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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
2章

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18/41

17 中庭憂鬱

「五日も探していて収穫無しだけど、本当にあるの? 地下通路」


 キティは途方に暮れていた。なるべく地上に近い層を探索し続けていたが、手掛かりとなるものは全くなかった。〈ハイブ〉をうろついて、〈教会〉に帰る、この数日間はずっとその繰り返しだった。

 〈ハイブ〉は横から見ると『下層』『上層』の二つに分けられ、上から見ると『北区』『東区』『南区』『西区』の四つに分けられる。レインの〈教会〉は『下層西区』にあり、キティたちは西区から時計回りに探索を始め、ほぼ一周して現在は南区を探索していた。


「おー。伸びる伸びる。見て見てー、ルシェー」


 キティはよくわからない動物のぬいぐるみを掴み、ぐるぐる振り回して遊んでいた。ぬいぐるみはその辺で拾ったものだ。首のあたりが千切れかかっており、振り回すと糸がほつれ、首がどんどん伸びていく。

 ずっと同じような景色の〈ハイブ〉内を探索していたキティは、そんなものでも面白いと思ってしまうほど飽きていた。やがて糸がプツリと切れ、ぬいぐるみの頭が土の上に落ちた。

 そこは広い吹き抜け構造の空間だった。天井はなく、四角く切り取られた青空が二人を見下ろしている。いま二人がいるのは一番下の層、地上だ。四方を百メートル以上の高さの建物で囲われているが、太陽の光が差し込み不思議と開放感がある。もともとは城の中庭だったようで、中央に木が植えられていた形跡があった。

 その中央の辺りで、ルシェは物憂げな表情をして空を眺めていた。

 探すのは下だろうが! とキティは突っ込みを入れたくなったが、何だか言いづらい雰囲気だったので別のことを訊いた。


「そういえばさ、『協力者』って?」


 ルシェは少しだけ逡巡してから答えた。


「エルスって子だ。前にも言ったけど、シティから逃げるのを手伝ってくれた。地下通路の存在を教えてくれたのも彼女だ」


 そして言葉慎重に選ぶかのように間を開けてから、再び口を開いた。


「僕が〈ハイブ〉に入った直後までは連絡を取っていた。〈アストラル〉経由で」

「それで、そのエルスは何者なの?」

「僕と同じ。生まれつき〈ウィズ〉の体質を持ってる子だ」


 そんな人間がシティには何人もいるのだろうか? と気になったが、どうせはぐらかされると思って質問を変える。


「エルスはなんでアンタと一緒じゃないの?」

「先にシティを出たんだ」

「どうやって?」

「わからない」

「今はどこに?」

「地下通路の外に出れば会える」

「そもそも地下の話が嘘かも──」

「嘘じゃない!」


 ルシェが怒鳴った。まるで自分に言い聞かせるように。今までクールを気取っていたルシェが感情的になり、キティは面食らった。

 ルシェはゆっくりとその場に膝を抱えてしゃがみ込み、顔を伏せた。


「海……」

「え?」

「エルスが、外に出たら見に行こうって……二人とも見たことないから、見に行こうって……」


 震えた声でそう言うと、そのまま黙り込んでしまった。少しも動く気配がない。顔は見えないが、もしかして泣いているのかもしれない。これまでのそぶりではわからなかったが、精神的に追い詰められていたのだろうか。エルスとかいう子とはよほど仲が良かったようだ。

 沈黙が続いた。まただ、空気が重すぎる。何か気の利いたことを言ってやらねば、とキティは考えた。

 そして──


「あんまり期待するもんじゃないよ」


 と、言った。

 最悪だ。言った直後、キティは「あ……」と呟いて後悔した。海のことを言ったつもりだった。キティは昔、親に港湾まで連れられて初めて海を見た時に『なんだか臭いし汚いな』と思った。その記憶があったからうっかり言ってしまったのだが、このタイミングではエルスのことを言及しているように聞こえただろう。

 苦笑いをしながら、ちらりとルシェの方を見る。ルシェは顔を伏せたまま微動だにせず、何も言わない。

 あーもー、いっそのことワンワン泣いてくれないかなー。そうしたら、こっちも全力で慰めてあげるんだけどなー。どうするんだよ、これ。

 そんなことを思いながらキティはルシェに背を向け、腰に手を当てため息をついた。やれやれ、何と声をかけてやればいいものか。

 途方に暮れていると、地面に二つの人影が見えた。


 キティの前方十メートルほど先に突如、巨大な鉄塊のようなものが落下した。轟音が響き、まるで爆発が起きたかのように土煙が上がった。

 やがて土煙が晴れると、ゴリラのような極太の腕をした男が現れた。どう見ても刻印装の腕だ。しゃがみ込み、片方の拳を地面に突いている姿勢をとっている。拳を地面に叩きつけて着地の衝撃を殺したのだろう。その男は嬉々とした表情で叫んだ。


「やっと見つかったな! 張り合いが出てきたぜ!」


 その後ろに、銀色の蟹の爪みたいな形の指をした男が、片手を上げた姿勢で、空からゆっくりと降りてきた。まるで見えない傘をさして風に乗っているかのようだった。上げた手の指先から建物に向かって、きらきらとした光の筋が何本も見えている。おそらく刻印装から糸のようなものを出して使っているのだろう。ゴリラ男とは対極的に仏頂面の男だ。


「用心しろよ。グールズがやられている。その女は危険だ」


 二人組が並んだ。その特殊な形状からしてやつらの刻印装には、きっと武器としての機能があるだろう。好戦的な雰囲気の二人組。きっと、こいつらがフュリアスとイコライザーだ。何の目的で来たかはわからないが、こんな登場の仕方だ。ルシェを狙っているに違いない、とキティは警戒した。


「ルシェ! 下がれ!」


 突然の襲撃に、キティの全身に汗が噴き出す。だがその一方で、思考を冷静に保ち状況把握するようにも努めた。

そして直感的にゴリラ男がフュリアスだろうとキティは見当をつけた。なんだか暑苦しそうな男で、激昂フュリアスって感じがする。消去法で蟹男がイコライザーだ。


「こっちのやり方でやらせてもらうぜ!」

「そこにいる子供を渡してもらう。力ずくで、だ。交渉の余地はない」


 イコライザーはそう言うと、ビンタをするかのような動きで右手を振った。何かを投げたのかと思ったが、正面からは何も飛んで来てはいない。何が──

 次の瞬間、刻印装が勝手にネイルガンに変形し、キティの左側に向けて釘を乱射した。自身の刻印装の動きを少しも意識できなかった。

 釘を撃った方から何かが砕け散る音がして、細かい石の破片がキティに降り注いだ。

 おそらく、左側から何か瓦礫のようなものが飛んできたのだ。ルシェが〈ウィズ〉の能力を使って刻印装の制御を奪い、反応できていないキティの代わりに瓦礫を撃ち落としたのだと理解した。

 後ろを振り返ると、ルシェの髪と眼がうっすらと青白く光っていた。やはり、〈ウィズ〉の力を発動している。


「キティ! 前だ!」


 ルシェが叫んだ。前を向くと、目前まで距離を詰めたフュリアスが巨大な漆黒の拳を振り上げている。


「そんな余裕あんのか! オラア!」


 上からハンマーで叩き潰すかのような軌道で拳が振り下ろされた。とっさにキティは後ろへ飛び退く。フュリアスの拳は地面に叩きつけられ、まるで大砲の直撃があったかのような轟音とともに土が飛び散った。

 間一髪で、鋼鉄の拳をかわすことができた。だがフュリアスと距離が空いた瞬間、再び瓦礫が飛んできた。今度はキティが目視で撃ち落とす。どういうからくりかわからないが、イコライザーが援護射撃のように瓦礫を飛ばしてきているのだと気づいた。そしてその隙に、またフュリアスが詰め殴りかかってくる。

 キティは少しも反撃できなかった。フュリオスとイコライザーの連携は完璧で、拳と瓦礫が間を開けず交互に襲ってくるのだ。

 飛んでくる瓦礫を撃ち落としている内に、装填していた釘が切れた。弾切れに気を取られた瞬間、瓦礫が直撃し、キティは吹っ飛ばされる。

 フュリアスが距離を詰めてきた。いまは尻もちをついた姿勢だ。今度は回避できない──

 その瞬間、フュリアスの動きがぴたりと止まった。

 フュリアス本人も意図していなかったようで、「ああ?」と呟いて怪訝な表情をしていた。


「こっちだ! キティ! 早く!」


 ルシェが敵とは反対側の建物にある通路でキティを呼んだ。キティは即座に起き上がり、ルシェの方へ全力疾走で逃げた。走りながら装填し、振り向いてフュリアスがいる方へ釘を乱射した。


「おっと」


 と言ってフュリアスは腕を盾のように構えて防御した。どうやら動けるようになったらしい。釘はすべて鋼鉄に弾かれてしまった。

 ルシェと共に建物の中へ逃げ込んだ。フュリアスとイコライザーは、なぜか追ってこなかった。吹き抜けのところに残っているようだ。

 通路を走りながらルシェは言った。


「あいつらの刻印装に侵入して一瞬だけ動きを止めた! いまは警戒してあそこに留まったみたいだけど、多分すぐ追ってくる」

「そのまま止め続けてよ!」

「無理だ! あいつらの刻印装には防壁系ルーンが入ってる! 止めた瞬間それが起動して、侵入を弾かれた。時間をかければ完全に制御できると思うけど、今は無理!」


 あの二人組は、見たことのない刻印装を身に着け、ネイルガンの攻撃も〈ウィズ〉の能力も効かない相手だ。しかも話し合いに応じる手合いでもない。現状の手札では、打つ手が思いつかなかった。

 とにかく今は走り続けるしかなかった。ルシェの言う通り、やつらはすぐに追ってくるはずだからだ。

 キティは走りながら釘を装填し、また後ろを振り返った。

 吹き抜けからの光が、まるで周囲の瓦礫に吸い込まれるように遠ざかっていく。

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