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8話 休日にバッタリ

 それから一週間経った日曜日。


 この二週間で俺と広瀬との関係が変わったことは言うまでもない。


 この関係性が変わったことを示してくれたのがこの一週間だった。


 リアルでも関わるようになったおかげか、広瀬は朝の教室へ入る際、毎回俺に挨拶をするようになった。

 バレないよう俺からも挨拶を返しているが、最近後ろの伊藤くんが不審に思い始めているので、対策を考えなければならない。


 一番の対策法は普通にメッセージで挨拶を交わす、と考えるがそれはそれでなんだか寂しい気もする。


 せっかくリアルで挨拶ができるのにいちいち連絡を取り合うのは……やっぱり不思議な関係だ。


「ああもう、考えてても分からん」


 こういう時は忘れてゲームだ。


 俺は考えるのをやめて、いつもプレイしているゲームを起動しようとすると、


 ――グー。


 お腹が鳴った。


 そういえば起きてから何も口にしていない。

 時刻は昼の13時。


 冷蔵庫を覗いてみるが、何もない。


 しまった。昨日が休日だったせいで食べ物の買い出しを忘れていた。


 俺は最低限、外へ出るのを控えている。

 理由は言うまでもない。


 だが、今日はハンバーガーが食べたい気分だ。


 というわけで、重い足取りでファーストフード店へ。



 やっぱりハンバーガーと言えばチーズバーガーに限る。当然だがテイクアウトで。


 これから家でゲームをしながらゆっくり食すのが至高のひととき。


 そんなことを注文後の待ち時間に考えながら、俺はスマホをいじっていた。


 そんな時、


 ――ヴー。


 スマホが震え、通知が表示された。


『浅野今何してんの』


 相手はもちろん広瀬。


『待ち時間』


『なんの?』


『至高のひとときのための修行時間』


『なにそれ』

『もう待ち時間、関係なくなってんじゃん』


『そんな広瀬は何してんだよ?』


『私は二人のペットを連れて散歩中』


『早乙女さんと白鳥さんね』

『てか、ペットって』


『杏菜がチワワで唯奈ちゃんが猫』


『確かにちょっと想像できるかも』


『だよね』

『あっ』

『私そろそろ着くから』


『おけ』


 やり取りを終了した俺はスマホをポケットへと放り込んだ。


 それにしても、美少女三人組は本当に仲がいいんだな。

 学校では常に一緒にいるのに休日でも一緒に遊ぶなんて……俺には考えられない。


 何せ、この後は帰って一人でまたゲームを――


「むぅー、美波また私たちといるのにスマホいじってるー」

「ごめんって、大事な用事があってさ」

「最近……増えてきてる……」


 聞き覚えのある三人の声が入口方面から聞こえてきた。


 この声はまさか……。


「「あっ」」


 俺の瞳に映っていたのは、先程までやり取りをしていた女の子。

 広瀬美波だった。


 その横にはもちろんペットこと、早乙女さんと白鳥さん。


 広瀬の瞳にも俺と同じく先程やり取りを交わした相手が映っていて、目が合うと同時に硬直してしまった。かくいう俺も。


「あれ? もしかして浅野くん?」


 そんな早乙女さんの声によって俺も広瀬も共に我に返る。


「誰……」

「ごめん、私も誰だか分かんないや」


 白鳥さんが俺を知らないのはともかく、広瀬は即座に状況を把握して知らないフリをしている。

 悲しいけど、今はそれが賢明な判断だと思う。


「二人ともそれは酷いよ! ほら、同じクラスの浅野樹くん!」


 それにしても、まさか早乙女さんに名前を覚えられているとは思っていなかった。

 とりあえず無視するわけにもいかないので、挨拶だけすることに。


「えっと、早乙女さんと白鳥さんと()()()()――こ、こんにちは」


 こういう挨拶は慣れていないので、とりあえずそれっぽい挨拶を。


「うん、こんにちは!」

「ども……」

「…………」


「美波?」


「えっ? う、うん……ども――それじゃ早く注文行こ」

「それ……」


 白鳥さん、広瀬はそれだけ言うと、カウンターの方へ歩いていった。


 白鳥さんが男に素っ気ないのは知っていたが、広瀬のあんな不愛想な態度は初めて見た。

 新鮮さと共に悲しさも少しだけ増す。


「ごめんね浅野くん。ああ見えて二人ともいい子だから!」

「うん、大丈夫」

「それじゃあ私は行くね。また学校で」

「うん、また――」


 そして早乙女さんも二人の後を追っていった。


 俺はその後商品を受け取ると、広瀬たちに一切目を向けず、店を後にした。


 ◇◇◇


 分かっている、広瀬のあれは演技だ。俺たちの関係がバレないための言動。


 分かっているのに。


 あの時の広瀬の目が忘れられない。


 ――お前は友達じゃない。

 ――気安く話しかけるな。


 そう言われているような気がして、心が急速に冷えていく感覚に襲われた。


 分かっているのにこんなことを考えてしまう俺はやはり面倒くさい男だ。


 早く帰ってゲームを――


 ――ヴー。


 一度スマホの震えを認識した瞬間、


 ――ヴーヴーヴー。


 一気に三度も振動した。


 急いでポケットからスマホを抜き出し、通知の正体を確かめる。


『ほんとごめん』

『あれ演技だから』

『浅野』

『勘違いしないでね』


 通知の正体はもちろん広瀬からだ。

 それを見た瞬間に冷えていた心が温かくなった。


『許さん』


 だからこういう軽い冗談も飛ばせた。


『もう』

『えっと』


『ん?』


『その』

『浅野は大切な友達だから』


『うん』


 でも最後だけは冗談を言うことができなかった。


『俺も』

最後までお読み頂きありがとうございます。


平日・午後12時投稿。

休日・午前7時投稿。


投稿はこの時間帯になると思います。


少しでも「面白い!」と感じましたら、ブックマークと★★★★★、よろしくお願いします!

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