悪癖
10年後、記憶の底でへばりついたこの瞬間を、何かのきっかけで意識の海面に浮かんでくるのだろうか。
降りしきる雪の中、街路灯の眩しさを感じながら私は橋の上で1人突っ立ていた。
私は今年で20歳になった。
ダッフルコートに雪が積もる、少しずつ少しずつ体温が世界に溶け込んでいく感触を曖昧な思考はシカトする。
ただただ、頭の中で呪いとも言うべき自戒が橋下の川を意識させた。
私は10年前にある約束をした。
あれは真夜中だった、きっと丑三つ時だったろうか。
薄い長袖でこの橋の真ん中まで来た、自然と体の震えはなかったのを覚えている。
柵に手を伸ばし、まだ幼い体を自力で持ち上げる。
上半身は柵の上を超えて永遠と続くような夜の闇を見下ろした。
私は死のうとしていた。
理由は膏薬のようにどうとでもつけれた。
きっと考えるのも容易い。
しかし、問題はここからだ。
重大な結論を先送りにする、私の悪癖がタイムリミットを決めた。
“10年後、20歳になった時、死ぬか生きるか決めよう”
些細なことを、ここまで大袈裟に誇張するとは自惚れを通り越して可愛く見える程だ。
だが、そんな自惚れは頭の奥底で到底看過できない私の一部になった。
10歳の記憶など、ほとんど忘れたはずなのに。
決めようか
10歳の私が言ったのだろうか、自然とその思考になった。
死ぬ理由と生きる理由を惰性的に挙げていく。
足跡をつけ、雪に打たれながら、この橋の真ん中に来た時には死ぬ理由の数に軍配が上がっていた。
手すりを覆った雪を払う、刹那の時間が過ぎ、水面下の小さな気泡が音に変わって私の耳に届く。
寒いだろうな、すごく。
死ぬのが億劫になった。
たったそれだけで死にたくない理由が出来てしまった。
俗世の無価値な苦しみも
不条理をしたり顔で教えてくる世の中様も
暗澹たる先の我が身も
枯れゆく感性が染めていくこの世界も
無気力に支配された愚かな私も
この億劫には敵わない。
舐めた自殺志願者だと、私もそう思う。
たがら、期待しよう、10年後。
無尽蔵の精力を身につけて、こんな億劫など目の端にすら映らなくなった時、私がどうするかを。
こんな些細な決断の行く末を、期待しよう。




