21 生還
「起きてるか?」
むくり、とフュリアスは首を上げて言った。
「ああ、とっくにな」
イコライザーが凝った首をコキコキと鳴らしながら答えた。
女と子供がどこかへ行ったのを確認した後、少し間を開けてからのことだった。二人ともワイヤーにより仲良く縛られた状態で部屋の中に放置され、客観的に見れば大ピンチといった状況だったが、その口調はまるで世間話をするかのように軽かった。
「それにしても聞いたかよ? 『手にかけるのは気が引ける』だとよ? やっぱガキだな、あいつら」
「ああ。だが、そのお陰でこうして無事でいるわけだ」
「まあな。動くか?」
「ああ。〈ウィズ〉の攻撃を受けている気配はない。刻印装の制御は戻ったようだ」
イコライザーがそう言うと、ぐるぐる巻きになっていたワイヤーが輪を広げながらするすると解け、蟹の爪のような指先に吸い込まれていった。それが済むと、二人は気だるそうにゆっくりと立ち上がった。そして腕や指を動かして動作確認をする。関節部は多少軋むが、動作に問題が無いことを確認し、部屋の惨状を見渡した。
ワイヤーで拘束された時、実は二人は起きていた。だが、〈ウィズ〉によって刻印装の制御を奪われた状況で抵抗しても無駄だと判断し、あえて失神しているふりをして様子をうかがっていたのだった。
はじめこそ興味本位で女と子供を襲撃したが、瓦礫の竜巻を食らってからは、この戦いは二人にとってもはや『戦争』と定義されるものになっていた。であれば、状況に応じて闘争を捨て生き残ることも優先しなければならない。それが二人の矜持だった。
「どうするよ、追うか?」
「お前に任せよう。フュリアス」
イコライザーはため息を吐いた。相変わらず無表情のままだが、それなりに消耗しているようにみえる。蟹の爪ような刻印装の指が何本か折れているし、どうやらワイヤーも射出できなくなっている部位もある。
フュリアスの刻印装も、伝熱用の外骨格を失い修理が必要だった。この状態のまま、また女と子供を追跡してもいいが、フュリアスは少し考えた。ここに至るまでの戦いと、ついさっき起こった出来事を。そして頬を緩め、片手を振って言った。
「今日はもういいや。面白かったし。それに、お互いボロボロだ」
「まあ……確かに。万全の状態とは言い難いな。いったん引くのもいいだろう」
イコライザーがそう言うのを、フュリアスは目を細めてちらりと見た。やはりイコライザーから、もう帰りたいオーラを感じる。相棒の前で強がってはいるが、女と子供にこてんぱんにされてショックをうけているな、こりゃ。とフュリアスは一目で察した。
「じゃあそうするか。でも悪くなかったろ? 昔を思い出せたぜ、俺は」
「昔を? フッ。確かに二人とも死にかけたが、十年前の戦場はこんなものではなかっただろう」
「こんな目に遭ったくせに言うねえ、ホール。でも、そっちじゃねえよ」
「ん?」
イコライザーが意外そうな顔をした。フュリアスの意図が汲めなかったのが不思議らしい。
フュリアスが言いたかったのは、爆発が起きた時に自分がどう呼ばれたか、ということだった。
『待て! ヴォイド──』
──こういうところは勘が悪いんだよな、お前は。
〈フュリアス〉は戦場での呼び名だ。〈イコライザー〉もそう。だがそうでないときは、そうでなかったとき──部隊の仲間と共に打ち解け合っていたときは、みんな違う名前で呼び合っていた。
それを思い出しながらフュリアスは、友に呼ばれた名前を噛みしめ、ニカっと笑って言った。
「〈キングスグレイブ〉に戻ろうぜ。そろそろ、片付いてるだろ」




