67話 相談
俺は唯奈さんから告白された……はずなのだが、学校での唯奈さんはいつもと変わらずに無表情を貫いていた。
唯一変わったことと言えば、たまに妖艶な笑みを向けられるぐらいだろうか。
告白した後だからか分からないが、唯奈さんは少なからず何かを気にしているように見えた。
大体は自分の気持ちを打ち明けたら、断られたとしてもスッキリするはずだ。
それでも唯奈さんはそんな風には見えなかった。
自分でも分からない見えない何かを気にしている……きっとその原因は、告白の答えだろう。
唯奈さんは自ら、『返事はいらない』と言っていたが、そんなはずはない。本人から聞いたわけではないけど、俺から見たら返事を待っているようにしか見えなかった。
やっぱりこういうのは良くない気がする。
確かに俺は唯奈さんを大切に思っているし、友達としても好きな存在だ。
でも、一人の女性として好きになることはない……何せ、そこには既にある人で埋まっているからだ。
唯奈さんは『返事はいらない』と言っていたけど、それに従って返事を言わないのは……なぜかずるい気がした。
俺が返事しないことにより唯奈さんを縛ってしまう。そんなキープ紛いなことをしても、唯奈さんは幸せにならないし、良からぬ誤解を生みかねない。
唯奈さんの本気の気持ちを俺みたいな奴が弄んでいいわけがない。
だから、俺は返事がいらないと言われたとしても……
「樹」
俺の家のソファでコントローラーを握る美波が名前を呼ぶ。
今日は美波とゲームの約束をしていた休日。
そして今は約束通り、俺の家で格ゲーをしている。
今は美波との時間だが……美波なら真剣に話を聞いてくれる気がする。
だが、そう思うと同時に『勝手に話してもいいのだろうか?』という疑問も露になる。
告白されたこと自体は話すべきなのだろうが、『返事はいらない』と言われたことなどを勝手に話すのは良くない気がした。
とりあえず告白されたことは話そう。
そう考えた俺は、告白のことを話そうと思い口を開いたのだが、
「樹、唯奈ちゃんと何かあったでしょ」
俺が言う前にそんなことを言われてしまった。
「最近樹の様子おかしかったから。それに唯奈ちゃんも最近どこか悩んでる節があったし」
どうやらバレていたらしい。確かに俺は最近、暇があれば唯奈さんのことで悩んでいた気がする。
だから、美波に相談することにまで頭が回らなかった。
「ごめん……」
「なんで謝るの? まずは理由を聞かないと話そうにも話せないから」
それもそうだ。
「実は――唯奈さんに告白された」
「ふ〜ん」
俺はかなり重大なことを話した気がするのだが、美波の反応はなぜか軽かった。
「何も言わないの?」
「私が何を言うの? 別に樹が誰に告白されようが知ったことじゃない」
「ちょっと怒ってる?」
「怒ってない」
美波はそう言うが、どう見ても怒ってるようにしか見えない。
「それで、返事は?」
「……まだ」
「やっぱり」
「やっぱり?」
「唯奈ちゃんから返事はいらないとか何とか言われたんでしょ? どうせ樹のことだし、それで困って返事するか迷ってるって感じかな」
凄い……全てお見通しだ。
「でも今回は私の失態……樹の良さは誰よりも分かってるはずなのに、あの時唯奈ちゃんを樹に任せちゃったから」
あの時、とは、泣いてる唯奈さんを見つけて慰めた時のことだろう。
「ごめん……樹の良さは私にしか分からないと思ってた」
「それ若干俺のこと傷つけてない?」
「ない。だって私が認めた相手だよ?」
一体その自信はどこから湧き出るのか。
でも、
「ごめん……」
俺はもう一度美波に向かって謝った。
「仕方ないよ。感情は本人以外、否定する権利なんてないんだし」
それはそうだ。もちろん俺にだって唯奈さんの気持ちを否定する権利なんてない。
「それで返事はどうするの?」
「それは……断るしかない」
「そっか」
「何も言わないのか?」
「私が何を言うの?」
「いやだって……返事はいらないって言われてるのに、断るのって……」
「そういうことね。でも樹は返事するんでしょ?」
「うん。返事しないのはなんかずるい気がするから……」
「じゃあ私から言うことは何もないよ」
「そうだな」
初めから悩む意味なんてなかった。唯奈さんが勇気を出して気持ちを伝えてくれたんだから、俺はそれに応えるまでだ。
「ありがと美波」
「こちらこそ。相談してくれてありがとね樹」
俺たちはお礼を言い合って、その後は二人でまたゲームを再開した。
でも、その後のゲームはいつもの格ゲーではなく協力ゲームをしたのだった。
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