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13話 ひとりぼっちの王女様

とある時代の、フラべリアという国に、一人の美しい王女様がおりました。

王女様の周りには求婚しにきた男性や、王女様に憧れる女性などでいつも人がいっぱいでしたが、王女様はいつも「一人ぼっちで寂しい」と思っていました。


王女様にはかつて、自分を心から愛してくれる慈悲深い母がいましたが、ある日突然病気で亡くなってしまいました。


かつて、沢山遊んだお友達の王子様がいましたが、彼は王女様を遠ざけるようになりました。


かつて、兄弟代わりともいえる王子様たちやそのお付きがいましたが、年をとるごとに離れて行ってしまいました。


かつて、自分のことを第一に考えてくれる大好きなお付きや召使いがいましたが、その人たちもどんどん彼女の元を去って行きました。


「私の大事な人たちは、いずれ私を置いて何処かへ行ってしまう。残ったのは、私の地位にしか興味のない人たちだけ。」


王女様は虚しさや寂しさを抱えながら、いつか現れる「本当に自分を愛してくれる人」を、今日も待っているのです。



★ ★ ★ ★


「おおー……!ここがウィザーアカデミーの寮かあ……!」


私は目を輝かせながら言う。

遠くから見えるウィザーアカデミーは古い城のような出で立ちだったが、寮は比較的新しい印象を受けた。


(よかった、ボロボロの寮だったらどうしようかと……)


「マキ君、君は組分けがまだだったよな。」


リカルドが私を見ながら尋ねる。


「うん!……エリもじゃないの?」


エリを見て言うと、彼女はバツが悪そうに俯いてしまう。


「ルハート君の寮はもう決まっている、組分けはあちらの棟で行われているから行ってくると良い。」


それだけ言うと、リカルドはエリとどこかへ去ってしまった。


(なんだよ……折角会えたのにそんなに話せなかったなあ。お姉ちゃんのこと聞いても答えてくれなかったし。)


少し勿体なく思いながらも、私はリカルドが指し示した建物に向かって歩きだす。

……すると、曲がり角に差し掛かったところで誰かとぶつかってしまった。


「うわ……!ちょっと!こんな人の多いとこで走らないで……よ……」


言いかけた所で、私は思わず言葉を失う。

曲がり角から現れた少女は、星のような金髪にスミレのような紫色の瞳をした、まるで天使のような美少女だった。


(エリとは別系統の超絶美人……!)


「ご、ごめんなさい!少し急いでいて……!」


少女は言いながら頭を下げる。


「あ、いや……こっちこそごめん、怒鳴ったりして……あなた、1年生?」


尋ねると、少女は信じられないものを見るような目で私を見た。


「はいまあ……そうですけど。」


「組分けってもうやった?私今から組分けしにいくから一緒に行かない?」


私の提案に、少女はしり込みする。


「いえその……無駄ですよ、そんな風に距離を縮めようったって……」


「はあ?何の話?」


もしかして、この少女は有名人か何かなのだろうか?


考えていると、ゆっくりこちらに歩いてくる靴音が響く。

少女は怯えた様子で小さく「ひっ」と悲鳴を上げると私の後ろに隠れてしまった。


異様に思っていると、曲がり角からまるで人形のような端正な顔立ちにオレンジがかったブロンド、エメラルドのような深い緑色の目をした少年がゆっくりこちらに歩いてきているのが見えた。


「ああ、ここにいたのですね……ずっとお会いしたかったんです。」


少年はこちらを見ながら美しい笑みを浮かべる。

私に言ってる……わけないか。

少年は私のことなど見えていないようで、後ろにいる美少女のことをじっと見ていた。


一見、お似合いの2人のようにも思えるが、私の背にしがみ付く少女の手は震えている。


(何をしたらこんな女子に怯えられるのか……)


呆れていると、少年はこちらに跪き

「『クレア殿下』……私と結婚して下さい。」

と口にした。


「えっ」


殿下……!?ということは、この女の子は王族なのか?


私は冷や汗を額に浮かべながら背中にいる少女を見やる。

クレア殿下と呼ばれた少女は、びくりと体を震わせていた。


「どうか、今日こそはお返事を……」


クレアの様子も私の様子も一切気にせずに続ける少年に少し腹を立てると、ゆっくりと口を開いた。


「あのね、彼女嫌がってるように見えるんですけど。それと勝手に私を挟んでプロポーズするのやめて。」


怪訝に言うと、少年はやっと私のことを認識したように驚いた顔で私の顔を見る。


「……驚いた、この私に意見する阿呆がいるとは。」


少年は立ち上がりながらこちらに悪態を吐く。


「どの私か知らないけど、周りが見えないから嫌われてんじゃないの、あんた。」


「嫌われてなどいない。私を嫌う人間などこの世にいないのだから。」


肩にかからないくらいのボブヘアーをかき上げふわりと揺らしながら、少年は得意げに言い放つ。


(ああ……クレア殿下の気持ちよくわかるや。私もこいつのこと既に嫌いだもん。)


「悪いんだけどさ、この子私と組分けしにいくから、今はお話しできないの。……ほら、行くよ。」


私は言いながらクレアの手を引く。

彼女は戸惑いながらも私についてきた。


「愚民め……その顔、覚えたからな。」


去り際、少年はそう言い捨ててどこかに去っていった。


……


「あ、あの……どなたか存じ上げませんが、ありがとうございました!」


「いいよ。私、小田真希っていうの、マキって呼んで!」


「マキ……さん。その、私と一緒に行動してよろしいのですか?目立つでしょうに……」


クレアはおどおどしながら言う。


「え……?ああ。」


確かに、周りの生徒がやけにこちらを見ているような気がする。

そう言えばクレアって、どこの国の王族なのだろう……?


「ねえ、あなたさっき『殿下』って呼ばれてたけど どこの王族なの?」


尋ねると、クレアは大きく目を見開いた後で

「……私は……『クレア・ギムレッド』……フラべリア国の王女です。」

と小さな声で答えた。


……フラべリア……


(この国じゃん!?)


確かこの学校は……フラべリアの王女が婿探しする為に再開した筈。


なんだか、偶然にもとんでもないお人に遭遇してしまったような気がする。

私は引き攣った笑みで「そう……なんだねー……」と返したのだった。

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