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ジャック・イン・アストラル〜ガラクタと魔術師〜  作者: 羊倉ふと
2章

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11/41

10 休息

「で、ここまで連れてきたと。キティ」

「連れてくるのが目的だったからね。レイン」

「そうか」

「そうだよ……はあ……」

「ふああ……」


 レインが大きな口を開けてあくびをした。

 ルシェが気を失ったあと、キティは彼を保護するため、背中に担いで〈教会〉へと運んだ。キティは決して体格に恵まれているわけではない。痩せた子供とはいえ、ここまで連れて帰るのは重労働だった。ましてや、意識のない人間を運ぶのは想像以上に骨が折れた。

〈教会〉に着いた時にはとっくに朝となっていた。

 寝ていたレインを叩き起こし、中に入れてもらった。戻ってくる道中、キティはずっと新手の襲撃者がいないか警戒し続けていたので、部屋でルシェを下すと緊張が解け、疲労と眠気がどっと押し寄せてきた。

 そんな気も知らずに、レインは目を半開きにして文句を垂れている。


「朝起こされて眠いんだけど」

「私は寝てないからもっと眠い」

「そうか……じゃあ、キティの勝ちだな」

「よくわかんないけど、そうだね……」


 眠気のせいで受け答えが雑になっている。二人ともふらふらしていて、目の下に大きな隈ができていた。そういえばルシェにも隈がある。ここには目の下に隈のある人間しかいない。

 ルシェは工具類の散らばる作業台の上に寝かされていた。まるで悪党のアジトに連れてこられた美少年がこれから良からぬ手術をされる……そんな状況に見えた。が、すぐにキティは妄想を頭から振り払う。眠気のせいで頭がぼんやりして、自分でも何を考えているのかよくわからなくなっていた。

 グールズを倒した顛末を聞いたレインは、ルシェの体を検めた。片眉を上げ、なにやら不思議そうな表情をしている。体のチェックが終わると、腰に手を当ててため息を吐き、キティに視線を移して訊いた。


「刻印装の制御を奪われたって……ホントに〈ウィズ〉って言ってたのか?」

「そうだよ」

「そうだよ、じゃないが」


 レインは片手で自分の首の後ろを指さして言った。


「〈ウィズ〉だったら脊椎や頭蓋骨に刻印装が埋め込まれているはずだ。この子の身体を見てみたけど、そんなものはなかったぞ。手術跡も無しだ。完全な生身」

「〈ウィズ〉って何?」

「知らねえで聞いてたのかよ」

「そうだよ」


 眠い。

 レインはポリポリと頭を掻きながら説明を始めた。


「いいか、元々は『魔法』って言われていた技術が、ルーンの開発でみんなが使えるようになっただろ? で、やがて戦いの場でもルーンが使われた。最初の頃はどっちのルーンの方がよりデカい炎を出して相手を倒せるか、みたいな戦いだった。

 そのうち『ルーン自体を攻撃すれば良くね?』って言うやつが現れた。天才だね。戦いの前提条件そのものを変えちまおうって話。相手のルーンのコントロールを奪うルーンを開発したんだ。『奪取系』だな。

 でも、問題があった。意外と役に立たなかったんだな、これが。相手のルーンよりも先にその奪取系を使わなきゃいけなかったんだから。要は結局のところ『どっちの方が先に杖を振れるかバトル』にしかならなかった。開発自体は二十年くらい前にされていたみたいだけど、全然活躍しなかったらしい。

 おい、寝るな。

 そんなわけで大天才様が作った奪取系ルーンはずっと埃を被ってたわけだけど、十年前の戦争で貴族連中が目を付けた。『これ刻印装と組み合わせればいけるんじゃね?』って。

 いやー、技術革新ってこうして生まれるんだなー。連中は脳や神経の一部を刻印装化して奪取系をブチ込む技術を編み出した。で、ルーンを使うスピードとタイミングの問題は解決した。思考と直接連動させれば、杖を振るより早く使えるからな。より直感的に相手のルーンを探知して攻撃できるようにしたんだ。

 脳を刻印装化してルーンを支配する者、それが〈魔術師ウィズ〉だ。

 まだまだ続くぞ。

 貴族の勝利には〈ウィズ〉の導入がやっぱデカいのよ。だって国王軍が持ってるルーンが全然使えなくなっちまうんだもん。戦争末期には国王軍も骨董品の奪取系ルーンを引っ張ってきたみたいなんだけど、その時の貴族はカウンターになる『防壁系』なんてルーンも開発しててさ、手も足も出ない。で、今に至ると。

 ちなみに、最近の刻印装が複雑化しているのも奪取系への対策だな。ルーンの構造がゴチャゴチャしてた方が、分析に時間がかかってコントロールし辛いからな」


 キティは眠い目をこすりながらレインの話を聞いていた。いくらなんでも話が長すぎるだろ。シティ出身のインテリは、みんなこんな風に長い話をするのが好きなのだろうか? とりあえず、話の要点になりそうな部分だけ確認することにした。


「レイン教授。質問があります」

「ほう、何だね。キティ君」


 お、乗ってくれた。


「要するに〈ウィズ〉ってのは、相手のルーンを操れる人ってことでしょうか?」

「うむ。そういうことだな」

「でもそのためには刻印装化と奪取系ルーンが必要?」

「その通り」

「じゃあなんで刻印装化していない生身のルシェは私の義手を操れたの?」


 レインは肩をすくめて、両手を頭の横まで上げて見せた。さっぱりわかりません、のポーズだ。

 続けてキティは質問した。


「なんか眼と髪が光ってたんだけど、それと関係が?」


 レインは微動だにしない。お手上げらしい。しかし今度は、目線を斜め上に向け、何か考えるようなそぶりをした。そして、また目線を戻してから答えた。


「そもそも人間の眼と髪は光らん」


 考えても埒が明かない、というか眠すぎてもう何も考えられないので、キティは「寝る」とだけ言って、休むことにした。部屋の隅に行き、ぼろ切れにくるまって横になった。レインも二度寝するようだ。今日の講義はこれにて終了。

 気絶中のルシェにもぼろ切れをかけておき、あとはそのままにしておいた。

あの時、自分を完全に敵対視していたのなら、とうに殺されていたはずだ。起きても勝手に出ていくなんてことはないだろう。話をする意思はあるに違いない。

 今思っていることが、こうあって欲しいという希望的観測ではないと信じて、キティは眠りについた。

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