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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
2章

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11 起床

 キティとレインは昼過ぎに起きて、〈教会〉の工房で食事をしていた。味のしないパンと、出涸らしのお茶だ。レインはこんな食事でどうやってあの筋肉を維持しているのだろう、などとキティは思いながら、もそもそとパンを口にしていた。

 ルシェは作業台に寝かされたまま、まだ目が覚めなかった。レインと今後の方針について話し合ったが、結局のところ、ルシェが起きないとどうしようもないので、起きるまで待っていることにした。黙々と食事をしていると、レインが口を開いた。


「髪が光ったとかいう話、さっき考えたんだが──」


 物音がした。話を中断し、音がした方を見ると、ルシェが上半身を起こし、周りを見回していた。キティとレインに気づき、じっと見つめた。状況を理解したようだ。

 ルシェの髪と目がうっすらと光った。キティが慌てふためく。


「ちょっと! 待て待て──」


 昨日と同じように、制御を奪われた義手が駆動し、がしっとキティの首を絞め始めた。またかよ。声が出せない。話を聞いてもらえそうにない。


「僕がここから出るのを手伝ってもらう。死にたくなければ──」

「おい」


 すっくとレインが立ち上がり、ゆっくりと歩いてルシェに近づいた。ルシェと並ぶとその体格の大きさが際立つ。

 ルシェがレインの方を見た。そして、何かを察したかのように眉をしかめ、ため息をついて観念した表情になった。すると、ルシェから発する光が消え、元の黒髪に戻った。

 ふっと義手の力が抜けた。キティは制御が戻ってきたことを確認し、擦れてひりつく首をさする。

 どうやらレインに助けられたらしい。レインは刻印装化していない生身の人間だ。〈ウィズ〉の能力は影響しない。ましてやあの体つきだ。あんな生ける殺人兵器みたいな身体の女に気圧されたら、誰でも大人しくなる。

 そういえば、グールズの連中も生身だと聞いていた。だからルシェは直接的に抵抗できず、追い詰められていたのだろう。


「私はキティ。こっちはレイン。手荒なことはしないよ。アンタが〈ウィズ〉だってこともわかった。まずは話を聞かせて」


 安心させるべく話しかける。それと同時に、また攻撃を受けたときにどうするかを考えた。

 ルシェはこちらも見たまま、考え込むように黙りこくってしまった。警戒しているのだろうか。まずいな、コミュニケーションが成立しない。どうやってルシェの心を開こうか。

 レインがいきなりルシェの長い黒髪をつまんだ。ルシェはびくっと反応したが、レインのほうを見るだけで何もしなかった。見たところ、怯えて動けないようだ。レインはつまんだ髪を自分の顔に近づけると、すんすんとその匂いを嗅いだ。いったい何を──


「くっせえ!」


 レインが叫んだ。いきなりのことに、キティとルシェは口をあんぐりと開けて唖然とした。


「風呂だ! 風呂! まずは風呂に入れ! 話はそれからだ!」



 工房の隣には風呂場が設営されていた。水は〈ハイブ〉に数か所ある井戸からパイプで引いてくる。お湯を沸かすのは発熱系のルーンだ。浴槽は一人分のスペースしかないが、キティが〈ハイブ〉にいた時にはそんなものはなかったので、これでもかなりの贅沢品である。

 まずはルシェに食事をさせて、その後で風呂に行かせた。着替えはルシェに似合いそうなものをレインが見繕って渡したようだ。曰く、『その辺で拾った服を貯めていた』とのこと。風呂場への出入り口は工房内にしかなく、どこかに逃げてしまうこともないだろうということで、キティとレインは工房で暇をつぶしていた。レインが口を開いた。


「さっきの話なんだけど」

「『さっきの話』の候補が多すぎて、どれかわからな──」


 するとルシェが風呂から戻ってきた。連れてきた時には汚らしい捨て犬のようだったが、今は見違えた姿だ。

 ボサボサだった黒髪はまっすぐ下ろされ、光を受けて艶めいている。食事で栄養補給をして風呂に入ったからだろう、肌の血色も良く、その大きい目も相まって、より子供らしい顔つきに見えた。

 上半身はフリルとレースをあしらった品の良い白のブラウスだ。そこから黒のスカートが広がるように伸びている。スカートの裾は膝よりも上。そこから白い肌の太ももが覗いている。ルシェは痩せているように見えたが、なるほど、脚の肉付きは悪くない。ぱっと見だと流線的でツルっとしているが、その皮膚と脂肪の下にある筋肉の質感もしっかり見て取れる。中性的で健康的な脚。もし触ってみればプニプニ、というよりプリプリ、という感触だろう。足元は黒いレザーの編み上げブーツだ。頭の先から足元まで、モノトーンでまとめられ、上品な感じで仕上がっている。

 ──ん? スカート?

 ルシェが着ているものは女物だった。

 じろり、とキティが怪訝な顔をしてレインのほうを見た。レインは腕組みをして、ニヤニヤしながら「これでいい」と呟いていた。こんな趣味があったのか、とキティは呆れた。


「なんだかこの服、不思議な感じがするんだけど……」


 ルシェが要領を得ない顔をしながら言った。意外と抵抗はないようだ。レインの玩具にされていることを伝えようかと思ったが、彼に不満そうな雰囲気はなかったので止めておいた。

 レインが再びルシェの髪をつまみ、匂いを嗅いだ。ルシェは再び怯えた子犬状態でじっとしている。レインは手を離し、口を開いた。


「やっぱりな。霊石の匂いだ。この子の髪には、霊石が含まれてる」

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