63話 悩みの涙
五分ほど、杏菜さんと共にボス周回をして、今現在ボスリポップの待機中。
俺はいつも通り、インベントリの整理を行っていた。
果たしてみんなはいつ帰ってくるんだろうか……。
そんな呑気なことを考えていると、
『ねぇ、もしかしてアサくんってさ、美波のこと…………好き?』
近くで、同じくインベントリ整理をしている杏菜さんがそんなことを言った。
「えっ?」
まさか、杏菜さんの口からそんな言葉が出てくるとは思わず、声が漏れる。
『違ったらごめん! でもアサくんを見てると、どうしても気があるようにしか見えなくて』
「えっと、それはいつからそう思うようになったの?」
『思うようになったのは最近、かな』
「そうなんだ……」
『それでどうなの? 好きなの?』
「それは……」
一瞬だけスマホ画面を覗いてみると、美波は楽しそうな表情でゲームをしていた。
『ごめんね! こういうのって無理に訊くのは良くないよね。私こういうの初めてだから……』
「ううん、大丈夫。それにその認識で間違ってないから」
きっと杏菜さんは、美波の言ってた通り恋愛関連のことには疎いのだろう。
でも、まさかそんな杏菜さんから恋愛の話が出てくるとは思わなかった。
杏菜さんは俺が思っている以上に大人なのかもしれない。もしかすると、恋愛すら経験済みなのかも……。
『そっか……なら、私応援するね!』
「う、うん……気持ちだけ受け取っておくよ」
それからしばらくすると四人が戻ってきて、俺たちはその後も六人でゲームをしたのだった。
◇◇◇
そうして次の日。
「おはよ、浅野」
「おはよ、広瀬」
俺たちはいつも通り挨拶を交わしたのだが……
「よっす、浅野」
「おはよ、佐藤くん」
「おはよ! アサくん!」
「うん、おはよう」
昨日の名残なのか、昨日と全く同じメンバーで五人が教室に入ってきた。
美波から聞いた話だと、杏菜さんと登校していたところに道中で佐藤くんたちと遭遇したとのこと。
後ろには当然昨日のメンバー、唯奈さんと田島くんもいたのだが、なぜか二人とも俯いていてどこか様子がおかしかった。
そんな二人のことを疑問に思っていると、田島くん自ら近づいてきて、
「なあ、浅野。白鳥さんってなんかあったの?」
そんなことを耳元で囁かれた。
二人の様子がおかしいのはそういうことらしい。
だが、俺は唯奈さんの様子がおかしいことさえ今知った。
そんな俺が理由を知っているはずもなく……
「ごめん。分かんない」
「そっか……実はさ。今日会った時からずっと話しかけてんのに全部無視されんだよ」
「無視?」
「そうなんだよ。いつもは『話しかけないで』とか、何かしらの罵声を浴びせられるんだけど、今日はずっと無言だったんだよ」
「なるほどね……」
確かにそれは何かあったと考えるべきだろう。
試しに唯奈さんの方に目をやると、唯奈さんは既に席についていて、本を読んでいた。
「一回話しかけてみるよ」
ということで、静かに本を読んでいる唯奈さんに歩み寄り、
「えっと……おはよう。唯奈さん」
慣れない自分からの挨拶をする。
「お、おはよ……タッツー……」
反応はしてくれたものの、
「タッツー?」
「あっ、ごめん間違えた……アッサー」
下の名前が樹、だからタッツーなのだろうか……とか何とか考えていると、あることに気がつく。
それは、
「唯奈さん」
「なに」
「本の向き上下逆さまじゃない?」
「えっ!?」
唯奈さんは驚いた声を上げて、急いで本の向きを直す。
「えっと……これはそういう本だから……」
いや、どういう本だよ、と心の中でツッコミを入れつつ「そっか」と返して俺は田島くんの所へ戻った。
「うん、確かに様子おかしいね」
「だろ!」
きっと何かあったのだろうが、俺たちが安易に足を踏み入れていいとは思えない。
話を聞くぐらいのことはできるが、それがありがた迷惑になる可能性がある分、容易に聞くことはできない。
結局その後、唯奈さんの悩みの原因を見つけることはできずに終わったのだった。
◇◇◇
その日の放課後。
俺は家に即帰宅し、ゲームをしていた。
今日は美波も杏菜さんも用事があるとのことで一人だ。
佐藤くんたちは部活だ。
部活動とは縁遠い俺はこうして一人でゲームをしているのだが、
圧倒的食糧不足だ。
もちろんゲームの中ではなく、現実の話だ。
普段の食料調達は主にネットで行っているのだが、今月はいつもより早く消費してしまった。
やむを得ない。
「たまには外で買い物するか」
ということで重い腰を上げ、スーパーへ。
スーパーに到着し、俺はお菓子や飲み物、食材などを購入し、素早く買い物を終わらせた。
さっさと家に帰ってゲームの続きを――頭を空っぽにさせて重い食料を腕にぶら下げながら歩いていると、ある人の姿が目に入る。
夕暮れの子供が既に家へ帰っている公園のベンチで、真っ白な髪を揺らす一人の女の子。
まだ俺の存在に気づいていない彼女の目からは……一滴の涙がツーと頬を伝う。
「唯奈、さん?」
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