ。

 出力の低い発熱系ルーンをルシェが過剰駆動オーヴァドライブで強化し、その高熱で蒸気を発生させ、機関車を動かそうというわけだ。

 ルーンを取り付けたあと、水を運ぶ作業に入った。井戸がある場所と地下通路を何度も行き来した。肉体労働においてもレインは大活躍である。両手に大きなバケツを持って、荷馬車みたいに水をもりもり運んでいく。一方、ルシェは道中で転んで水をこぼすなどして、まったく役に立たなかった。

一通りの作業が終わるまでさらに一日かかったが、やがて準備が完了した。


「行くぞ! 伝説の地下鉄道に乗って! いざ!」


 レインの号令と共に機関車は発車した。

レインは先頭車両で操縦し、キティとルシェは真ん中の車両の中で座った。ルシェは発熱系ルーンを強化しなければならないので、眼と髪がうっすら光っている。じっとしている姿は、なんだか置物みたいだった。

 機関車が進んでいく。キティは窓から外を見た。列車に取り付けられた照明で進行方向は照らされているが、付近が見えるだけで先の方は真っ暗だった。両脇は壁しか見えない。暗闇の中を線路だけがずっと続いている。

この列車はシティの外側に向かっているようだが、実際のところどこにたどり着くのかはわからない。今の自分たちは線路の上をまっすぐ進むことしかできない。キティはこの状況に何か暗示めいたものを感じたが、今は休むことにした。連日の戦闘と水の運搬作業で疲れていた。


「いや、よく考えるとルーンを使わないことがコンセプトの蒸気機関車なのにこんな形に改造するのはそもそも──」


 先頭車両に耳を傾けると、レインが何やらブツブツとぼやいている。

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