69話 プレゼント選び
朝、学校へ向かうため家を出た瞬間、あまりの寒さに身震いを覚える。
今現在の外の気温は、恐らく二桁台を遥かに下回っているだろう。
もうそろそろあれが来てしまう……そう、クリスマスという名のリア充のお楽しみイベント。
正直この季節はずっと嫌いだった。何せ……共に過ごす人もいなかったし、クリスマスになると、途端にゲームをログインする人も激減する。
きっとみんなには共に過ごす大切な人がいたのだろう。でも今年はそんな俺にも……
そう期待するが、
「ねぇ、美波ー。今年のクリスマスは何して過ごす?」
学校に着いて、教室に入ると同時にそんな杏菜さんの声が耳に入ってくる。
思わず俺は耳を傾ける。
「うーん。今年は何しよっか……特に予定もないしねー」
美波が何やら、含みのある言い方で返答する。
そう……クリスマスが近づいてると言うのに、俺は未だ美波との予定を組めてはいなかった。
誘おうにもどう誘えばいいのか分からず……クリスマスまでのタイムリミットは着々と進んでいた。
一体どうしたものか……。
考えながら美波の方を見ていると、二人の会話に唯奈さんが混ざる。
「ならさ……クリスマス……私の家でパーティーしない?」
唯奈さんの提案に杏菜さんが目を輝かせる。
「ユイちゃんの家でパーティー!? 行く行くっ! ねっ、美波も行くよねっ?」
「まぁ……」
 
美波が言い淀みつつ、周りにバレないようこちらに視線を向ける。
「大丈夫……タッツーも誘うつもりだから……」
すると、それに気がついたのか、唯奈さんがそんなことを言った。
ふと、唯奈さんと目が合うと同時に、三人は全員でこちらの方へ歩いてきた。
「アサくん! もちろん行くよね!」
圧が凄い。
「それは……」
返答に困りつつ、一瞬美波に目を向けると、美波は「行こう」と言わんばかりの視線を向けてきたので、
「分かった……でも、それなら――」
◇◇◇
そしてそんな時間も束の間。あっという間にクリスマス二日前。
俺は放課後、ある三人と一緒にデパートへ買い物に来ていた。
その三人とは、
「白鳥さん家マジで楽しみだわ。な? 佐藤も思うよな?」
「田島……お前ここ最近それしか言ってないぞ?」
「いや、だって……中村はどうだよ? って、中村……?」
「S級美少女の家……白鳥唯奈さんの家……」
「ダメだこいつ、聞いてねぇ……」
修学旅行で組んだ班が再結成されていた。
どうして俺たちが四人で買い物に来ているのか……無論、俺たちは唯奈家のクリスマスパーティーに向けて、プレゼントを買いに来たのだ。
クリスマスパーティー当日は、全員でプレゼント交換をする予定らしい。
なので、男女関係なく喜べるプレゼントを選びたいところなのだが……
「ねぇ、浅野くん。このプレゼントいいと思わない?」
中村くんが商品を持ってこちらに向けてくる。
「それって……」
中村くんが手に持っていたのは、ハンドグリップだった。
そう、あの筋トレに使う道具だ。
「それ女の子は喜ばないと思うけど……」
「えっ、そうかな~?」
あまりこういうことは言いたくないけど、中村くんは選ぶセンスがないのかもしれない。
「俺ちょっとあっちの方探してくるわ」
考えていると、佐藤くんがそう言って一人で店の方へ歩いていった。
「じゃあ俺あっち行ってくるわ」
続いて田島くん。
そして最後に、
「やばいっ、漏れそうっ」
中村くんはトイレへ駈け込んでいった。
そうして一人取り残されてしまった俺。一体なんのために四人で来たのか……。
とりあえず、俺も何か探しに行くか。
そうして俺はプレゼントを探すため、一人で店中を回った。
衣服類や文房具類、アクセサリーなども見たのだが……何を買えばいいのか分からない。
何せ、プレゼントを選ぶなんて初めの行為だから、こんなところで優柔不断が発動してしまった。
他の三人は何をプレゼントにするのだろうか……
考えながら、俺は雑貨店を彷徨っていたのだが……ある姿を見つけた俺は店内で硬直する。
俺の視界には、杏菜さんが映っていた。
別にここに杏菜さんがいるのは、驚くようなことではないけど……まさか出くわすとは思っていなかった。
杏菜さんは何をプレゼントにするのか……そんな疑問を抱きつつ俺は杏菜さんに話しかけようと近づいたのだが、
なぜか杏菜さんは商品を選んでおらず、ある何かに目を奪われているように硬直していた。
「杏菜さん?」
試しに話しかけてみると、杏菜さんは我に返り、驚きながらこちらへ目を向ける。
「アサくんっ!? どうしたの? こんな所で、って……そっか、アサくんもプレゼント選びか」
杏菜さんは思い出したように自己解決する。
本当に何を見ていたのか……一瞬、先程杏菜さんが見ていた方へ目を向けると、そこには同い年ぐらいの男の子が一人。
知り合いだろうか?
「何見てたの?」
「えっ? いや、それは…………」
杏菜さんはもう一度同じ方向へ目を向けると、少し間が空いてから、
「多分人違いかな。それよりアサくんは何をプレゼントにするの?」
人違い。俺から見たらそうには見えなかったが、杏菜さんが言うのだからそうなのだろう。
「それがまだ決まってなくてさ。杏菜さんは何をプレゼントに――」
「ダメダメ。プレゼントは当日までのお楽しみなんだから」
確かにそれもそうだ。
「それでも、参考程度になんだけど――」
その後、俺は杏菜さんに相談して、何とかプレゼントを選ぶことができた。
俺が購入したのは無難なハンドクリームに治まったのだった。
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