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クラスにS級美少女がいるけど、A級美少女と仲良くなった話  作者: 砂糖流


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76話 親

「――――」


 五秒ぐらいだろうか。


 息がしにくい。唇が触れ合う至近距離だから、鼻息に気を遣ってしまう。


 柔らかい感触がいつまでも続く。


 この感触は……二回目だ…………ん? 二回目?


「ちょ、ちょっと待って」


 俺は美波を引き離して、顔を見合わせる。


「何。彼女とのえっちで中断とか有り得ないよ」


「それはごめん……ってか、誤解を生む言い方やめろ」


「誤解なの?」


「じゃないけど……って、そうじゃなくて! 俺たちって今のが初めてだよな?」


 確かに修学旅行の時、頬にキスはされたが口はしたことがなかった。

 何せ俺はファーストキスすらまだだったからだ。


「う、うん。そうだよ〜」


 曖昧な返答に俺は疑問が生じる。


 そこで父さんに会った後の美波を思い出す。美波のキツネサインにまんまと騙された時だ。


 そういえばあの時、俺が『まだ口の方はしてないよな?』と訊いたところ、美波はおかしな反応を見せた。


 つまりは……俺たちは知らぬ間にキスをしていた、ということになる。でも、いつだ?


「なぁ、美波」


「そろそろ暗くなってきたし帰ろっか」


「おい、逃げようとするな。っていうか、まだ全然明るいぞ」


 時刻は昼の二時と言ったところだろうか。


「それよりも……いつした?」


「な、なにを?」


「誤魔化しても無駄。もう全部分かってるから」


 問い詰めると、美波はようやく観念したのか、うんざりしたように話し出す。


「文化祭の時」


 文化祭……俺が保健室で眠っていた時だろう。


 確かに、あの日、目覚めた時なにか違和感があった。その違和感とは、唇だった。


「あの時か……」


「うん。樹がぐっすり眠ってたから、バレずにするならその時かなって思って」


「別にいいけどさ……」


「唇は樹の方からする約束だったのに、破ったね」


「寝てる時にされたら対処不可能だって」


 でも事実、俺は約束を破ってしまった。それも今回を含めると二度も。


 それは俺がウジウジしていて、勇気を出せなかったせいだ。


 それなら今すぐにでも――そう考えていると、


 ――ペチ。


 なぜか、美波のデコピンをお見舞いされた。


「今はだめだよ。他にやらないといけないことがあるでしょ」


 それを聞いて思い出す。


 父さんのことだ。


 美波の存在を父さんに認めてもらう。


 今やるべきことはそれだけだ。


「美波」


「分かってる。私もついていく」


「うん。ありがとう」


「大丈夫」


 その一言で俺の心は落ち着く。


「どうする? 何かお土産とか持ってった方がいいかな?」


 だというのに、美波は最後まで呑気なものだった。



 俺たちは二人で父さんのいる家まで向かう。


 家の扉を開けて、父さんの靴を確認した俺は美波と共に居間へ行く。


 父さんは机にノートパソコンを置いて、何かに打ち込んでいるようだった。


「父さん」


 そんな父さんに声をかけると、父さんはこちらに顔を向け、美波の存在に気づくや否や、一瞬で険しい表情に変わった。


「樹……その子とは――」


 その後、父さんが続けて言おうとしてることは一瞬で分かった。


「ごめん。俺は父さんの言うことには聞けない」


 それでも俺は屈せずに言葉を紡いだ。


 母さんと離婚してから俺は父さんに我儘を一度も言わなかった。無論、心配をかけさせたくなかったから。


 離婚して弱っている父さんに早く元気になってもらいたかったから。


 でも今日は……せめて今日ぐらいは――


 今まで溜め込んでいた不満を全て吐き出すように口を開く。


「俺は今まで学校でずっと独りだった。完全に行動して友達を作らなかった自分に非がある。だから友達ができた時は嬉しかった。始まりは少し歪な形だったけど……彼女さえいてくれればこの寂しさから耐えることができた。色んな友達ができて、一人ぼっちだったことが良かったとさえ思った。だって俺が一人ぼっちじゃなかったら、みんなと出会ってなかったから」


 だから俺は……一人でも我慢できた。


「なのに……どうして父さんは俺をまた一人にしようとするんだ……美波がいなくなれば一人ぼっちだった時の俺に逆戻り。あんなのもう一生経験したくない。確かに父さんの気持ちも理解できる。母さんのことをずっと引きずっているのも分かる。でも……もっと息子の俺のことも考えてよ。俺を一人にしないでよ……早く……家に帰ってきてよ……」


 分かっている。こんな我儘を言っても父さんが帰ってくることはない。


 もう一生……家族と暮らすことはできない。


 こんな自分のことだけしか考えていない我儘……迷惑をかけるだけだ。


「ごめん、父さん。一方的に言っちゃって……やっぱ今の忘れて――俺もう少しだけ外の空気吸ってくるから」


「ちょっとっ、樹っ!」


 俺は逃げるように家を出た。


 結局父さんは最後まで無言だった。


 俺は怖くて父さんの顔を確認することはできなかった。


 怒ってただろうか。それとも悲しんでいたのだろうか。


 俺は本当に親不孝者だ。

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