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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
2章

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15 酒場の喧嘩

「てめえらコラ──!」「ブッ殺──!」「すんぞオラ──!」「ブッ殺──!」


 ヘイズとスカルズの残党が、多種多様な罵詈雑言を撒き散らしている。

 どうやらリーダーになる人間はもういないようだ。十人以上いるというのに、各々が同時に言いたいことを好き放題喚いていて、誰が何を言っているのかわからない。まるで外国の言葉を聞いているかのようだとマスターは思った。あ、でも右から二番目のやつは「ブッ殺す!」としか言ってない気がする。

 フュリアスとイコライザーは片眉を上げて目を見合わせた。


「こいつらが言っていること、わかるか? イコライザー?」

「『ボスが殺されたからといってビビると思っているのか?』、『俺たち二人組が好き放題できたのは卑怯な手を使っていたからだ』、『人数と武器を揃えてきたから楽勝だ』、そんな内容のことを言っているな。フュリアス」

「わかるのかよ」

「複数人の話を同時に聞くにはコツがある。まずはだな──」


 イコライザーの話を遮るように、残党の内、ボウガンを持っていた者たちが一斉に撃った。

 フュリアスはイコライザーをかばうように前に出て、ゴリラのような両腕を盾にして構えた。矢はすべて刻印装化した両腕に命中したが、一本もその腕には刺さらなかった。その両腕は鋼鉄のような金属製で、矢がはじかれる甲高い音だけがむなしく酒場に響いた。


「相棒が話してる途中で邪魔すんじゃねえよ」


 フュリアスはそう言うとゆっくりと腕を下した。肩が小さく揺れている。どうやら笑っているらしい。まるで玩具を与えられた子供のように、この状況を楽しんでいるといった様子だった。

 すると再び残党が意味不明な罵詈雑言を喚き散らし始めた。本当に何を言っているのかわからない。イコライザーはどうやって聞き取ったのだろうとマスターは不思議がった。


「今度はこちらが話の腰を折るとしよう」


 イコライザーがそう言い、残党に向かって左手を軽く振った。ビンタをするような横向きの軌道だ。

 すると、イコライザーの左側にある木製テーブルが勢いよく残党に向かって飛んで行った。とっさの出来事に残党は反応できず、飛んできたテーブルが直撃した。大音がしてテーブルは砕け散り、数人が吹き飛ばされた。木片と埃が宙に舞い、直撃を避けた残党は慌てふためいている。


「さっきの威勢はどうしたよ!」


 フュリアスはそう叫ぶと、拳を握りしめ、残党に向かって一直線に走り出した。両脇にいた敵を無視して突っ込み、テーブルの直撃から起き上がった一人の目の前で止まった。

 強烈なアッパーカット。圧倒的な鋼鉄の拳を受けた頭部が吹き飛んだ。

 フュリアスはさらに続けて両腕を振り回し、周りの敵に殴りかかった。生身の部分を殴られたものは皆、骨ごと叩き潰され、見るも無残な肉塊と化し絶命したが、中には刻印装で防御して戦い続けるものもいた。


「骨のあるやつがいるな! 張り合いが出てきたぜ!」


 すると、フュリアスの刻印装に変化が現れた。漆黒の両腕から白い煙がぷすぷすと出始め、やがて止まった。次に、その両腕が赤く光り始めた。赤熱する金属のように、強烈な熱を放っている。フュリアスは拳を握るのを止め、指を伸ばし手刀のような形に変えた。

 一閃。横薙ぎに腕を振りぬいた。敵は防御したが、超高熱の一撃により、刻印装ごと身体を断ち切られ絶命した。熱風と肉の焼ける臭いが室内に広がる。そしてわずかに飛び散った血液がフュリアスの腕にかかり、じゅうじゅうと音を立てて、赤熱した腕に吸い込まれるかのように蒸発した。


「まだまだ吸い足りねえって言ってるぜ!」


激昂魔フュリアス〉・ヴォイド──超高熱の刻印装を操る熱血の傭兵。



 残党の内、フュリアスが戦っているのとは別の集団がイコライザーを取り囲んでいた。全員が緊張した面持ちで、じりじりと間を詰め寄る。


「今度は誰も喚かないのか?」


 イコライザーは余裕綽々と煽った。その直後、死角にいる敵の一人が剣を振りかざし襲い掛かった。イコライザーはテーブルが飛んだ時のように、片手を軽く振った。

 ぴたり、と襲い掛かってきた敵の動きが止まった。剣を振り上げた姿勢で静止している。当人は驚愕の表情を浮かべていた。体を動かしたいのに身動き一つできない、そんな様子だ。何が起きたか理解できていないようでもあった。

 またイコライザーが手を振った。今度は別の手だ。

 静止していた敵の手から剣が離れ、反対側の敵の方へ飛んで行った。そのまま剣は敵に刺さり、絶命させた。剣を持っていた方の敵は静止したままだった。


「一人ずつ片づけてもいいが、それだと時間がかかるぞ」


 敵が一斉に襲い掛かった。それを待っていたと言わんばかりに、イコライザーはニヤリと微笑み、翼を広げるように両腕を外側へ振った。

 その瞬間、きらきらとした光の筋がその場に広がった。そして、その領域に入った敵は皆、動きを止めた。いや、動けなくなっていた。イコライザーの腕の動きとともに広がった光の筋も止まっていた。よく見ると、イコライザーの指先──刻印装から光の筋が出ている。

 イコライザーの刻印装から出ているのは、驚異的な強度を誇る極細のワイヤーだった。指先から放たれたワイヤーを操作することで、敵の動きを止め、テーブルや剣を投げ飛ばしていたのだった。

 状況を理解した敵の表情が、恐怖と絶望に染まっていく。イコライザーはその様子をまるで楽しむかのように眺め、敵の感情のボルテージが最高潮に達するのを見計らって、両腕を勢いよく下した。

 肉と骨が断ち切れる鈍い音が響き渡り、イコライザーを取り囲んだ敵は全員その場に崩れ落ちた。その身体はバラバラに切断され、床の上できれいにイコライズされていた。どの部位が誰のものなのか、そもそも人間だったものなのかすらわからない状態だった。


「大人しくなってなによりだ」


均す者イコライザー〉・ホール──ワイヤーの刻印装を操る冷血の傭兵。

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