68話 告白の返事
休日が終わった週明けの学校。
俺は唯奈さんに向かって、
「今日の放課後体育館裏に来てほしい」
一度唯奈さんに言われた言葉をそっくりそのまま口にする。
「……分かった」
唯奈さんは少し不安な表情を見せながらも、受け入れてくれた。
その後の授業中、唯奈さんからの視線を感じながらも、あっという間に放課後になった。
体育館裏で唯奈さんを待っていると、数分程度で唯奈さんが来てくれた。
「今日はごめんね。突然呼び出しちゃって」
「大丈夫……私も前の時呼び出したし……それで話って?」
「えっと、話っていうのは――」
こういうのを長引かせるのは良くない。
心が痛むけど、ハッキリと――俺は唯奈さんに向かって豪快に頭を下げる。
「ごめんっ! 唯奈さんの気持ちは物凄く有難いし嬉しいけど、その気持ちに応えることはできない……」
「…………」
地面を見つめる俺は、顔を上げることはできなかった。
横の体育館から微かに部活動の声出しが聞こえてくる……だが、目の前の唯奈さんの声は一向に聞こえてこない。
本当に目の前に人がいるのかと疑ってしまうほどの長い沈黙が流れる。
すると、大きく息を呑む唯奈さんの呼吸が耳に入り、
「別に……謝らなくてもいいから……」
そう言って唯奈さんは再度呼吸を整えてから、また話し出す。
「返事、いらないって言ったのに……どうして……」
「それは、なんかずるい気がしたから」
要望通り返事をしなかったとしても、唯奈さんは幸せになれない。
「っそ……」
唯奈さんはかすれた声で相槌を打つ。
たまに鼻をすする音も聞こえる。きっと泣いているのだろう。
心が痛むけど、返事をしたことに後悔はない。
同じ過去を辿ったとしても、俺はこの選択肢を取っていたと思う。
「返事ありがとう……でも……それこそ余計なお節介……じゃあ、そういうことだから――」
吐き捨てるように言うと、唯奈さんは逃げるように去っていった。
きっとこれで良かったんだ。
これで後は、
『美波。頼む』
俺はスマホを取り出し、美波にメッセージを飛ばす。
『唯奈さんを慰めてあげて。俺じゃ絶対ダメだから』
『当たり前でしょ』
『もし樹が慰めでもしたら末代まで恨んでやる』
『怖いこと言うなよ』
『でも、それなら尚更任せた』
『うん、任された』
『それと最後に――』
そうして俺はメッセージで美波にある条件を提示した。
1・目いっぱい優しくしてあげること
2・体に触れてあげること
3・触れられるのも許そう
その三つの条件を伝えた。
『約束できる?』
だが、既読はついても美波からの返事は来ない。
さすがにいじめすぎただろうか。
そんなことを考えていると、数秒して、
『いじわる』
そんなメッセージと共に、俺たちはやり取りを終えた。
その後、家に帰った俺は焦燥感に駆られながら美波の連絡を待っていた。
ゲームをするにしても、集中できなくて、ずっとボーっとしていた。
そんな時、
――ヴー。
スマホの振動を感じた瞬間、即座に手に取り、美波とのトーク画面を開く。
『終わったよ』
そんなメッセージを見た瞬間に俺は安堵を覚える。
『そっか』
『良かった』
『何があったか聞かないの?』
『どうやって慰めたのか、とか、何を言われたか、とか』
『聞かないよ』
『さすがにそういうのは野暮なことだって分かってるから』
『よく分かってんじゃん』
『偉いぞ』
『一体何視点なんだよ……』
そんな緩いやり取りを美波と交わし、何とか俺は安心したのだった。
◇◇◇
次の日。
何とか一件落着……とは言っても、昨日俺が唯奈さんと交わした最後の会話は、『余計なお節介』だ。
一体これから彼女とどうやって接すればいいのか……そう思うと同時に、一番悩んでいるのは唯奈さんだと気がつく。
俺が悩んでいればその分、唯奈さんを困らせることになる。そうしないためには……
「おはよう、唯奈さん」
今まで通り接するまでだ。
もし拒絶されたとしても文句は言うまい。それが彼女が選んだ答えなら俺もそれに従うまで。
そう思っていたのだが、
「おは、タッツー」
返ってきたのは、なぜか少しテンションが高めの唯奈さんの声だった。
それになぜか呼び名まで変わっている。
「えっと、唯奈さん?」
「なに」
「こういうこと言うのは良くないかもしれないけど……気まずくないの?」
「タッツーと気まずくなんてならないよ」
いや、どれだけ仲良くしてる人でも、気まずい雰囲気にはなると思うのだが。
「えっとー、野暮なことを聞くけど……もう大丈夫なの?」
「うん……私思ったの……タッツーが美波ちゃんと別れた時にもう一度告ればいいってことに」
この子……普通の顔でとんでもないことを言うな……かなりの爆弾発言だ。
それに何気に俺と美波が付き合ってることもバレてるし……まぁ、だが今までの言動でバレても当然か。
でも少し安心した。
今回で分かったが彼女はかなりメンタルが強い。
そのため、これからの接し方なんて俺が気にするまでもなかった。
それにきっと、俺のこともすぐに諦めてくれるだろう。
一度告白を断られた相手に何度も迫るなんて……そんな物語の中じゃあるまいし、杞憂に終わるだろう。
そうして俺は再度安堵を覚えたのだった。
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