霊泉 ーれいせんー
連日、老人を騙す詐欺のニュースが報道されています。
こんなことをしている人物にはいつか天罰が下されるといいのに、という思いがします。
今日もカモがいっぱい来ている。全く欲の深いジジババ達め。おかげで今月のノルマも難なくこなせそうだな。
うちはいわゆる詐欺商法で荒稼ぎをするブラックな会社だ。
日用品などを市価の半額くらいで買えるとの広告や口コミで老人を集め、オークションのように安い金額で次々に商品を売っていき感覚を麻痺させて、最終的に何のこともない水を高額で売り付ける。買わなければ損だ、という感覚になった老人は面白いように引っかかり、高額な水を大量に購入していく。
それも、
「この水、何と水素の含有量が酸素の2倍! 」
(そりゃそうだ H2Oだもんな)
とか、
「高山で採水しているため大きな位置エネルギーを持っている! 」
(位置エネルギーは重力による落下にかかる潜在エネルギーだから、水自体に何かのエネルギーがある訳じゃないのにな)
というような説明だけでコロっと騙されてくれる。特に独居老人とかは普段の寂しさからか、少し親身なふりをして話を聞いてやるだけで高額契約も簡単に結んでくれる。
家に大量のペットボトルが配達されて、騙されていることに気が付いた親族達が解約の連絡を取ろうとしても、既に料金は支払われた後で、電話も繋がらなくなっているといった寸法だ。
その頃には既に新しい街に拠点を移して次のカモを捕まえている、といったことを繰り返している。
高額であろうと商品はきちんと届けられているために警察に行っても詐欺を立証することは難しいだろう。
老人を騙すことに心が痛まないわけではないが、ノルマを達成した時の報酬が高額であるため、他の社員達もノルマ達成のことだけを考えて、見て見ぬふりをして騙し続けている。
実はこの水は俺が商品開発をしたものだ。
それまでは詐欺商品に"羽毛布団"を使っていたのだが、粗悪な商品ではあったがそれなりの仕入れ値がかかるため、社の幹部はもっと儲け幅の大きい商品を探していた。
そんな時、会場に来ていたカモ老人の一人と話していて、自分の持っている山に霊泉と呼ばれる湧き水があり、非常に美味しい水が汲めるのだと自慢げに話してくれた。
ここで、幹部が話していた新商品のことに思い当たり、水ならばいくらでも湧き出てくるものだから元手もあまりかからず、儲け幅も大きい商品になるのではないか、と思い至った。
幹部にそのことを話すと乗り気になり、幹部会で検討して、採用することが決定された。
アイデアを出した俺は商品開発の責任者に抜擢され、山を持っている老人から口八丁でただ同然の価格で山を買い取った。
その後、採水専門の別会社を立ち上げて、27歳という最年少の若さでその会社での兼任役員に抜擢され、採水責任者を任されることとなった。
別会社での役員報酬も受け取れることとなった俺は沢山売るほど別会社の売り上げが上がるため、益々詐欺商売に力を入れているといった具合だ。
ただ、少し気になっているのが、山を買い取る時に老人が言っていた
「霊泉の水は他の人に分け与えてはいけない。自分の命を分け与えるのと同じことだからな」
という言葉だが、たかが湧き水、老人の戯言に耳を貸すつもりは全くなかった。
湧き水は確かに味わいは非常に良かった。山の名前に因んで
"青木高山の霊泉水"
と名付けられた水は詐欺会場での試飲でも老人達にうまい、うまいと非常に好評で、中には飲んだだけで疲れが取れるような気がする、などと言い出すものまで現れた。
詐欺商品とはいえ評判が良いことは好都合で、益々高額契約は進んでいき、俺は多額の報酬と共に罪悪感はどんどんと薄れていった。
ある朝、目覚めると倦怠感と共に体の節々が痛い気がする。目も少し霞んで見える。このところずっと忙しく働いていたから疲れが出たのだろうか?
とにかく今日も沢山の老人達が会場へ訪れる。じゃんじゃんと水を売らないといけない。へたばっている場合ではないのだ。
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当モーニングワイドでは警察に情報提供をしながら、老人達に高額な水を売り付ける詐欺まがいの商法を繰り返している会社の実態究明を続けて参りましたが、いよいよ商品の水を供給している関連会社に警察の捜査のメスが入れられることとなりました。
警察では採水責任者として登録されている人物に詳しい事情を聞いておりますが、この老人は年齢を27歳であるというような謎の言動を繰り返しており、全容解明にはまだまだ時間がかかりそうです。
お読みいただけまして、ありがとうございます。
ちょっとホラーになっていたかな?という思いもありますが、いかがでしたでしょうか?
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