7話 煽り合い対決
それから俺は広瀬をギャフンと言わせるためのゲームを探すため、店内を彷徨うことに。
「う〜ん、中々いいの見つからないな」
だが、広瀬をボコボコにできそうなゲームは見当たらない。
何せ俺はゲーセンより家庭ゲーム派だからだ。
「おっ、浅野。あれやろうよ」
そう言って広瀬の指さした方向には懐かしの格闘ゲームの台が置いてあった。
「えっ、今時ゲーセンに格ゲーってあるんだ――でもいいの?」
「何が?」
「俺に格ゲーで勝負を挑むなんて命知らずにも程があるけど」
格ゲーなら家庭用ゲーム機でもあるので、昔はよく家でやったものだ。当然一人で。
「あ? 言っとくけど私結構上手いから」
「ふっ、それは楽しみだ」
「舐めやがって……蜂の巣にしてやる」
「いや、格ゲーにマシンガンなんてないから」
「つべこべ言わずに早く反対側座って。後私1P側ね」
「あっ、ずりーぞ! まあいいか。どうせ結果は変わらないし」
「生意気な……」
これで広瀬の俺に対する認識をボッチから師匠の称号に変えてやる。
いざ、汚名返上。いや、別にボッチを汚名と言っているわけではないが。
そんな余計ことを考えつつ両者お金を入れる。
先に喧嘩を売ってきたのは完全に広瀬の方からだった。
ということで俺は初手から秘儀を使うことに。
必殺・下段攻撃。
別名【田植え】。
広瀬を画面の端まで追いやり、そこから後は無数の下段攻撃を繰り出す。
その結果、広瀬は。
「広瀬?」
「…………」
黙り込んでしまった。
さすがに少しやり過ぎてしまったと反省。
到底煽る気にはなれなかった。
「ごめん広瀬。さすがにやり過ぎ――」
「――隙あり」
ボソッと言われたので、何かと思い、自分の画面に目をやると、
俺の愛用キャラが広瀬のキャラの足元で這いずり回っていた。
「やりやがったな……もう許さん」
「本気でかかってこい」
そう言われたのでそこからは、気を抜かずに二人で真剣勝負の対決を繰り広げたのだった。
それから格ゲーをやり始めてからそろそろ30分が経つ、というのに。
「なあ広瀬。もうそろそろ――」
「もう一回」
「はい……」
あれから俺は田植え攻撃を何度も広瀬にお見舞いしてやった。
広瀬の勝利は今のところ初めの一回きりで、その後は俺の秘儀にことごとく粉砕されていった。
その結果、広瀬は自分が勝つまで辞めないという負けず嫌いを露にする羽目に。
まさか広瀬がここまで負けず嫌いとは思わなかった。
よし、ここはわざと負けて――
「あっ、後わざと負けるとか考えてるならもう一戦ね」
「はい……」
この対決は長期戦になりそうだ。
◇◇◇
それから更に30分後。
最終結果は、
19:1で俺の圧勝に終わった。
俺が「また別日やろう」と言うと、広瀬は泣く泣く諦めてくれた。
だが、それでも相当悔しかったのか、そんな広瀬は今現在、拗ねてクレーンゲームで店内の景品を全て取り尽くすと言わんばかりの表情でやけくそにアームとにらめっこしている。
「ごめんって広瀬」
「別に怒ってないからいいよ」
「なら、その震えた手はなんだ。ボタンを潰す気か」
そう言うと、広瀬は我に返ったのか、ボタンから手を離す。
いや、それ無意識だったのかよ。
「それで『別日にやる』って、またここに来んの?」
「まあ、それでもいいけど……俺の家にプレステあるからどうかなって」
「えっ、何それ、誘ってる?」
「勘違いしないでくれ。俺はゲームに誘ってるだけであって――」
「ちなみに親は?」
「……いない、けど……」
「ふ~ん」
「なんだよ」
「なんでもない――でも、そうだね。そん時またリベンジする」
「そうかよ」
「帰ろっか」
「うん」
時刻は19時。
時間的にもキリがいいだろう。
ということで、俺たちは制服ということもあって、店の人に注意される前にゲーセンを後にした。
『今日もこれなんだな』
俺はまたしても、メッセージでやり取りをしながら広瀬の10メートルほど後ろを歩いて、一緒に帰っていた。
果たしてこれを『一緒に帰る』と言えるかは微妙なラインではあるが。
確かにこの時間帯の金曜日は高校生カップルをよく目にする。その中にはわが校の制服もちらほら。
『それより浅野』
前に歩いている広瀬が前方に注意しながらもメッセージを飛ばしてくる。
『なんだ』
『初めての友達とのゲーセンはどうだった?』
『どうって』
『まあ楽しかった』
『ってか「初めて」は余計だ』
『えっ』
『もしかして初めてじゃなかったの?』
『いや』
『初めてだけど』
『そんなこといちいち聞いてくるな』
『ふ』
『ボッチ』
『なんだその「ふ」は』
『鼻で笑ったつもりか』
『ごめん誤字った』
『嘘つけ』
『一文字で誤字るやつがどこにいる』
『ここ』
『なんなら目の前』
『まあ誤字じゃないんだけど』
『次の格ゲー覚えてろよ』
俺たちはゲーセンを出てからも煽り合うという、小学生でも驚くほどの大人げなさに自分でもうんざりする。
だが、同時にこんな関係も悪くないと思った。
『でもさ』
『うん』
『外でのゲームも意外と悪くなかったでしょ?』
『うん……』
『そうだな』
『あっ』
『私こっちだから』
『うん、またな』
『最後に前向いて』
『え』
言われた通り、顔を上げて前にいるであろう広瀬に目を向ける。
店を出た時と比べると少しだけ距離が縮まっている気がしたが、それでも大体7メートル程度と言ったところだろうか。
広瀬はこっちを向いて立っている。
俺はそんな広瀬と目を見合わせる。
だが、広瀬は近づきも、声を出したりもしない。
ただ突っ立っているだけ。
そんな謎の雰囲気に困惑していると、広瀬は最後、声を出さず口だけ動かすように、
「ま・た・ね」
そう口パクをして俺の前から去っていった。
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