SF作家のアキバ事件簿232 ミユリのブログ 光のアンバランス
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第232話「ミユリのブログ 光のアンバランス」。さて、今回はヒロイン達以前に時空を旅した"トラベラー"の存在が明らかになります。
未だ萌え始めたミレニアムな頃の秋葉原を舞台に"トラベラー"の痕跡を追うヒロイン達。チームワークの乱れから仲間が生死の境を彷徨いますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 落ちたヒエログリフ
ミユリさんのブログ。
"アキバには来たけど、何をやってもダメ。確かにそんな日もあった。でも、今日みたいに全てが光り輝く日もある。朝起きてから、夜眠るまで、アキバ中の地下アイドルが私のために歌ってくれてるような気分。こんな日は何をしたって楽しいわ…"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
世界中からインバウンドが推し寄せ僕がヲーナーの"メカゴジラ-2.5カフェ"は連日満員。大儲け?笑
ところが、メイド達は…
「今日って最低!ベーコンがカリカリじゃないって怒られちゃった。文句ばっかり言うインバウンドは大嫌い…あら、姉様。姉様のチャーミング王子とNazisが来たわょ」
皮肉たっぷりにボヤくスピア。ウレしそうに振り向くミユリさん。僕と視線が合って、微笑を交わす。
「テリィたん。どーしてもココでなきゃダメ?2丁目に巨乳限定のスッチーカフェが出来たけど」
「ダメだ、マリレ。新発売の"women in blackパイ"を食べなきゃ。ヲーナーとしての試食さ」
「勝手にすれば?」
一方、ギャレーの中でミユリさんとスピア。
「ミユリ姉様、何を作ってるの?」
「ミルクコークょ。テリィ様がお好きなの。スピアもマリレに何か作ってあげれば?」
「ヒ素入りコークにしようかしら」
物騒な会話が聞こえてくる。一方、僕達。
「テリィたん。やっぱり巨乳カフェにしょ?パイならヨソでも食べられるし」
「マリレもスピアに会いたかったんじゃないのか?」
「別れたの」
イキナリ爆弾発言だ。
「何だって?何で黙ってた?」
「え。だって…別れたって言っても、そもそも最初から付き合ってたワケじゃナイし」
「おいおい。スピアが来るぞ」
ミユリさんとスピアがお給仕に来る。
「テリィ様、ミルクコークです。コレ、御屋敷のヲゴリです(ヲーナーは僕ですがw)」
「マリレ、¥1000ね。握手もチェキ特典もナシ」
「テリィたん!コレで良くわかったでしょ!」
勢い良く立ち上がるマリレ。弾みで僕のミルクコークをひっくり返す。あぁマジで飲みたかったのに!
「待って!テリィたん、何ょコレ?」
僕のPC画像を見てマリレが騒ぐ。ラテン語と超古代エジプト系ヒエログリフの描き殴りのメモだが。
「ヤメろ、マリレ」
「コレ、見覚えがアルわ…でも、何処でだか、どーしても想い出せナイ…ナゼかしら」
「マリレ。ココじゃマズい」
1945年、陥落寸前のベルリンからタイムマシンで脱出して来た"最後の大隊"の生残りは僕を睨む。
「テリィたん。何を隠してるの?スーパーヒロインとヲタクの間に秘密はナシょ」
第2章 乙女ニウムは裏切らない
カウンター席でワラ人形にナイフを刺すスピア。彼女はメイド服。隣に座るリルラはミニスカポリス。
2人共本職ではアルが。
「その人形…テリィたんの今カノのミユリさん?ミユリさんなら、私も一刺し…」
「あら、リルラ。ここ数日、顔を見なかったけど何かあったの?」
「貴女達の秘密を知ってから、頭クラクラで爆発しそうだったわ。図書館で色々調べ物とかして、考えをまとめてたの」
夏休みの自由研究みたいだなw
「それで…何か結論は出たの?」
「YES。2つ仮説を立てたわ。1つは、やっぱり貴女達は大陸の中華な国が秋葉原に仕掛けた新アヘン戦争の先兵で、麻薬カルトに洗脳されたジャンキーなの」
「ヒドい」
噴き出すスピア。
「で、もう1つは、私はメチャクチャ長い悪夢を見てる。その中で私は首都高ポリスを懲戒免職になって…」
「え。リルラ、プーになったの?」
「スピア。貴女だって元カレをスーパーヒロインに寝取られたンでしょ?」
顔をシカめるスピア。だが、直ぐ気を取り直し気さくに微笑む。あぁ何で別れちゃったのかな彼女と。
「私、見たのょ。ミユリ姉様が音波兵器で撃たれた時にボディから弾痕(弾痕ょ男根じゃナイけど誤解してないかしら)を一瞬で消し去ったの。普通なら死んでた。ホラ、スーパーヒロインって、音波銃で殺せルンでしょ?」
「え。そーなの?知らなかった。あの銃口がラッパ型に開いてる奴?てっきり、流行りのスチームパンクかと思ってた…とにかく!直接話してみた方が良さそうね」
「うん。直接話すのが1番ょ」
話が弾む。ところが、スピアから意外な一言。
「エアリと」
「エアリと?マリレとは…マジ別れるつもり?」
「あのね、リルラ。貴女もいつかスーパーヒロインと百合に走るカモしれないから、1つ忠告しておくわ。OK?彼女達と深入りしちゃダメよ。私とマリレを見てよ。最初はメッチャ情熱的で…もぉシビれちゃったンだけど、直ぐに醒めて別れたわ。彼女達は、心の底は冷たい種族なの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心の底が冷たい3人と御屋敷でミーティングだ。心は冷たいカモしれないがメイド服着てるから許ス←
「あのヒエログリフは、神田リバードックを訪ねた時に公園のトンネル遊具の壁に描かれていたモノだ。いつ誰が描いたモノかは知らないが、今でもアルと思う」
ミユリさんとエアリとマリレは、一斉に僕のPCを覗き込む。居心地の悪い沈黙が続いた後でマリレ。
「テリィたん。私達3人とも、この象形文字には見覚えがアルの。トンネル公園の地下ラボで拾ったペンダントと同じょ。今の私達には読めないけど、きっとコレは私達が生まれた時空の文字ナンだわ」
「マリレ、少し黙って。あのね、テリィたん。私が知りたいのは、テリィたんが何で今まで私達に隠してたのかってコトょ」
「エアリ。ソレからマリレもテリィ様を責めるスタンスは私が許しません。アキバの地下で何者かがスーパーヒロイン狩りを行なっているの。テリィ様は私達の身を案じてくださってるのょ」
ミユリさん、良いコト逝うなー。
「アキバの地下で"覚醒"した腐女子を狩る組織は、アキバ特別区大統領直属の組織で南秋葉原条約機構という名称らしい。メイド協会のトポラは、SATOのエージェントで僕達のコトを嗅ぎ回ってた。そんな中でマリレに話すとまた…」
「テリィたん、ハッキリ言えば?私に話せば、また私がバカをマネをスルと思ったンでしょ?」
「そんなコト、決して申しておりませぬ」
歌舞伎調で応えるが、ソッポを向くマリレ。
「同じコトょ」
「マリレ。テリィ様にも理由がおアリなの」
「でも、姉様には全て話したんでしょ?」
僕は天を仰ぐ。
「ミユリさんは、あの時一緒にいたんだ…あのさ。コレが嫌だったのさ。マリレは、直ぐ物事を都合良く解釈して勝手に突っ走る。せめて、ミユリさんには相談しろょ。スーパーヒロイン同士だろ?」
「だからって私達に隠して良いコトにならないわ。テリィたんは、私達スーパーヒロインを集めて何かスル気ナンでしょ…あら?ミユリ姉様、この後お出掛けなの?」
イソイソ立ち上がるミユリさん。
「え。ちょっち出掛けてくるわ」
「あら、テリィたんと?デートなの?」
「違う。ちょっち"新秋楼"に中華を食べに逝くだけだ。デートなんかじゃない。御屋敷の新メニューのリサーチだ」
ミユリさんがウレしそうに何ゴトか語り出す前に先制パンチをカマす。だが、マリレには効果がナイw
「じゃ何で姉様はお出掛け用のメイド服なの?」
「とにかく!出掛けて来るわ。後でまたみんなで話し合って、必要なら一緒に神田リバードックに会いに逝きましょう。だから、お願いだからソレまで待ってて」
「わかったわ」
渋々うなずくマリレ。出掛ける僕達を見送ってからエアリと2人同時に長い溜め息をつく。やれやれ。
「テリィたんは、きっと他にも何か隠してる。でも、ミユリ姉様にだけは、いつも全て話してルンだわ」
「そーゆー貴女も私達にはナイショでスピアに何か話してルンじゃないの?ピロートークで」
「話してません。私は1人で生きていく心構えが出来てるの。他人の言うコトに惑わされズ、1人で行動スル。今日から私を"女砂布巾(女スナフキン)"と呼んで」
女スナフキン?
「マリレ、どーゆーコト?砂布巾って誰?」
「私。孤独を愛するトラベラーょ。私はスナフキンみたいにクール。ミユリ姉様がなんと言おうと1人でも秘密を探ってみるわ」
「1人で乙女ロードへ行くつもり?テリィたんはともかく、姉様とみんなで行くって約束したでしょ?」
僕はともかくって何なんだ?だが、気にもかけずに出掛けるマリレ。振り向きザマにエアリに告げる。
「私、必ず何かつかんでくる!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
首都高池袋線の東池袋出口を出たトコロにあるガソスタ。夕闇の中にロッキングチェアが揺れている。
老婆?寝ているのか?
「神田リバードックに会わせて」
詰め寄るマリレ。無反応。傍らの犬が顔を上げる。
「ねぇ…神田リバードックはどこ?」
「秋葉原のメイドさん。その老婆には聞こえてる。ただ、貴女を無視してるだけ。秘密の合言葉を…エリィ」
「マイラブ」
「ソースイート」
そう答え自分で驚いてる。因みに彼女もメイド服。
「まさか!この秘密の合言葉を知っているとは…私の名前はエリィ。貴女は?」
「あのね。神田リバードックは何処なの?」
「彼女ならあのテントの中ょ。今、儀式の最中で、何人も招かれざる者は、あのテントを訪れるコトは許されない」
手慣れた仕草で薄い冊子に万冊を挟むと、素知らぬ顔して差し出すマリレ。万国共通のマスターキーw
「…え。何?買収スル気?…わあああっ!コレは"メトロ戦隊地下レンジャー"の来週の脚本じゃないの!え!次回で地下ピンクが妊娠スルの?マジ?誰が父親かしら。レッド?ブルー?…ってか、そもそも貴女は何者なの?TV局の人?」
「秋葉原のメイドょ。でも"地下レンジャー"作者の国民的SF作家テリィたんが、私を熱烈に推してるの。何なら来週の"地下レンジャー"にチョイ役で出してあげようか?しかも、セリフ付きでね。"彼"に本を描き直してと私がゴロニャンでヲネダリすれば簡単ょ。で、私は神田リバードッグに会えるの?」
「待ってて!」
次回台本は、自分のバックパックに大事に仕舞って抜いた万札は無造作に掴みテントに消えるエリィ。
秒で出て来る。手にした千円札をマリレに返す。
「はい、お釣り。あのね、キツイわょ。魂を清める過酷な儀式なの。大丈夫?」
「がんばるわ。神田リバーと話せるのなら」
「…ねぇ次回の"地下レンジャー"の件だけど、まさか女戦闘員とかじゃ嫌ょ。出来れば悪の女幹部…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のBOXシート。エアリと向き合うリルラ。
「人間のカラダって、宇宙でも最高に複雑なマシンだと思うワケ。貴女達がいくら進歩した時空からやって来たと言っても、どうやって変身したの?…変身じゃなくて、転身?蒸着?覚醒かしら」
「あのね。いったい貴女の中で私は何者なワケ?」
「…わかったわ。じゃ貴女達は自由に変身出来るとして、何ではるばる…気に障ったらゴメンナサイ、この時空の秋葉原に来たの?目的は何?どんな目的で送られて来たの?」
イライラと突っついてたアップルパイにグサリとフォークを刺し、珍しくイキナリ大声を出すエアリ。
「詮索好きの腐女子を殺すためよ!」
「ごめんなさい。怒った?」
「…私達にもワカラナイのよ。スーパーヒロインに"覚醒"した時は、既に腐女子の姿をしていたの。同じなのは外見だけじゃない。痛みだって感じるし、感情だってアルわ。自分のコトで色々知りたいのは私の方ょ」
溜め息をつくマリレ。ストローでチュルチュルとジュースを飲みながら大人しくお話し拝聴のリルラ。
「自分は、ソコらにいる普通の腐女子とは違うって思ったコトは無いの?」
「そーゆーリルラは、自分のリアルを知ってもらおうとしても、誰にもわかってもらえないと思うコトはないワケ?」
「いいえ。時々思うわ」
溜め息をつくエアリ。あ。ところで、エアリはメイド服、リルラはミニスカポリスだ。アキバ的風景。
「ソレが私達の日常なの。普通の腐女子と大して変わらないのに…せいぜい物体の分子構造を変えるコトが出来るくらいで」
「え。何?ゲホッガハッゴホッ」
「見てて」
誤嚥してムセるリルラを横目に、テーブルに置かれてたケチャップの瓶に手をかざすエアリ。そして…
「何?何をスルの?」
店内をキョロキョロ見回してからケチャップ瓶の首を掴む…沸騰して黄色いマスタードに色が変わる。
呆然とするリルラ。エアリは上から目線で微笑む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバードッグのテントの幕を開けて、先ずエリィが、続いてマリレが、腰をかがめて入って来る。
テントの中では、上半身裸の女達が車座になって、サウナバスみたいな炎の上がる焚き火を取り囲む。
「なにゃどやら、なにゃどやら…」
万博のコモンズで見かけたアフリカンな打楽器を手にした半裸の女子達が車座になって何か歌ってる。
全員巨乳だ。みんな垂れてるが…
奥に座っている神田リバードッグがソコに座れという仕草。上半身裸になり胡座をかいて座るマリレ。
黒ブラ。
「あの人が神田リバードッグ?」
「YES。貴女のコトはちゃんと気づいてるわ。みんなと同じ文句を唱えて」
「え?…なにゃどやら、なにゃどやら」
マリレの着席を認め中央の焔に油を投げる神田リバードッグ。焔が上がり、煙が立ち込め熱波が襲う。
「え。何コレ?飲むの?」
液体の入った椀が回って来る。グッと飲んで次に回す巨乳達。冷ややかに見つめる神田リバードッグ。
「水?味がしないわ」
神田リバードッグが油を投げる。スゴい油煙。目を開けていられない。息が荒くなり咳き込むマリレ。
容赦なく油を投げ込むリバードッグ。焔が上がり、火の粉が飛び交い、煙が舞ってマリレは咳き込む。
「ダメ!もぉムリ!」
テントの外に飛び出すマリレ。エリィも出て来て汗を拭って水の椀を差し出す。ゴクゴク飲むマリレ。
「だ・か・ら。過酷だと言ったでしょ?」
「今のは…何なの?」
「だから、儀式ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。御屋敷のBOXシート。
「…だから、このヒエログリフが唯一の手がかりってワケ。私達の…」
「時空の?」
「YES」
うなずくリルラ。ミニスカポリスを見て微笑むエアリ。微かに恥じらいを浮かべ、おちょぼ口で逝う。
「ねぇ。そんな目で私を見るのはヤメてょ」
「あら。私、貴女を見てるかしら」
「まるで私が何かに変身スルのを待ってるみたい」
笑い出すリルラ。
「ゴメンナサイ。別にそんなつもりじゃなかったんだけど。そのヒエログリフ、良く見せて」
「ダメ。もぉこの話はお終いょ」
「え。見せてょ」
リルラからヒエログリフを取り上げて、壁にモタレかかるエアリ。彼女は妖精だ。その背中には羽根があるが、今はメイド服の下に折りたたまれている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
プールバー。
といってもYUI店長の気紛れでマチガイダ・サンドウィッチズに1台ビリヤード台が置かれただけだ。
「ミユリさん、スゴいな」
僕も初めて知ったが、ミユリさんは恐ろしくビリヤードが上手い。突く玉、突く玉、ポケットに沈む。
「あぁん…また入っちゃったわ。さ、テリィ様の番ですょ良く狙って」
外す。僕が突いた玉はポケットに嫌われる。
「惜しい!左手をしっかり固定させて…ね?こうすればブレませんから」
2人でコーナーを狙う。ミユリさんの顔が近い。
「大丈夫。だんだん上手くなってます…あら。お顔にチョークがついてるわ。ココです」
笑いながら顔についたチョークを拭いてくれる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「私、フォーチュンクッキーって大好き。見て。なになに?今宵は人生でも最高の夜になるでしょう?」
「ミユリさん、マジでそう描いてアルの?」
「いいえ。時計の針も日に2度は合うですって」
マチガイダのrétroな御神籤付き灰皿で遊ぶ。
「ミユリさん。幸運を勝手に作ったね」
「はい。テリィ様の御神籤はどうですか?」
「TOらしく推しをダンスに誘いなさい、だってさ」
すると、ミユリさんはイタズラッ子を叱るママの顔になってメッと僕をニラむ。母性本能の総攻撃だw
「マジでそう描いてアルの?」
「いいや。で、メイド長。ご返事は?」
「もちろんYESです」
差し出された右手にキスしてダンスフロアに躍り出る。いきなりカラダをくっつけて来るミユリさん。
「スピアは出かけました。秋葉原ヒルズのテッペンにある天文台から宵の明星を眺めルンですって」
「僕のビーナスならココにいるけど」
「愛の天罰、落とさせていただきます!」
セーラーVの決めセリフ?想い出のコスプレだね。微笑みを交わす僕達。ダンスフロアで揺れる2人…
「タイヘン!マリレが死にかけてる!」
スピアが血相変えて飛び込んで来る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「姉様にテリィたん、お邪魔虫でゴメン!でも、直ぐに戻って!マリレが死にかけてる!」
スピアに続いて御屋敷のバックヤードに駆け込むとエアリの膝枕に頭を載せたマリレが肩で息してる。
「ミユリ姉様!どうしよう?マリレ、スゴく具合が悪そうで…」
「マリレ、どーしたの?」
「…姉様。ごめんなさい」
マリレは高熱でウナされてる。因みに本シーンで女子は全員メイド服。何しろココはアキバだからね。
「少しお水を飲むと良いわ」
「ありがとう、姉様…落ち着いたわ。もう大丈夫だから」
「マリレ、何か食べたら?体力つけた方が良いカモ。ハーブとか」
微笑みを浮かべ拒絶するマリレ。
「no thank you。どっちも要らないわ。もう大丈夫だから、ほっといて」
「何を言ってるの!さっきまで、貴女はスゴい熱だったのよ」
「でも、治った。もう家に帰るわ」
不用意に立ち上がるマリレ。ヨロめくとペタンと尻餅。見かねて手を差し出して優しい僕をアピール。
「送るょ」
「no thank you。それより、姉様とのデートを邪魔してゴメンね、テリィたん」
「(全くだw)no problem」
結局マリレは帰り、みんなも三々五々立ち上がる。ミユリさんと目で会話してたらエアリが割り込む。
「テリィたん。行くわょ」
「え。ジンジャーエール、飲みたいな」
「良いから!」
エアリに耳を摘まれて、ミユリさんとスピアを残し御屋敷からお出掛けスル僕。何なんだ、いったい?
「スピア。私も今宵は寝るわ。戸締りお願い」
御屋敷の2階はベランダ付きのメイド長のオフィスだ。階段を登るミユリさんをスピアが呼び止める。
「ちょっと待ったー!何か私に話すコトがあるンじゃないの?ミユリ姉様」
振り向くミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マチガイダ・サンドウィッチズで、アメリカンアイスとニューヨークチーズケーキで女子会が始まる。
「別に何もなかったわ」
スプーンについたアイスをペロリと舐めるミユリさん。スピアは、チーズケーキをパクパク片付け中。
「実は…マァこの前、テリィ様とはキスを…」
「ほーらほら。ソレで?」
「うーん。でも、その話はヤメとくわ」
スプーン1杯のアイスを頬張るミユリさん。
「冗談でしょ?こんな話、私以外に誰と出来るの?他のヲタクとはモチロン、スーパーヒロインとだってムリょ。だって、スーパーヒロインとヲタクのキス体験者は、私とミユリ姉様の2人だけ。他に誰に話すって言うの?」
スプーンでスピアを指差すミユリさん。
「確かに」
「OK。じゃドッチから話す?…はいはい。じゃ私からね。マリレとのキスは…もう刺激的だったわ」
「YES。わかるわ。刺激的ょね」
心の底から同意するミユリさん。
「でしょ?2人の細胞が溶け合って熱を帯びる…カラダ中の細胞が喜びで歌い出す感じょね?」
「ねぇスピア。貴女、メマイとかしなかった?」
「したした。考えただけでゾクゾクするわ」
スピアもスプーン1杯のアイスを頬張る。
「池袋時代、カレルに推されてた時には、まーるで想像も出来なかった感覚ょ。何度かキスはしたけど」
「処女喪失の時と比べても、まるで大違い。何か根本的に違うのょね」
「でしょ?ソコが問題なのよ。あんなに素敵なのは私がスーパーヒロインだから?TOがテリィ様だから?」
頭をフル回転させるスピア。
「秋葉原のヲタクは、腐女子を堕落させる天才だから、姉様もスーパーヒロインとはいえ、もっと気をつけなきゃ。ヲタクに人生メチャクチャにされたくないでしょ?」
「貴女は、マリレと別れて悔いはナイの?」
「ナイわ。マリレとは、もうコレ以上つきあっちゃイケナイって思う。所詮、相手はスーパーヒロインでしょ?ヲタクがつきあって上手く行くハズがナイわ…でもね。姉様は大丈夫。テリィたんとつきあっても姉様は傷つかずに済むわ。でも、私はダメ。だって、メッチャ弱虫なテフロン女だから。マリレが逃げ腰になったら、私もサッサと尻尾を巻いちゃった。でも、姉様とテリィたんは…その、何て言うの?心と心が通じ合ってる。きっと、運命の相手同士なのょ」
後に僕の元カノ会の会長を務めるスピアは、ミユリさんの瞳を真っ直ぐ見つめてハッキリと明言スル。
「大丈夫。テリィたんは決してミユリ姉様を裏切らナイ。私にはワカルわ」
第3章 タイムマシンセンターの惨劇
パーツ通りにある"タイムマシンセンター"。個人の博物館ナンだけど、インバウンドで賑わってる。
「ココ、大っ嫌いょ」
大声で文句を逝うエアリ。振り向くインバウンド。
「今なら貴女の気持ちワカルわ。でも、貴女に見せたいモノがアルの。来て。昨日、私にヒエログリフを見せてくれたでしょ?」
「大きな声で言わないで!」
「あ、ごめんなさい。どこかであのヒエログリフを見た気がしてならなかった」
センターに展示されているパネルを指差すリルラ。
「コレがそうょ。南米マチュピチュの遺跡。貴女が見せてくれたヒエログリフと、非常に良く似た象形文字が使われてる」
「何千年も前の超古代、宇宙人が原始人に文明を伝えたって奴ね?でも、このくらいのコトなら、もうとっくに調べたわ。ミステリーサークルと同じで、金儲け主義の人間のでっち上げだわ。全部インチキなのよ」
「待って!貴女が生まれた時空のコトなんだけど!」
大声を出すリルラ。瞬間センターがシンとなるw
「貴女!今なんて言ったの?」
桃色ブレザーの館長がすっ飛んで来る。
「いえ、ちょっと。その、あの、何でもナイわ」
「貴女は…テリィたんとお友達のメイドさんね?」
「え。えぇ、まぁそーカモ」
エアリは天を仰ぐ。館長はリルラに詰め寄る。
「貴女!今の発言はいただけないわ。タイムトラベル研究家の私達にとっては、笑えない冗談ょ」
「そ、そうでした。今後気をつけます」
「私からも、ごめんなさい」
平謝りのリルラ。取り成すエアリ…館長は大きくうなずき腕組みして歩き去る。溜め息をつくリルラ。
「ごめんなさい」
「時間旅行ヲタクの前で少し軽率過ぎるわ!ソレでも首都高ポリスなの?」
「マジごめんなさい。もう絶対にしません」
消え入るような声とは裏腹に思い切り大声が響く!
「きゃー!メイドさんが倒れてる!」
それまでバックヤードで資料整理中だった僕も展示ホールに飛び出す。既にお客が輪になり騒いでる。
「どいて!私は当館の館長です!」
「僕は、単なるバイトです。本職は第3新東京電力のサラリーマン」
「メイドさんが突然倒れてピクピクして…」
マリレ?フロアに四肢を投げ出し痙攣中w
「ミ、ミ、ミユリ姉様を呼んで…」
「大丈夫か?テリィだ。しっかりしろ」
「もぉらめぇぇぇ」
泡を噴き手足を痙攣させるマリレ。館長が叫ぶ。
「誰か…神田消防に電話!救急車を呼んで!」
「大丈夫です、館長」
「テリィたん…もしかして、彼女は先日センターに押し入った強盗ちゃんではナイの?」
余計なコトを良く覚えてるなw
「いいえ。知らない人です。ただ、ヒドい頭痛持ちみたいだから、サングラスをかけて退出させましょう。リルラ、連れ出すのを手伝ってくれ」
「テリィたん…嫌ょ私!良いから放っといて!」
「リルラ!」
怒ってセンターを飛び出すリルラ。立ち竦む僕を古代宇宙人の仮面を被ったインバウンドが取り囲む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ほぼ同時刻。当時、タイムマシンセンター同様パーツ通り沿いにあった御屋敷。メイド長はお仕事中。
「ねぇ!シュガーを詰め替えたら、あと塩と胡椒も一杯かどうかを確認してね!ソレから…」
「メイド長ってマジお仕事大好き人間ょね」
「何とでも逝って。先ず塩と胡椒!」
裏のドアが激しくノックされる。
「ミユリさん!開けてくれ!」
「テリィ様?どうなさったのですか?」
「ソレが…」
僕を見て、瞬間、無邪気な笑顔を見せたミユリさんだったが、秒で気配を察して、スピアを振り向く。
「2人とも手を貸してくれ」
「スピア、来て」
「バックヤードだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤード。
「嫌ょマリレ!大丈夫なの?」
運び込まれたマリレに駆け寄るスピア。
「コレが大丈夫に見える?」
「痙攣してる…どうしちゃったの?エアリ、マリレの意識はアルの?」
「わからないわ。こんなコト初めてだし」
妖精は、明らかに狼狽えている。
「安全な場所が必要なんだ。メイド長、ココに寝かせても良いかな?」
「もちろん。でも、テリィ様。2階のメイド長オフィスの方が安全だと思いますが」
「OK。運ぼう!」
僕とミユリさんでマリレの両肩を抱き抱える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷の2階はメイド長のオフィスだ。
「スゴい高熱だわ。とにかく!熱を下げなきゃ。氷とタオルがいるわ」
「氷は御屋敷のキッチンにあるわ。タオルは浴室から取って来て」
「ROG!」
スピアとエアリが走る。
「テリィ様、何か?」
「ミユリさんも、こんな経験があるの?」
「…ありません」
発掘されたミイラみたいに、目を閉じてウナるマリレのカラダを抱き抱えながら、ミユリさんは逝う。
「マリレが何を逝ってます。マリレ、私ょミユリ!わかる?」
「何かの呪文みたいだな」
「呪文?マリレ、何が逝いたいの?どうして、こんなコトになったの?」
その瞬間、マリレはカッと目を見開き大声で叫ぶ。
「神田リバードッグ!」
再び気を失うマリレ。水の入ったボールを手に立ち竦むスピア。怯えた目をするエアリ。息を呑む僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ケッテンクラートで首都高池袋線を飛ばし、東池袋ジャンクションで降りれば直ぐにトンネル公園だ。
「もうココには来ないで」
ケッテンクラートの前に立ちはだかる黒メイド。
「エリィ」
「マイラブ」
「so sweet」
降り立つ白いメイド服のミユリさんと不思議なやりとり。黒メイドは驚いた様子で目を大きく見開く。
「誰も知らない秘密の呪文をナゼみんな知ってるの?貴女達はいったい何者?もしかして、選ばれし者?」
「そんなのカラオケでみんな歌ってるわ。ソンなコトより神田リバードックと話したいの。今すぐ!」
「白メイド。貴女は、トンネル公園であったコトを誰かに話した。そのコトを神田リバードックはとても怒っている」
頑なに拒むエリィ。
「マリレが死にそうなの。誰が怒ってても関係ないわ。神田リバードッグに会わせて」
「彼女は、テストに落ちた」
「テスト?」
何だソレ?
「期末でもないのに何でテストがあるの?」
「中間テスト。ただ、落ちたと聞いただけょ」
「あのね、知りたいの。どういうコトかキチンと教えて。ソレまで帰らない」
ミユリさんが強敵と悟り、彼女の弱点と思しき僕に矛先を向けるエリィ。やれやれナメられたモンだ。
「お前は神田リバードックの信頼を裏切った。もう許してもらえない。あの方は決して許さないだろう」
「おいおい。許しなんかno thank youだ。ヲタ友が死にかけてる。神田リバーのTOがドッグに会いに来たと伝えろ。今すぐ」
「うっ」
思いがけない反撃にエリィがたじろぐ。野次馬がワラワラと集まって来る。見るとアイヌっぽい姿だ。
「僕のヲタ友の命が危ない。彼女の命を助けられるのは、神田リバードックしかいない」
「ヲタクょ。気の毒だが神田リバードッグは、今は留守だ」
「なら帰るまで待つのみ」
ケッテンクラートの前でミユリさんと腕組み。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
メイド長オフィス。未だ痙攣が続くマリレのオデコに、冷えたタオルを載せて、毛布をかけるエアリ。
スピアが入って来る。
「何してるの?」
「マリレが寒そうだから」
「こんなに熱があるのょ!冷やさなきゃダメ。私が水疱瘡の時なんか、ママは水風呂に入れてくれたわ」
毛布をハギ取るスピア。
「でも、コレは水疱瘡じゃない。そして、マリレは"覚醒"したスーパーヒロインなのょ?」
「そんな…」
「どんな感じ?」
折悪くリルラが顔を出す。
「鍵をかけてって言ったのに!」
「ムダょリルラは鍵の隠し場所を知ってるし」
「スピア。御屋敷の方は大丈夫ょ。コッチで何か手伝う事はナイ?」
一気に頭に血が上るエアリ。吠える。
「ナイわ!マリレの看病は、同じスーパーヒロインである私がします。だから、2人とも出て行って!ヲタクに何が出来るって言うの!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東池袋のトンネル公園。ミユリさんが語り出す。
「マリレと初めて会った日のコト、今でも覚えています。私達が"覚醒"した日の夜でした。満天の星に照らされてアキバの街を歩くと、先ずエアリと出会いました。私達は、何も話さなくても心が通じ合った。そして、2人で歩く内に何か気配を感じたのです」
「ソレがマリレ?」
「YES。マリレは、私達に気づいてたけど、しばらく、様子を伺っていました。やっと姿を現した時には、芳林パークの岩の上に仁王立ちになり、全身でこう語ってました。私はココょ!さぁどーするの?私を仲間に入れなさいって」
苦笑するミユリさん。
「あの子は、他人を信じるのが苦手なのです」
「どーして、その後別々の御屋敷で御給仕するコトになったの?」
「アキバのメイド達がビラ配りをしてる時、エアリは咄嗟に私の手を握りました。アキバでは、私と一緒にいれば安全だと知っていたのです。だから、私はマリレにも手を差し伸べた。でも、マリレは私の手を握らなかった。ホントは握りたかったクセに」
フッと遠い目をするミユリさん。
「3年後に再会スルまで、エアリは毎晩、マリレのコトを思って嘆いていました…テリィ様、どうしました?」
「そんな風に人と別れるなんて、考えるだけで悲しくなるな」
「私も…いつかマリレのようになるんじゃないかとお考えですか」
キッパリ否定するトコロだ。
「違う」
「私も考えました。コレが私達スーパーヒロインの宿命で、ある日、あんな風に突然寿命が来て、死ぬのカモしれないかと」
「あのさ。ミユリさん、僕はソンなコトは微塵も考えてナイから」
ミユリさんは、僕を見上げ微笑む。
「ミユリさん達スーパーヒロインが、将来を不安に思うのも無理はない。確かに、僕達2人の未来には何の保証もない。明日もこうして一緒にいられるかどうかすらワカラナイ。でもさ…」
僕は、ミユリさんの頬を親指で撫でる。されるママにしているミユリさん。僕の瞳をジッと見ている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びメイド長オフィス。やっと眠ったマリレの胸に手を当て、そっと頬を載せるエアリ。泣いている。
「フレンチトースト、焼いたから食べて」
スピアが入って来る。タバスコの瓶を差し出す。
「はい。どーせコレもかけルンでしょ?」
「…ありがとう」
「あのね。私だって心配してるのよ」
うなずくエアリ。
「わかってるわ。でも、私達は、たった3人の仲間なの。誰かが突然いなくなったりしたら」
「大丈夫よ…何?どーしたの?」
「なにゃどやら、なにゃどやら…」
何かをつぶやきながら、再び痙攣を始めるマリレ。
「何かのオマジナイかしら」
「ワカラナイ。このママじゃ自分で自分を傷つけてしまう。ねぇミユリ姉様は何処?」
「マリレ、しっかりして!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おかしいな。誰も出ません」
ミユリさんはスマホをしまう。僕を振り向く。
「…アキバに戻ろう」
決断スルと同時に公園の一角に張られたテントの中で太鼓の音が始まり祈りにも似た言葉が流れ出す。
「なにゃどやら、なにゃどやら…」
「マリレがウナされてた時に口走っていた言葉に似ています」
「あのテントの中だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なにゃどやら、なにゃどやら…」
唸り声をあげ、汗を噴くマリレ。
「ねぇ水を飲ませて」
スピアに逝われ水差しで水を飲ませるエアリ。その瞬間、マリレの脳内でフラッシュバックが起きる!
「ココは何処?砂漠なの?」
北アフリカのトブルク近郊だが、マリレは知る由もナイ。月の砂漠に立って、満天の星空を見上げる。
「あのヒエログリフだわ」
砂上に謎のヒエログリフが描いてアル。星空に輝くVの字に並ぶ五つ星みたいだ。見下ろせばソコに…
人面岩?火星のシドニア平原にアル奴か?
「うううっ!」
「どーしたの、マリレ。しっかり!」
「…シドニア」
汗を噴くマリレ。汗を拭くエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再びトンネル公園。意を決しテントの中をノゾいたら…見なきゃ良かった?上半身裸の老婆がズラリw
「おばーちゃん達が車座になってテントの中でキャンプファイアしてる?何をしてるのでしょう?」
「ワカラナイ。でも、きっとマリレの病気と関係があるハズだ」
「神田リバーのTOょ…」
突然肩を掴まれる。振り向くと神田リバードッグw
「彼女をココに連れて来て。もう時間がナイわ」
第4章 トラベラー達
アキバに戻った僕達がメイド長オフィスに飛び込むとエアリとスピアが呆然と立ち尽くしてる。何だ?
「コ、コレは…いったいどーなってるの?」
「ミユリ姉様。突然、マリレが白いモノを吐き出して…どーしたら良いの?コレって現実?とても信じられないわ。テリィたん!何とか言って」
「コンな時だけ僕?とにかく!とても理解出来ない世界だ。もしかしたら、彼女はモスラ人間で…」
誰も聞いてない。恐らくマリレも聞いてない。何しろ彼女は真っ白な繭の中に埋もれているのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「私が未だ幼女だった頃、ヲトナ達はこのテントの中に住んでいた女子を悪の化身だと考え、その正体を必死に暴こうとしてた。そこで、私は貴女の友人にしたように彼女に"テスト"をした。すると、その女子は直ぐに苦しみ出して倒れた。そして、1分も経たない内に目は白く濁り、高熱を出して苦しみ始めたの」
「神田リバードッグ、ソレはマリレと同じ症状だ」
テントには真っ白な繭が運び込まれてる。僕とメイド達、半裸の老婆達が車座になって繭を取り囲む。
「白メイド。貴女の友人は直ぐには症状が出なかった。だから、見逃してしまったのだ。しかし、テストの後で苦しんでいると聞き、ようやく彼女も"トラベラー"だと気がついた」
「"トラベラー"って呼んでるの?彼女達は、超能力に"覚醒"したスーパーヒロインなのょ?」
「彼女が自分でそう名乗った。自分の時空では、ソレは誰もがごく普通に持つ力で"超能力"などではナイらしい」
スーパーマンと同じ設定だな←
「神田リバードッグ。貴女は"トラベラー"とは親しかったのか?」
「YES。なぜなら、私が、アイヌの儀式により彼女の命を救ったから。しかし、彼女は儀式の後、卑怯にも逃げた」
「逃げた?で、貴女は追ったの?」
うなずく神田リバードッグ。
「モチロンだ。私は、老婆達の言うコトを無視して後を追った。すると"トラベラー"は、このトンネルの中で死にかけていた。彼女は、自分が生きるために私に秘密を打ち明けた。だから、私は彼女の病を癒した」
「と逝うコトは、貴女はマリレの命も癒せる?」
「やってみる。だが、強力な魔法陣で最凶の結界を張る必要がアル。彼女を救うには、大勢のヲタクの力が必要だ」
1歩前に出るスピア。志願兵だ。
「私でも役に立つかしら?ヲタクというか腐女子ナンだけど」
「腐女子は立派なBLヲタクだ。ヲタクには、愛するモノのために廃人になる覚悟がアル。癒しには膨大なエネルギーが必要で、ヲタクの人数は多い方が良い。確実に癒せる」
「スピア、お願い。貴女の力を貸して」
スーパーヒロイン達が頭を下げる。スピアの顔が輝く。
「よしっ!コレで全員がヲタクだ。今こそ魔法陣を囲む時だわ!1人ずつ中央から伸びたラインの端に立って」
「ROG!」
「…魔法陣が光り始めた。逝けるわ…ヲタク達、コレは"トラベラー"が私に託した水晶、彼女が生まれた時空の水晶ょ。この水晶には、不思議な光が宿っている」
神田リバードッグは、僕達に水晶を渡して歩く。
「この水晶は、私達が生まれた時空の鉱物なの?」
「ワカラナイ。その鉱物が何処から来たのかは、誰も知らない。でも、この水晶は貴女達と同じ光を宿している。"トラベラー"は、その光のコトを"アンバランス"と呼んでいた。恐らく、アイヌの儀式で発した高熱が彼女の"アンバランス"を崩したらしい」
「(アンバランスを崩したらバランスして何もかも安定スルから良いのでは?)では、どーすりゃ良いンだ、ドッグ」
心の声を封印して結論を急ぐ僕。
「…ワレワレの持つ光が水晶の持つ"アンバランス"を引き出し、そうすれば、貴女達のヲタ友の"アンバランス"は回復スルだろう」
「でも、ソレに失敗したら?」
「死ぬだろう」
アッサリ直言w
「癒しはリスクを伴う。"アンバランス"は、貴女達のココロやカラダにも影響を与える。正しい"アンバランス"を導かねば"バランス"がヲタクのココロとカラダを変化させ一般人にしてしまう」
「死んだも同然ね…もう話は結構。早く始めて」
「(コレから良いトコロなのに。未だ話し足りないけどマァいいわw)今よりココロを無にして、この器より水を飲むが良い。ヲタ友の命を救うコトのみを強く念じるのだ」
何と水の入った容器は縄文式土器だ。持ち辛い。
「神田リバードッグ。コレは?飲んでもお腹を壊したりしないか?」
「東京水だ。ただし、レタス3コ分の食物繊維が入っている。現代人には欠けているからな」
「ありがたい」
真っ先に飲む僕←
「同じ縄文式土器から同じ水を飲むコトによって気持ちが1つになるのだ」
いよいよ教祖がかってきた神田リバードッグ。マリレを救うためと割り切り、1口飲んでは縄文式土器をエアリへと渡す。1口飲んでスピアに渡る。迷わず飲むスピア。リルラも飲む。そして、最後は…
「…白メイド。貴女は怯えているね。強い不安に恐れ慄いている」
「ミユリさん?」
「ソレは貴女自身の恐怖ではナイ。貴女が大切に思う、誰かの身を案じるが故の恐怖だ。魔法陣から退いて。貴女は"アンバランス"を均衡させる力を持っている」
ミユリさんは…泣き出しそうな顔になる。
「みんな。ごめんなさい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なにゃどやら、なにゃどやら…」
ミユリさん以外の全員が唱和を始め、次第に声は大きくなる。神田リバードッグはスピアの前に立つ。
「貴女もまた怯えている。だが、貴女は白メイドとは違う。故に自分で道を選ぶが良い」
「突然ソンなコトを逝われても」
「スピア。僕の元カノとしての義務を果たせ」
スピアは、繭に包まれたマリレを見下ろしてから瞳を閉じ、呪文の唱和を始める。全員が一心不乱だ。
「なにゃどやら、なにゃどやら…」
繭の下で何かが光り出す。全員が手にした水晶が光り出す。唱和の声が大きくなる。輝きを増す水晶。
「見て!」
繭の下の光は次第に強くなる。やがて、現れたマリレの顔。その唇が微かに動く。フラッシュバック。
「みんな?来てくれたの?」
砂漠で満天の星を見上げてるマリレ。砂に描かれた魔方陣の上に立つ。その端々にみんなが立ってる。
「やぁスピア」
マリレはスピアに歩み寄る。2人のメイドは当然のようにkiss。次にエアリに歩み寄って2人はハグ。
僕とは握手だ。そして…
「ミユリ姉様」
振り向くとミユリさんが微笑んでる。うなずく僕。熱砂の魔法陣の真ん中でマリレが手を差し伸べる。
その先には真っ白な繭に包まれた自分がいる。
「さぁ。その繭を出て来い」
僕が逝うと…いつの間にか子供になった全員が繭を見下ろしてる。繭の中のマリレもまた幼女の姿だ。
「おいでょマリレ」
僕は、幼女になったマリレに手を差し伸べる。僕も少年時代の僕になっている。繭の中の幼女は立ち上がり、差し伸べた僕の手を握る。全てが光り出す。
「テリィたん!」
目の前の繭を破って、メイドが手を伸ばす。その手を握る僕は…現代の僕だ。再びフラッシュバック。
「…みんな?」
「マリレ!マリレなの?」
「おかえり、マリレ」
光の繭の中からマリレが起き上がる。全員が駆け寄って笑顔で囲む。マリレの背中をピシャリと叩く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「遥か遠い時空へ行き、色んなモノを見て来たわ」
「だけど、ココに戻って来れて良かった」
「YES。姉様、私は戻った。みんなの力でね」
ミユリさんを見てうなずくマリレ。ハグ。
「姉様、勝手なコトをしてゴメンナサイ。私、もう
逃げないわ。どんなコトからも」
「そうょマリレ。この時空、このアキバが私達の故郷なのょ」
「YES。みんな、その水晶を私に」
何を思ったか、みんなから集め、未だ微かに光を宿す水晶をトンネルに持ち込み壁を凝視するマリレ。
「この水晶は、ヒエログリフに対応してる」
トンネルの壁に描かれた超古代のヒエログリフ。その要所要所に水晶をハメて逝く。ソコに描かれる…
「コレは…何?何処かの銀河の星図か何か?」
「いいえ。マルチバースの時空波動帯を示す多次元宇宙原図ょ」
「どーしたの?マリレ、貴女は何を知ってるの?」
瞬間、マリレの瞳が白く濁る。
「トンネルの壁に描かれたヒエログリフは、落書きなんかじゃない。マルチバース時空を旅する"もつれジャンプ理論"を数値化した"ゼロ次元スチーム方程式"なの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユリさんのブログ。
"今まで、私はどんな時でも、どんな状況に陥っても、いつも冷静に切り抜けてきた。でも、苦しむマリレを見て、その原因も癒す方法もわからズ、私は、ただただ怯えてしまった。いつか同じコトが私に起きて、テリィ様に突然お別れを逝う時が来たとしても、私は何も出来ないカモしれない…"
「ミユリさん。ちょっち良いかな?」
ミユリさんがベランダにいる時間を狙って、御屋敷の空調用のダクトを伝って"夜這い"をかける僕。
「テリィ様、モチロンです。おかえりなさいませ、御主人様」
「ただいま。ミユリさんの様子を見に来たんだ」
「もう大丈夫です。あの、マリレは?」
マリレは、相棒?のエアリが引き取ったのだ。
「元気みたいだょ」
「そうですか。ソレは良かった」
「でも、僕はダメだ」
驚くミユリさん。
「テリィ様がダメ?何がですか?」
「気づいたんだ。いつまでも、人間同士の恋人のフリをしてても、やっぱり僕達は普通じゃない。次はミユリさんが突然あんなコトになるカモしれない」
「テリィ様。ソレは私のせいですね?私がトンネル公園で狼狽え怯えてしまったから…ごめんなさい。でも、決してそんなつもりではなかったのです」
僕は慎重に言葉を選ぶ。
「突然スーパーヒロインに"覚醒"したミユリさん達が不安な気持ちを持ったのは自然なコトさ。何と逝っても、ミユリさん達は"トラベラー"なのだからね。つまり、僕とミユリさんは"アンバランス"ナンだ。僕達は、身の丈に合ったつきあいをスルべきだ」
目を大きく見開き、チェアに座り込むミユリさん。
「嫌…ソンなコト、逝わないで」
ミユリさんの傍らに座る。
「ミユリさんと初めてkissした夜から、ずっと僕は"アンバランス"だ。ミユリさんといると、僕は全てを忘れてしまう。まるで夢を見ているように現実に目を瞑ってしまうンだ」
「テリィ様。でも、私のテリィ様への気持ちは、夢なんかじゃないわ。私にとって、テリィ様だけが現実なの…kissして。お願い」
「…ダメだ」
kiss顔のミユリさんから1歩身を引く。ミユリさんは息を飲む。その瞳がジワジワ涙目になって逝く。
「現実を見なきゃ。今、僕達は、こうするべきナンだ。お互いの"アンバランス"のために」
「今日までの"アンバランス"は、全て幻だったと逝うの?」
「そうじゃなかったコトを祈ってる」
ミユリさんは、瞬きもせズ僕を凝視。
「こんなの辛過ぎるわ。テリィ様にkissした夜、私は人生で1番幸せな瞬間でした。スーパーヒロインも"覚醒"も関係ナイ。ただただ幸せだったの。でも、それがいきなり1番悲しい日になってしまうなんて。悲し過ぎます」
「ソレが恋をスルってコトなんだ。しばらく、距離をおこう。僕達は、あくまでアイドルと推しの関係だ。恋人同士じゃない」
「…わかりました。テリィ様がソレをお望みならば」
スゴい形相で僕を睨む。ココは戦略的撤退だ。
「そうすべきなのさ。僕も怖いんだよ。ただ…」
「待って」
「え?」
再び空調ダクトを降りて逝く僕に…one kiss。
「忘れないで。このkiss」
「…さよなら」
「さよなら」
そして、僕達は別れる。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"初代ヒロイン"モノです。過去に自分達同様スーパーヒロインに"覚醒"した時空旅行者の痕跡を追う旅の始まりです。
さらに、主人公とヒロインの別れ話を絡ませ、苦手な"女子をふる"シーンも描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、世界中から推し寄せるインバウンドがヲタク要素を洗い流しつつある秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。