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ダルマ男

夕暮れ時に差し掛かった街。オレンジ色の光がビルの窓に反射し、行き交う人々の影を長く引き伸びかせる。


若い女性が買い物袋を下げながら鼻歌混じりに歩いている。


「今日は色々買っちゃったな〜♩晩御飯、何にしようかな〜?」


そんなことを考えながらご機嫌な足取りで進んでいると、ふと背後に冷たい視線を感じる。


「…?」


周囲を見渡しても、周りには行き交う人々の姿だけで怪しい人物の気配はない。安心して再び歩き出したものの、違和感は消えなかった。


そして再び振り返った時、彼女の視点は一点に吸い寄せられた。



「何、あの人…?」




それは道路の真ん中に佇む奇妙な男だった。



"ダルマ男"



そう呼ばざるを得ない異質な男。まるでダルマを模したかのようにずんぐりとした体型、濃い髭が顔の下半分を覆い、左右の目は異様なまでにかっ開いている。


しかし、一番目を引くのはその体勢。


なぜか右足を一歩前に出した状態でピタリと静止しているのだ。


彼女がその異質な存在を確認した時、背筋に"ゾクッ"と悪寒を感じる。


周囲の人々も「何この人…」「何してんだ…?」と小声で囁くが、ダルマ男は微動だにしない。


ただ大きな目で瞬きもせずに女性を見ていた。


"何かおかしい。"


本能的にそう感じた彼女は足早にその場を離れようとする。


だが、その瞬間ーーー


『タッ…タッ…タッ…タッ…』


後ろから足音が聞こえた。


振り返ると先ほどより確実に距離が近づいた位置にダルマ男がいる。今度は左足を前にした状態で静止したまままっすぐとじっと見つめている。


恐怖に駆られた彼女はその場を駆け出した。

買い物の予定も忘れてとにかく安全な場へと走った。


そしてその間も背後からーー


『タッ、タッ、タッ、タッ』


足音がする。


それもどんどんどんどん近づいてくるのがわかる。


『タッタッタッタッタッタッタッタッ』


息を切らしながら無我夢中に走り続ける彼女にバス停に停まっているバスが目に入り、大慌てで飛び乗った。


「た、助かった…」


バスのドアが閉まり、彼女は心底ホッと息をつく。だが、次の瞬間ーー


"ダダダダダッ!!”


窓の外から足音が鳴り響く。慌てて窓を見た彼女は凍りついた。


そこにはダルマ男が、こちらをじっと見つめたまま静止している。走っているバスに並走でもしていたのか、体勢はまさに走ってる最中のソレだった。


徐々に遠ざかっていくが、ダルマ男の見開かれた目はただ彼女をまっすぐに見据えていた。


バスから降りた後も彼女の恐怖は終わらなかった。ダルマ男の存在が気になり、居ても立っても居られないからだ。


するとーー


『タッタッタッタッタッ』


またあの足音だ。遠目で見るとそこには確かに走る大勢で静止しているダルマ男の姿が。


振り変えるたびに彼は現れる。そして見るたびにどんどん近づいてくる。


"もし、追いつかれたら?"


最悪の展開が彼女の頭を埋め尽くす。


「どうしたらいいの…!?」


ついに彼女は自宅のマンションへ駆け込んだ。エレベーターに乗り込み『閉』ボタンを何度も連打する。上昇するエレベーターの中、震える手でバックから部屋の鍵を探す。


自分の部屋に飛び込むと、ドアを閉めて、鍵をかけ、チェーンをかける。


"家の中ならもう安心だ"


"助かったんだ"


安心感に包まれた彼女は疲れを癒すため玄関に背を向けて居間に足を運んだーーー





その瞬間だった。






『ガッシャアアン!!』


玄関から"何かを破壊された"かのような音が響き渡った。恐る恐る振り返るとそこには………





外からドアを強引に破壊して歩みの姿勢で静止しているダルマ男が立っていたーーー




「いやぁあああああああああ!!!!」




その夜、彼女はベッドの中で震えながら、じっと部屋の中まで侵入してきたダルマ男を見続けた。動きはしない。だが一度でも目を閉じれば、その瞬間彼は再び動き出すーーーそれだけは確信していた。


夜が更けるにつれ、疲労と眠気が彼女を蝕んでいく。頭が重くなり、視界がぼやけてくる。



そして、瞼が下りたその瞬間ーーー







ダルマ男は再び動き出した。






〜Fin〜


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