01 〈旧王都〉
「……お出迎えなし、か。まあ、わかってたけどさ」
割れた石畳を踏み、乾いた足音が響いた。
廃墟が並ぶ通りをキティは歩いていた。壁にヒビが入り窓は割れたままの姿で、何年も放置された建物がずっと続いている場所だ。歪んでいるものや崩れかけているものまであった。周囲に人はおらず、彼女以外に動くものといえば、風に吹かれて舞う埃だけだった。
キティは、錆のようにくすんだ赤茶色をした巻き毛のショートヘアと、切れ長の目が特徴的な少女だった。マットな質感をした黒のレザーコートを着ており、腰のベルトには中身の詰まったポーチがいくつか吊るされている。靴は足首まで固定される頑強なブーツで、分厚いソールがその存在を目立たせていた。
通りすがりの町娘、と言うにはあまりにも武骨な身なりをしていた。そして、彼女の左腕が日の光をきらきらと反射していた。
その左腕は義手だった。
左の肩口で袖が破られており、義手の形状があらわになっていた。錆のついた金属と黄ばんだ陶磁器の部品がデタラメに組み合わされ、義手全体がモザイク模様のようになっている。その辺のガラクタを寄せ集めて腕の形状にしただけ、そんな代物にも見えた。
相変わらず周囲には誰もいなかった。周りを見渡しながら通りを進んでいく。
比較的状態が良い建物があったので、人がいるのではないかと期待して、玄関のドアを開けてみた。おそらく数年ぶりにその機能を発揮したであろう、ドアが甲高い悲鳴を上げた。それを聞いたキティは、期待外れであることを予感した。
案の定、そこも廃墟だった。人の気配はせず、暮らしの名残もなかった。埃を被ったガラクタがあるのみだった。
「ここもハズレかー」
すると突然、キティの背後から影が差した。振り返るよりも早く、後ろから手が伸び、あっという間にナイフが喉元に当てられていた。
「動くな、ガキ。ここで何してる?」
キティの背後に忍び寄った男が訊いた。首に当てられたナイフの刃が光る。その反射面で背後を確認しようとしたが、残念ながら見える角度ではなかった。影の大きさから、大柄の男であることだけは分かった。
「ええと……人を探していて……」
キティがそう答えると、ナイフが首から離れ、男の手が引いた。首筋は無事だったが、今度は左肩をがっしりと掴まれ、背後から突っつかれるような感触があった。どうやらナイフの刃先を背中に当てられているようだ。
「おれが指示する方に歩け。妙な真似したらブッ刺す」
十年前に起きた戦争により王政は崩壊した。国王を打倒しようとする一部の貴族たちが反旗を翻したのだ。戦争終盤、貴族軍に包囲された王都は最終決戦の末に陥落し、国王が持っていた権威は完全に砕かれた。そして戦火によって王都は都市機能を失い、廃墟と化した。
当時の貴族たちは『国王の圧政から民衆を解放し、真の民主主義に基づく理想国家を築く』などと高らかに大義を掲げていた。しかし、それが実現することはなかった。
資本と資源を独占した貴族たちは己の力と富を誇示するかのように、城郭都市である王都の周囲に新たな都市を築き、そこで栄華を極めた。華やかな高層建築、整備された道路、夜になっても光り輝く街並み。金と欲望がすべてを支配する楽園。
そこは〈メリディア・シティ〉と呼ばれた。
一方、廃墟となった王都は放置された。貧困層と、国王側だった兵士たちが流れ着き、生き延びるためにスラムを築いた。崩れた城壁に囲まれた〈旧王都〉の治安は悪化の一途をたどり、暴力が支配する無法地帯と化していた。
キティがいたのは旧王都の一角だ。そこは今でこそゴーストタウンとなっているが、かつては商業区として栄えていた地域だった。
脅してくる男の指示に従い、キティは無言で足を進める。そのまま五分ほど歩かされ、目的地と思われる建物に連れていかれた。




